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あなたの点眼液、ステロイドではないですか?まずは確認してみましょう

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:イメージマート)

花粉症の季節のつらい症状は、鼻だけでなく、目にも表れてきますよね。

すなわち、目のかゆみ、異物感(ごろごろするなど)、目やにが増えるなどの症状が強くなってきます。

そのような症状に対しては点眼液が使われ、薬効成分として、抗ヒスタミン薬がもっとも利用されています。

しかし、抗ヒスタミン薬だけで効果が不十分な場合、ステロイドを含む点眼液が使用されることがあります。その効果は抗ヒスタミン薬より強く、小児科医である私の外来でも処方を希望されることがあります。

しかし、私は処方することはほぼなく、『ステロイド点眼液が必要な場合は、ご面倒でもぜひ眼科医を受診しましょう。』とお話ししています

患者さんにとっては手間がかかることですよね。でもとても重要なことでもあります。

そこで今回は、ステロイド点眼液を使用する場合は、なぜ眼科に受診する必要性があるのかを簡単に解説しようと思います。

ステロイド点眼液は『眼圧』を上げることがある

写真:アフロ

ステロイド点眼液は1951年から使用されている歴史のある薬です。

そして、早い段階から『眼圧』を上げることが知られていました

眼圧とは、眼の中に満たされている液体により内側から外側へかかっている圧力のことです。その圧力は一定に保たれているのですが、ステロイド点眼液を使用するとその圧力が上がることがあります。

イラストACより(2023年3月13日修正)
イラストACより(2023年3月13日修正)

ステロイド点眼液に反応して眼圧が上がりやすいひとから上がりにくいひとまでいらっしゃることがわかっており、ステロイドで眼圧が上がりやすい方から、高反応性、中等度反応性、低反応性などと名付けられています。

たとえば、かなり眼圧が上がる(6〜15mmHg)中等度反応性の方が29%、とても眼圧が上がる(16mmHg以上)高反応性の方が5%程度いるという研究報告があります[1]。

そしてステロイド点眼液の種類によっても眼圧の上がりやすさに差があることも知られています。

たとえば、ベタメタゾン、デキサメサゾン、プレドニゾロンは、フルオロメトロンと比較して眼圧を上げやすいと考えられていますし、その濃度によっても眼圧の上がりやすさに差があります[2]。

眼圧が上がったままになると視力が下がる可能性がある

写真:イメージマート

眼圧が上がると、視神経が眼球の後ろ側に張られている『網膜』という組織に圧が強くかかることになり、その網膜が傷みます。

網膜は、たとえばプロジェクターでいえばスクリーンにあたるもの、写真で言えばフィルムにあたるものです。

その視神経網膜が傷むと、視力が下がる可能性があり、自然に回復することは基本的にありません。

しかも、ステロイド点眼液による眼圧は『自覚症状なく』上がるため、気がついた時にはもとに戻らない視力の低下が起こることになります。

眼圧が上がりやすい『高反応性』の方を、事前にみわけることは難しい

眼圧が上がりやすい『高反応性』の方を見分けることは難しいのですが、特に10歳未満の子どもは、ステロイド点眼液で眼圧が上がりやすいことがしられています[3]。

ですので、小児科医である私は、処方はしないように心がけています。『予想がつかず、症状もでにくい眼圧上昇』を起こす可能性があるステロイド点眼液は、眼圧を定期的に測定いただける眼科医の先生方に処方していただく必要性があるのです。

なお、鼻の粘膜に直接噴霧するステロイド点鼻薬は、副作用が少なく眼圧を上げる可能性はきわめて低く、さらに鼻だけではなく目の症状にも効果がある製品があります[4]。かかりつけ医に相談してみましょう。『ステロイド』がすべて問題を起こす、という意味ではありませんので念のため…。

まだしばらくはスギ花粉の飛散は続きます。

眼科医の先生方とかかりつけ医の先生に協力いただきつつ、つらい目の症状を乗り越えていかれることを願っています。

【参考文献】

[1]Arch Ophthalmol 1963; 70:492-9.

[2]ENTONI 2019:56-60.

[3]Ophthalmology 1997; 104:2112-6.

[4]Allergy Rhinol (Providence) 2013; 4:e120-6.

※2023年3月13日 眼科医の先生 (https://twitter.com/doctorK1991)にご指摘いただき、文章を修正いたしました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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