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コロナ禍でもオンラインでつながる地方自治体

一井暁子一般社団法人つながる地域づくり研究所 代表理事
「官民連携まちづくり推進協議会」オンライン会議(参加者撮影)

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、会議の多くが中止もしくは延期されています。

特に、全国から参加者が集まる会議や説明会は、都道府県を越えた人の移動を抑えなければならない今、開催すべきでないと考えられています。

官民連携まちづくり推進協議会は、地方創生において「生涯活躍のまち」づくりに取り組んでいる全国の自治体・地域再生推進法人により構成されており、私は事務局を務めています。

これまで2か月に1回程度、地域の課題解決のための政策の議論や、それぞれの地域の取り組みについての情報交換、あるいは国との意見交換などを行ってきました。

通常であれば、新年度初回の会議を、4月に開催するのが恒例なのですが、全国から集まることに加え、どの自治体も、住民の安全や安心のために、最優先で新型コロナ対策に取り組んでいる中、平時と同じように会を開くわけにはいきません。

一方で、緊急事態宣言が発令されている今だからこそ、最前線である自治体が情報共有や意見交換を行うことも必要ではないか、という声も上がっていました。

そこで、ウェブ会議システムを使って、4月28日、オンラインでの開催に挑戦してみました。

オンライン会議は、9割が「初めて」だったが・・

民間では、以前から活用されているオンラインでの打ち合わせや会議ですが、自治体においてはまだまだ一般的ではなく、今回の会議に参加した自治体・法人も、9割が「オンラインでの会議や打ち合わせは今回が初めてだった」「オンラインでは、少人数での打ち合わせの経験はあるが、大人数での会議は初めてだった」と回答しています(終了後のアンケート結果より。以下同じ)。

逆に言えば、通常業務においては、オンライン会議を導入する必要性が低いため、今回の会議が、取り入れる契機になったと考えられます。

また、「出張する必要がなく、費用や時間の節約になった」「課からの参加人数を限定しなくてよかったので、関係職員が全員参加できた」といった利点も、多くの自治体が挙げていました。

これらは、出張旅費の予算が必ずしも潤沢ではないという実状や、北海道や九州の離島をはじめ、移動コストが高い地域からの参加といった課題が、オンライン開催により解決できることを示しています。

「参加者の顔が、リアルの会議よりよく見えた」「自治体名と出席者名が画像の下に表示されていたので、どなたが発言されているのかが瞬時に分かったのは、普段の会議より良い点」「画面共有で資料を表示しながらの説明が分かりやすかった」など、オンライン会議ならではの利点を、リアルの会議よりも優れたものと感じている回答も多くありました。

こういった感想は、実際にオンライン会議を体験してみて初めて実感できたことであると思われ、新たな手法に対する意識や価値観の変化をもたらしたことが窺えます。

「新しい生活様式」の定着に向けて

もちろん、課題や欠点を挙げる回答もありました。

「発言のタイミングが難しい」「全体の雰囲気や空気はつかみづらかった」といった、オンライン会議特有の課題もあり、運営の工夫は必要です。

何より、パソコンやタブレットといった機材の機能や台数、通信環境については、苦労も多かったようで、各自治体における充実が望まれます。

5月1日に発表された、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議による「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では、「長丁場の対応を前提とした、新しい生活様式の定着が求められる」とされ、「仕事や職場の面においても、基本的な感染対策に加え、テレワーク、時差出勤、テレビ会議など接触機会を削減するための対策は、引き続き重要になる」と述べられています。

自治体のIT環境整備の必要性は、これまでも指摘されてきたところですが、「新しい生活様式」を定着させ、感染拡大を予防するためにも、早期の整備が有効であると考えられます。

さらに、新型コロナウイルス感染症が収束しても、別の感染症の発生や、地震や風水害といった災害が起きる可能性もあります。そういった将来への備えとしても、今から取り組んでいくことが重要ではないでしょうか。

社会全体にとっての価値を生み出す

参加者からは、「こういう状況下で、久しぶりに顔を見ることができて安心した」「これまでリアルで交流を深めてきた関係があるからこそ、オンラインでもコミュニケーションがとりやすいのではないか」といった声も聞かれました。

人と人のつながりの価値が、こんな場面にも表れることに、改めて気付かされる意見でした。

新型コロナウイルスの感染対策として、ウェブ会議システムを活用する試みは、既にいくつかの自治体で始まっています。

例えば、職員採用試験の相談会や、東京に本社を置く企業との連携協定締結式を、オンラインで行った例があります。

自治体議会の委員会のオンライン開催も認められました(総務省による通知)。

こういった個々の自治体の事例が増えていくことも有意義であり、期待していますが、全国から集まった自治体が、協議会のような場を活用して、情報共有や意見交換、国との共創による政策立案に取り組むことで、社会全体にとっての価値を広く生み出していく必要も、あるのではないでしょうか。

従来は、自治体間連携と言えば、近隣の自治体や、同じ都道府県内の自治体との連携が一般的でした。

オンライン会議により、地理的な距離が越えやすくなることで、課題やテーマでつながる場を開きやすくなります。このメリットを活かし、自治体同士や、国と地方自治体、あるいは、地域の内外の民間企業などと共に、地域課題解決や政策立案に取り組んでいく新たな手法を創り出していきたいと思います。

一般社団法人つながる地域づくり研究所 代表理事

1970年生まれ。東京大学法学部中退。地中美術館(香川県直島)、岡山県議会議員などを経て、2013年、ローカル・シンクタンク「一般社団法人つながる地域づくり研究所」(岡山県岡山市)を設立。自治体と民間と住民をつなぎ、地方創生やまちづくりの現場を伴走支援する。「官民連携まちづくり推進協議会」「文化と教育の先端自治体連合」など、共通するテーマに取り組む、全国の自治体団体の事務局も務める。地域や自治体、企業の声を聞き、「しごとコンビニ」や「放課後企業クラブ」などの新たなしくみを生み出している。

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