有料購読モデルに特化して話題の米テック系ニュースサイト、ザ・インフォメーションとは

シリコンバレー発のテック系ニュースサイト、ザ・インフォメーションのウェブサイト

設立から5年、広告に依存しない有料購読(サブスクリプション)モデルの可能性にいち早く気づき、今では業界の成功事例として話題になっているニュースサイト「The Information(ザ・インフォメーション)」について、今回はご紹介したいと思います。英語でのサービスになりますが、ニュース・メディア・ビジネスの将来を考える上でも沢山のヒントが盛り込まれていると思われるからです。

元ウォール・ストリート・ジャーナル記者が5年前に設立。広告に依存しない有料購読モデルへの信念と自信

ザ・インフォメーションとは、元ウォール・ストリート・ジャーナルの記者であったジェシカ・レッシン氏が8年間の記者生活を通じたグーグル、フェイスブックなどの取材経験を経て、2013年12月に立ち上げた、有料購読型のテック系ニュースサイトです。設立当時はフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディア経由でニュースを拡散させる、いわゆる「バイラルメディア」に注目が集まっていた時期です。広告に依存しないビジネスモデルとしての有料購読モデルにいち早く注目した点が、5年を経て多くの業界関係者に評価されているようです。米ビジネス雑誌、ファスト・カンパニーはザ・インフォメーションを最も革新的なメディア部門の企業の一つとして評価しているほどです。

月額39ドル(年間399ドル)と、国内の新聞購読費と同じくらい高額の購読料ではありますが、読者数は設立から3年後の2016年末の時点で既に1万人を(84カ国)を超え、現在も順調に読者基盤を広げているようです。30歳以下の若者向けのプラン(年間199ドル)や、4半期ごとの電話会議やリアルイベントへの優先参加権が得られる投資家・エグゼクティブ向けのプラン(年間749ドル)も加え、最近では法人向けのプランも提供しますますビジネスを拡大しています。

もちろんビジネスモデルだけで事業がうまくいくわけではなく、ウォール・ストリート・ジャーナル、ブルームバーグ、フォーブズなどでのジャーナリスト経験のある記者・編集者が現在23名ほど勤務し、数多くの独自記事、スクープを連発しています。その他スタッフ含め合計約40名弱が、サンフランシスコ、ニューヨークに1/3ずつ、その他は香港などアジア地域などに駐在し、カバー領域を拡大しています。

例えばザ・インフォメーション編集部が創刊から過去5年間のテクノロジー業界の動向を振り返った際、以下のような5つの大きなトレンドがある、と先日レポートされていました。最前線での取材を通じて得られた洞察として、注目に値します。

  • ムーアの法則の終焉
  • ネットフリックスによるハリウッドへの攻撃
  • 中国独自のインターネットの成長
  • インターネットの清算の時
  • アマゾンの興隆

引用元:The Tech Industry: 2013 through 2018 (2018/12/1)

読者とのエンゲージメントを高め、有料購読モデルを支える様々な取り組み

ザ・インフォメーションを今回取り上げた理由は読者とのエンゲージメントを高めるための様々な取り組みが興味深く、学べる点が多いと思ったからです。5つのポイントをお伝えしたいと思います。

【1】有料購読者のみが参加できるチャットルーム(Slack)

2年ほど前に購読を始めた時に印象的だったのは、読者限定のスラックチャンネルがあり、オンラインコミュニティ上で新着記事の通知に対してコメントを寄せたり、他の購読者の視点を得ることができます。また、様々なトピックごとのチャンネルが存在し、自由に質問を投稿したり注目の記事やコメントを記者や他の読者と共有することができます。多様な視点からそれぞれの記事がどう読まれているか知ることができ、このネットワークの一員である、というコミュニティ感覚を持つことができます。

【2】毎週金曜日に配信されるポッドキャスト

国内ではあまり話題にはならないポッドキャストですが、米国においては過去1-2年の間にポッドキャストの人気が次第に高まっています。語りかけるようなスタイルのニュース配信スタイルによって、よりパーソナルな読者との関係構築に貢献しているのではないか、とポッドキャストの可能性を感じます。毎週注目記事を執筆した記者がゲスト参加し、見どころや取材の裏話などを臨場感溢れる形で共有してくれます。

【3】カンファレンスコール、購読者限定オフラインイベントの開催

3ヶ月に1回程度の頻度で開催されるゲストを招いた音声のみでのカンファレンスコールではゲストとのトークのみならず、読者からの質問も受け付けることでエンゲージメントを高める工夫がされています。またオフラインイベントはサンフランシスコ、ニューヨーク、香港が中心ではありますが、起業家や投資家など、注目のゲスト登壇者を交えた購読者同士の交流の機会が提供されています。

【4】自社記事以外の注目記事に対する分析・コメントを添えたキュレーション

読者からのリクエストがあり、また反響も大きかったということで始まった「ブリーフィング(Briefing)」というコンテンツがあります。自社提供の独自記事以外に、他媒体の注目記事を厳選し、毎日6〜8本程度、記者が専門的な視点でコメント・分析を提供してくれるサービスです。テクノロジー業界で起きている様々な事象に対して、効率的にこうした俯瞰的な視点を得ることができます。

【5】シンプルで読みやすい形で毎日届けられるメールでのニュースレター

既に当たり前かもしれませんが、洗練された最近のニュースサイトはとても電子メールのニュースレターに力を入れています。平日の夜7時(日本時間では朝9時)にはその日の注目ニュース「ブリーフィング」が配信され、その他にも速報、スクープ記事が都度配信されます。ツイッター、フェイスブックで必ずしも全てのニュースをフォローすることが難しい時にはこうした細やかなメールでのニュースレター配信は非常に効果的と感じられます。

以上、当たり前に見えるかもしれませんが、最近の米国でのニュースサイトが次々と有料購読プランを導入する際、こうした取り組みの多くが新しく導入されていることに気づきます。国内でのメディアビジネス運営、有料購読モデル導入の際に参考にできる点などもあるのではないでしょうか。

次世代のサブスクリプションメディアビジネス育成のための支援プログラム

実際に有料購読モデルによるニュースベンチャーを始めるためのノウハウを惜しみなく提供し、次世代のサブスクリプションメディア起業家育成のためのプログラムが昨年夏に誕生しました。

有料購読モデルを武器に次世代のジャーナリスト育成を目指すアクセラレーションプログラムの様子を描いたドキュメンタリー映画「PRESSED」
有料購読モデルを武器に次世代のジャーナリスト育成を目指すアクセラレーションプログラムの様子を描いたドキュメンタリー映画「PRESSED」

2017年夏に告知スタートした「The Information アクセラレータープログラム」は、既存の寄付金などに頼るプログラムでは長期的に持続可能なビジネスを望むことは難しいことを踏まえ、徹底した有料購読モデルを選抜したニュースルームに対し1年間をかけて伝授する支援プログラムです。

サンフランシスコのオフィスでの集中したブートキャンプ合宿や定期的なオンラインメンタリングを通じノウハウが伝授され、立ち上げ資金としての最低25000ドルの資金援助、更にザ・インフォメーションの既存読者層を活用したプロモーションの支援も提供してもらえます。

2018年1月からの第1期の5組の応募枠に対しては33カ国、31の業界から、180件の応募がありました。先月、アクセラレータープログラムの様子をまとめたドキュメンタリー動画「PRESSED」が公開されましたので実際に様子が視聴可能です(5編:合計約1時間弱程度)。

動画を通じ、ザ・インフォメーションが過去に培ってきたサブスクリプションモデルの可能性対する強い自信と信念が感じられる内容になっています。新しいテクノロジーの導入、そして適切(でかつ少し強気な)価格設定を勧めるアドバイスの様子なども伺い知ることができます。ご興味ある方はぜひご覧になってみてください。

有料購読モデル導入の最先端事例として、今後もおそらく進化を続けていくと思われるザ・インフォメーションの取り組みに、引き続き注目していきたいと思います。