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『おくるみ』はリスク?それとも赤ちゃんが寝るのを助ける?歴史的な経緯を小児科医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

赤ちゃんの『おくるみ(スワドリング)』に関する話題をSNSで見かけるようになりました。

多くはおくるみの『リスク』を指摘されていますし、私もおくるみを勧めていません。

しかし、『昔、おくるみを医師に薦められたし、なんだかよく寝てくれるような気もします』という方もいらっしゃるでしょう。

この、おくるみに対する考え方には歴史が関連していると思われます。そこで今回は、おくるみへの考え方の変遷に関して簡単に解説してみたいと思います。

『おくるみ』が赤ちゃんの睡眠の改善に有効とする研究結果がある

Photo AC
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おくるみは古くから行われている赤ちゃんのケアのひとつですので、さまざまな商品を見かけることもあるでしょう。

そして2005年から2007年に、おくるみは赤ちゃんの『睡眠』『夜泣き』などに有効かもしれないという報告がなされたのです[1][2]。

特に、2005年の米国小児科学会雑誌に報告された研究は、赤ちゃんの眠りを助ける効果があるとして、当時ひろく知られるようになりました[1]。

そこで以前は、すくなからず医療機関でも実施されていたようです。そのような研究結果が注目されていた時期もあり、もしかすると『昔、病院でおくるみをされていた』と思い出される方もいらっしゃるでしょう。

ですので、現在、『おくるみはかえってリスクがある』という話題がひろく知られるようになって『間違った方法だったのか』とご心配される方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、このような歴史的な経緯もあったことをご承知おきいただければと思います。

一方で『おくるみ』が、発育性股関節形成不全という病気の発症リスクになることが明らかとなった

イラストACの素材から筆者作成
イラストACの素材から筆者作成

一方でその頃から、先天性股関節脱臼(現在は、“先天性”よりも“後天的な要素”が強いことがわかり発育性股関節形成不全と名称が変更されています)の発症に関連することも同時に報告が増えました

発育性股関節形成不全とはどういう病気でしょうか?

股関節は、脚の付け根から膝まである大腿骨という骨の頭の部分である大腿骨頭、その大腿骨頭を覆うために足の付根にある臼蓋からできています。

その大腿骨頭が臼蓋から外れたり、ずれてしまう病気です。

おくるみにより、その発育性股関節形成不全が起こりやすいのではないかという研究結果がその当時から報告されており、多くの研究ではっきりしてきたのですね[3][4][5]。

最近さらに、ランダム化比較試験という科学的に認められやすい方法で証明され、おくるみの頻度や期間が、発育性股関節形成不全の発症に関連することが示されています[6]。

現在は、『おくるみ』の利益よりもリスクのほうが大きいと考えられるようになっている

PhotoAC
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このような歴史から、おくるみは睡眠などを改善させる可能性はあるものの、発育性股関節形成不全の発症リスクが重要視されるようになっていると言えるでしょう。

とはいえ、おくるみを短時間使うことを強く否定するものでもないと考えます。

しかし、そのような体勢をとったあとは、発育性股関節形成不全を予防するような『コアラ抱っこ』を積極的にすることも大事だろうと考えています。

コアラ抱っことは、赤ちゃんの脚を広げて保護者さんの体に巻き付けるような抱っこの方法で、発育性股関節形成不全の予防に有効と考えられています[7]。

今回は、『おくるみ』に対する考え方に関し、歴史的な経緯から簡単に解説してみました。この記事がなにかのお役に立つことを願っています。

[1]Pediatrics, 2005; 115: 1307-1311.

[2]Journal of pediatri 2006; 149: 512-517. e512.

[3]Pediatrics, 2007; 120: e1097-1106.

[4]Can Med Assoc J, 1968; 98: 933-945.

[5]Turk J Pediatr, 2007; 49: 290-294.

[6]BMC Pediatr, 2021; 21: 450.

[7]赤ちゃんが股関節脱臼にならないように注意しましょう(日本小児整形外科学会)

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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