ニッチ分野特化型個人メディアの可能性〜テック業界注目のストラテチェリー(Stratechery)とは

数千人以上が有料購読するテック系ニュースサイト、ストラテチェリー

自分が好きなこと、情熱を持っていることを仕事にすること、そして十分な収益を挙げ、いい意味で社会にインパクトを与えることが出来れば、と考える人は多いのではないでしょうか。そんなことを考える全ての方にぜひ共有したい実践例としてのニュースサイト、ストラテチェリー(Stratechery)のことを今回はご紹介したいと思います。

個人プロジェクトとしてスタートしたニュースサイト、有料購読プラン開始から1年弱で購読者は2,000人に

ストラテチェリーとは、2013年に個人プロジェクトとしてベン・トンプソン 氏によって始められた、テクノロジーとビジネス戦略についての分析を盛り込んだニュースサイトです。アメリカの大学を卒業後台湾で英語講師の経験を約6年、その後米国に帰国してMBAを取得、アップル、マイクロソフト等でプロダクトマネージャーの経験を経て、サイドプロジェクトとして始めたのがきっかけです。

ニュースサイトはその後多くの人に読まれるようになり、途中WordPressを運営するAutomatic社で2013年7月から勤務開始をきっかけに台湾に家族で移住、その後2014年春には専業でサイト運営を開始、同時に有料購読料モデルとしてスタートを切りました。

プロダクトに関するテック系ニュースサイトは既に数多く存在していたものの、ビジネス戦略に関しての深い洞察や分析を含むニュースサイトはあまりなかった、とのことでシリコンバレーで影響力を持つブロガー、起業家、投資家の間で人気になったそうです。有料購読サービス開始後、約半年後の2014年11月には1,000人以上、そして2015年2月の時点で既に2,000人を超える有料購読者の支持を得ることに成功したとのことです。

ストラテチェリーのコンテンツ構成は週に1回、毎週火曜日か水曜日に配信される無料記事1本、そして月10ドル、或いは年間100ドルを支払うことで週に3本、それぞれ約1800文字程度の長文のニュース記事がeメールで届けられ、ウェブ上でも過去の記事をすべて閲覧することが出来ます。その他にも有料購読者のみがアクセス出来るオンラインフォーラムがあり、それぞれの記事に対してのフィードバックなどが活発に寄せられています。更に毎週金曜日には無料コンテンツとして約1時間ほどのポッドキャスト(Exponent)が更新され、誰でも視聴することができます。 ストラテチェリーがカバーする内容は最新のテクノロジートレンドや個別企業の新サービスに対する分析・洞察など、非常に幅広く展開されていて、特徴的な手書きの図も1つのブランディングとして戦略的に採り入れられています。

特徴的な手書きイラストもストラテチェリーを際立たせる1つの戦略
特徴的な手書きイラストもストラテチェリーを際立たせる1つの戦略

画像出典:Stratechery

3年前に比べ労働時間はほぼ同じ、収益は100倍に。過小評価されているインターネットがもたらすスケールの力

この春にはストラテチェリー有料購読プラン開始から3年、約2年前の時点で2,000人を越えていた購読者数はその後のストラテチェリーの知名度が急速に広がっていることもあり、大きく飛躍していることと思います。ただし、今でもベン・トンプソン氏はたった一人でこのサイトを運営しているとのことです。

最近ではシリコンバレーでも屈指のテック系カンファレンス、Code Mediaカンファレンス、そしてドイツで開催された大規模カンファレンス(オンライン・マーケティング・ロックスターズ)などでもプレゼンテーションをして少しずつメインストリームでの注目も集まりつつあるようです。

今年の2月に開催されたCode Media カンファレンスの際にストラテチェリーについて語っている短いアーカイブ動画が公開されています。ビジネスモデルなどを聞かれた後、壇上のモデレータからはこんな質問が投げかけられました。月に10ドルの課金ビジネスもいいけれど、あなたのような実績があれば著名ベンチャーキャピタル会社などで働き、広く社会に認知される知識人として(メアリー・ミーカー氏(クライナー&パーキンス)やベネディクト・エヴァン氏(アンドリーセン・ホロウィッツ)のように)活躍する機会もあり、報酬や待遇、社会的な地位もそちらのほうがいいのではないですか?」と聞かれたのです。

その問いに対するトンプソン氏の回答が気持ちよいくらいにインターネット時代の個人メディアの可能性を示しています。

「人はインターネットがもたらすスケールの力を過小評価していると思います。確かにわたしはニューサイト運営のために一生懸命働いていますが、労働時間は3年前と比べてもほぼ同じです。一方で異なるのは、私の収益が3年前に比べ100倍になっています。毎月10ドルの有料購読費から得られる収益はスケールメリットをとても享受しています。そして、今あなたが挙げたような著名なベンチャーキャピタル会社のアナリストのみなさんはニュースサイトに興味を持ってくれて既に購読してくれています。」

もちろんトンプソン氏が成功したのは彼が卓越したテクノロジー業界のビジネス戦略の分析眼を持っていること、そして変化が激しく、対価を払ってでも専門的な知見を得たい人が多くいるテクノロジー業界のテーマをカバーしているから、という要素はあります。ただ、ニッチなテーマに関して特化した個人メディアの今後を考える上で、ストラテチェリーの事例から学べることは数多くありそうな気がします。

Code Media カンファレンスでのアーカイブ動画(プレゼンテーション全体はこちら