“不法滞在者”か“難民”か? ~19歳クルド人 日本への告白~

日本への思いを告白する19歳のクルド人青年

日本の義務教育で育ったクルド人青年、19歳の告白

 埼玉県に住む「19歳のクルド人青年」。ここで名前を明かすことはできない。彼は不法滞在者だからだ。名前を明かすことで、入国管理局に目をつけられないか、彼は恐れている。この1年間で、日本に暮らす彼の親族3人が入国管理局の収容施設に収監された。彼は9歳のときにトルコを逃れ来日、それから、小学校、中学校、高校と義務教育を受けた。しかし、難民とは認められず、日本に在留する資格すら与えられない。

 私が彼と出会ったとき、彼は19歳だった。日本に暮らす19歳は、将来について何を考えるのだろう。学生なら、卒業後の就職先を漠然と考えるだろうか。社会人なら、懸命にこなす目の前の仕事が、どんな未来に繋がるのか模索しているかもしれない。進む方向が分からず苦しんでいる人も、恋人といつか家族になりたいと考える人もいるだろう。

 私が出会った19歳のクルド人“難民”も日本人と同じように、手探りしながら自分の将来に向かって生きていた。

まず以下のドキュメンタリー映像をご覧いただきたい。

不法滞在者でも学校に通える日本

 映像を見ていただいた方の中には、クルド人青年が話す流暢な日本語に驚いた人もいるかもしれない。日本では不法滞在者でも学校に通うことができる。在留資格の有無を問わず、外国人の児童も公立校の義務教育が受けられる。何故なのか?文部科学省のホームページに記載されている外国人の生徒を受け入れる意義を以下にまとめた。

『外国人の子供が日本で幸福な生活を実現するためには、日本語や知識・技能の習得が不可欠な条件である。日本人の子供も外国人と共に学ぶことで、国際社会を生きる人間として望ましい態度や能力が育まれる』

 ホームページでは、外国人の生徒が、日本社会の構成員として扱われていた。私は3年ほど在日トルコ系クルド人のコミュニティーを取材している。その中には、高校まで進学する若者たちも多くいた。

“難民2世”の挑戦 

 現在、日本に暮らすクルド人の中で10代の若者はおよそ150人。彼らの親たちはトルコでの迫害や差別から逃れて来たという者がほとんどだ。10代のクルド人はそんな親の元に生まれた「“難民”2世たち」。幼少期に両親と日本に来た者。日本で生まれた者もいる。彼らのほとんどは義務教育を受け、日本人とともに成長し、流暢な日本語を話す。しかし、いくら日本語を上手に話せても在留資格は与えられない。不法滞在者は不法滞在者のままだ。

 だから今、彼らは挑戦している。大学や専門学校を卒業して、日本での在留資格を得るという挑戦だ。在日クルド人の若者の中で、大学や専門学校を卒業した者は、まだ1人もいないという(現在、大学に在学中の若者が1人いる)。もちろん、学校を卒業しても在留資格を得られる保障はどこにもない。しかし、彼らは信じている。「日本に役立つ人間になれば、いつか在留資格を取得することが出来るかもしれない」。映像に登場した19歳の若者は、何度もそう話してくれた。

日本に役立つ人間

 「日本に役立つ人間」とは何だろう?映像に登場したクルド人青年が出した答えは「通訳者」になることだった。クルド語もトルコ語も英語も日本語も話せるようになれば、日本人もクルド人も他の国の人たちも理解し合うことができる。それが彼のたどり着いた「日本に役立つ」生き方だった。言語を学びたいと考え、挑戦した最初の一歩が英語の専門学校への入学。しかし、学校が出した結果は「不合格」だった。

 彼は、万全の準備を進めたはずだと言う。予備校の出席率や卒業した高校からの推薦状、日本語能力試験(N2)の合格、入国管理局からの許可。そして入学金をかき集め、授業料の支払いには、日本人の保証人も立てることができた。しかし、入学は認められなかった。

 クルド人の青年は「入学条件は全て満たしていたのにどうして」と憤った。

入学を認めなかった専門学校

 何故、不合格だったのか。私は専門学校に取材した。広報担当者の回答は「受験生の選考に関する情報は内規で教えることができない」だった。当然だ。

 しかし、しばらくすると学校側は「一般的な選考基準」と断った上で、こう語った。「受験生がどんな立場で日本に滞在しているのか、その在留資格も考慮した上で総合的に選考しています」。もしかしたら、クルド人青年の合否は“彼が不法滞在者であること”と関係が無いのかも知れない。だが、学校側が“不法滞在者”をどう受け入れて良いのか分からず、困惑した可能性もある。

 クルド人青年は、3回も参加したという体験入学の際、学校側の対応はとても親切だったと言っていた。体験授業の最中、在校生が分からない問題をそっと教えてくれた。学校スタッフからは「来年の入学を待っているから」と声をかけられたという。だからこそ、彼はこの専門学校への入学を渇望していた。

 人が「個人」として人に向き合う時、それが外国人であっても私たちのほとんどは悪意無く接する事が出来ると思う。でも、それが「組織」や「社会」「国家」と規模が大きくなるにつれて、人は人に対して優しさを失ってしまうように思う。

日本社会に増加する外国人

 今年、発表された経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の最新(2015年)の外国人移住者統計によると、日本への流入者は約39万人、加盟国中4位となった。多くのメディアが、日本が移民大国になりつつある現状を報じた。また6月には、政府が新たな在留資格を創設し、外国人労働者の受け入れ拡大を図ると発表した。私たちの生活の中に今後どんどん外国人が増えていく。コンビニや駅のホーム、歩道。彼らと行き交う時、私たちは彼らにどんな目を向け、どんなふる舞いをし、どんな言葉をかけるのだろう。そんな小さな関わり合い方が、10年後に彼らがどんな「目」を私たちを向けるのかに繋がってくるのだと思う。

 今年6月、クルド人青年と話しをした。「来年、他の専門学校か大学に入学できなければ、もう進学は諦めようと思います」と言った。彼は10年後、私たち日本人にどんな目を向けるのだろう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の動画企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】