クローズなSNSの時代に改めて注目を集めるeメールニュースレター

確実に届けられる点に改めて注目が集まるeメールニュースレター(写真:ロイター/アフロ)

インターネットの栄枯盛衰の歴史の中で何度となく話題になる「eメール」を活用した「ニュースレター」が、改めてここ数年で注目を集めているようです(国内では「メルマガ」と呼ばれることが多いですが米国を中心にeメールニュースレターと呼ばれることが多いようです)。

閉ざされたインターネットの時代に備え、注目を集めるニュースレター

フェイスブックCEOマーク・ザッカーバーグ氏は3月上旬にプライバシー重視の方向転換を示しました。今までのような開かれた「広場」のようなインターネットではなく、「居間」に例えられるように、暗号化され、プライバシーに配慮した、1対1や少人数でのコミュニケーションの時代に向かうことが予想されています。

公開でシェアをすることで多くの人の眼に触れることを特徴にするSNS全盛の時代を牽引してきたフェイスブックの方向転換、またそうした方向転換を促す昨今の傾向を受け、少なくとも米国のメディアの間ではここ数年でeメールニュースレターの活用に力を入れているようです。ビジネス分野では特に人気が高く、早朝に毎日配信され日常の習慣の一部としてニュース消費する人が多いことから、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、クォーツ、エコノミストなど、数多くの新聞社や出版社が力を入れているようです。ニュースレターの高い開封率とともに、今では広告商品としても魅力的なプロダクトに成長してきていると言えそうです。

参照:[ [https://www.nikkei.com/article/DGXKZO42545880V10C19A3H56A00/ メディアに「メルマガ・ルネサンス」!? 読者との絆、復活の切り札 (3/18 日経MJ 藤村厚夫氏)]]

情熱を持った個人によるニッチなトピックについての情報発信にも最適

ニュースレターを配信しているのはメディア企業だけではありません。個人による、ある特定のテーマに関するニュースを収集して自分なりの視点を添えて配信するニュースレターも次々に誕生しています。背景には以下のような点が挙げられるのではないでしょうか。

  1. 以前にもまして情報、ニュースが溢れていて、専門的な知見、或いは特定のトピックに関する情熱を持った人や組織による視点、選択されたニュースを消費することを望む人が増えていること
  2. ソーシャルメディアのプラットフォームが多様化する中、ツイッターやフェイスブックを全て、常に見ている人は稀であること。また、大手企業や官公庁で勤務している場合などはソーシャルメディアへのアクセスが極めて制限されている場合があること
  3. ニュースレター配信者にとっても決済サービスの選択肢が増え、また読者にとってもオンラインサロンのような有料課金コンテンツに対する支払いへの心理的ハードルが下がっていること

約2年前にあるニュース好きな個人が始めたニュースレターに『What The Fuck Just Happened Today?(一体全体、今日何が起きたのか?)』というものがあります。トランプ政権下で起きる毎日の政治系ニュースを収集し、選別して配信する、というシンプルな内容にもかかわらず、開設後3週間で5万人の購読者の獲得に成功しています。当初は政権発足からの100日間の実験的な個人プロジェクトで始まったものが、実はその後2年を経て今も存続し、読者数は25万人を超えています。更にはポッドキャスト配信、自動的に注目ニュースが更新される公開ブックマークサイト「カレント・ステイタス」など、サービスの幅を拡げ、寄付という形での有料課金も多くの人から受けながら存続していることに驚きます。

参照:配信3週間で5万人が購読、開封率50%のトランプ政権まとめニュースレターの成功の秘密とは?(2017/2/24 拙稿)

有料課金、ポッドキャスト、アクセス解析が出来るプラットフォームの登場

いざ有料eメールニュースレターを配信しようと思った際、こうしたニーズに応えるサービスも新しく登場していることに時代の流れを感じます。以下2つはその中でも注目のサービスです。

Substack(サブスタック)

サブスタックは出版社や個人のライターが配信するeメールニュースレターを編集、配信することを可能にするサービスです。既存サービスで有名なものとしてはmailchimp(メールチンプ)などがありますが、サブスタックの特徴は無料配信に加え有料課金が出来る点にあります。また、先月からは購読者限定のポッドキャスト配信を可能にするサービスのベータ版提供も開始しました。

Revue (レビュー) 

2015年にオランダで誕生したサービスで、同様に簡単にeメールニュースレターの編集や配信、アクセスの管理を行えるプラットフォームを提供しています。保存した注目記事などをドラッグ&ドロップで移動させるだけで簡単にお気に入りの記事をまとめたニュースレターの作成が可能で、有料課金機能も備えています。

以下はRevueの紹介動画

以下は2年前に上記でご紹介した『What The Fuck Just Happened Today?』について取り上げた際に書いた文章の一部です。2年の月日が経ち、改めて自戒とともに、その重要性をお伝えするために引用したいと思います。当時は実験的なプロジェクトとして始まったカイザーさんの取り組みが今では毎日25万人以上の読者に配信され、ポッドキャストもスタートし、多くの人の需要に応える形でフルタイムの仕事として花開いています。個人によるキュレーション活動の可能性を力強く示す事例として、今後も注目していきたいと思います。

■情熱を持った個人によるキュレーション活動の可能性

昨今、メディア、ジャーナリズムをめぐる環境は国内外で大きく揺さぶられている状況にあります。Facebookのニュースフィードにはフェイクニュースなどのセンセーショナルな内容のものがより拡散されてしまう傾向があったり、自分と同じような考えを持った情報を知らず知らずのうちに鵜呑みにしてしまうなどの問題が指摘されています。また、伝統的なジャーナリズムに取り組んできた新聞、雑誌社などが、減少が止まらない広告費や購読費の影響で人的・経済的リソースの減少を余儀なくされている事態も世界的な課題として存在しています。

そんな時にふと思います。もしこのカイザーさんのような人がそれぞれの地域に存在し、その人が情熱を持っているテーマに関して同じようなプロセスでニュースのキュレーション活動をすることで、多くの人に「届くべき情報」がより効果的に届くようになるのではないかと。その結果、適切な形でトラフィックや広告収益が情報源であるニュースサイトにもたらされることが可能になれば、ささやかながらでもメディア環境の健全化につながるのではないかと期待します。

確かに「トランプ大統領」をめぐるニュースは毎日注目度は高いので同じような規模で、同じようなスピードでサイトが成長することは難しいかもしれません。ただ、誠実に、独自の視点や目利き力を持った個人による情報発信が可能になることで、そのトピックが健康、子育て、趣味、地方自治、闘病、災害時の情報、ビジネスなど、幅広い分野での可能性があるのではないかと感じます。