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胃腸炎のときに有効な、『飲む点滴』経口補水とは?小児科医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
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例年と同じような胃腸炎の流行期にはいりました。これから、年末年始になるともあり、救急外来の混雑も懸念されます。

感染性胃腸炎の流行状況(東京都 2021-2022年シーズン)http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/gastro/gastro/ より引用
感染性胃腸炎の流行状況(東京都 2021-2022年シーズン)http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/gastro/gastro/ より引用

『胃腸炎で嘔吐や下痢のあるときは水分を飲ませないと』と多くの方が配慮されていることでしょう。

一方で、救急外来などでお話をお聞きしていると、『お茶や水を飲ませています』という方も少なくありません。しかし、これらの水分には糖分や塩分が含まれていないため、低血糖などを起こしている方もいらっしゃいます。

世界的には胃腸炎で亡くなるお子さんはとても多く、2003年の報告では、5歳未満のお子さんが年間200万人近く亡くなっているという推計もあります[1]。

一方で、最近は、『経口補水』が普及してきたことで亡くなる方は減ってきており経口補水で5400万人以上救われたという推計もあります[2]。

経口補水とは、『適切な濃度で塩分と糖分を含んだ水分を、適切な量や頻度で飲ませること』で、『飲む点滴』と呼ばれることもあります。

今回は胃腸炎の際に有効な、経口補水に関して簡単に解説してみたいと思います。

嘔吐が続いていても、できれば経口補水を始めたほうが良い

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『嘔吐がおさまるまで飲んだり食べたりはしていけない』という指導がいまだに見受けられますが、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインには、絶食の期間を3時間から4時間以内にとどめましょうという記載があります[1]。

早めに経口補水を少量からあせらずゆっくりと始めていくと良いわけですね。では少量で頻回にとは具体的にどれくらいでしょう。

5mlずつ、5分ごとに飲むというのが一般的な方法になります。

ペットボトルキャップ一杯は7.5mlぐらいなのでそれを少し少な目の量からということですね。

もちろん状況に応じてその半分から始める方もいらっしゃいますし10mlから始めてはいけないというわけではありませんが、本人が飲みたいように飲ませてしまうとまた嘔吐してしまうので、最初は『5ml 5分おき』と覚えておくと良いでしょう。

嘔吐がおさまってきて、尿がある程度出るような状況になり、脱水が改善してきたら、下痢が続いていても普通の食事に戻すことができます。

普通の食事というのは、例えばご飯とかであれば、おかゆじゃなくてもいいという意味です。もちろん、あまり油や糖分が高いものは避けた方がいいでしょう。

なお、母乳の母乳育児の方に関しては、母乳は続けても良いですし、粉ミルクも薄めず飲ませて構いません。

点滴と経口補水の効果はかわらないという研究結果も

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嘔吐や下痢があると点滴をしてほしいという気持ちがでてくることもあるでしょう。

しかし、点滴は痛い針を静脈に刺すことになります。

そして、その点滴が漏れてしまうとか、それが抜けてしまったりとか、静脈の炎症につながる可能性が2.5%あるという研究結果もあります[3]。

そして、経口補水と点滴による輸液に関しては、胃腸炎による嘔吐や下痢が原因の脱水を予防する効果は変わらないという研究もあるのです[3]。

ですので、点滴のリスクを減らし、脱水を同じぐらい予防する経口補水はとても良い方法といえるでしょう。

もちろん経口補水に関して脱水を100%予防できるわけではなく、25人に1人ぐらい、点滴が必要になるとされています[4]。でも、95%以上の方が、痛い思いをせずに経口補水でクリアできるともいえます。

スポーツドリンクは、経口補水液の代わりにはならない

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一般的なスポーツドリンクとは、あくまで汗をかいたときの水分補給用として作られたものです。ですので、下痢のときとか胃腸炎のときのときに使用するには塩分濃度が少なかったりとか糖分濃度が高かったりして実はあまり向いていません。

市販の経口補水液はさまざまありますので、今のうちに買い揃えておいてもいいかもしれませんね。

また、経口補水液は手作りをすることもできます。

例えば湯冷ましを1Lに、砂糖を30g(おおさじ3杯こさじ6杯)と食塩3g(こさじ2分の1)を混ぜ、100%のオレンジジュースやレモン果汁をおおさじ1~2杯(15~30ml)混ぜると市販されている経口補水とだいたい同じようなものができます

イラストACより筆者作成(2022/8/20修正)
イラストACより筆者作成(2022/8/20修正)

ただし手作りの場合は保存が効きませんので、作りおきは避けてくださいね。

ただし、経口補水液はやや飲みにくいものです。

脱水が軽度であれば、100%のリンゴジュースを経口補水液と1:1で混ぜても、軽症の場合は同じぐらい効果があったという報告があります。もちろん、何時間がんばっても水分が取りにくく嘔吐を繰り返す場合は、受診された方がいいでしょう。

さいごに

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嘔吐している子どもさんに飲ませることは、大変ですよね。

でも、一般的なウイルス性胃腸炎の嘔吐に対し経口補水を丁寧に実施していただくと、多くの場合は数時間ぐらいで嘔吐がおさまってきます。痛い点滴をせずに、ご家族で苦しい状況を乗り越えたという経験は、きっと次に活かせるのではないでしょうか。

もちろん嘔吐がなかなかおさまらなくて難しい状況であれば、医療機関を受診していただければと思います。脱水の状況などを確認させていただいたうえで必要であればもちろん点滴などを医師からもすすめていただけるでしょう。

胃腸炎の流行しているいま、この記事が、なにかのお役にたつことを願っています。

※2021/12/26 14:15 経口補水液の作成方法の参考スライドを追加しました。

→2022/8/20 ご指摘を受けて、文章・スライドを修正いたしました。ご指摘ありがとうございました。

[1]King CK, Glass R, Bresee JS, Duggan C. Managing acute gastroenteritis among children: oral rehydration, maintenance, and nutritional therapy. MMWR Recomm Rep 2003; 52:1-16.

[2]Nalin DR, Cash RA. 50 years of oral rehydration therapy: the solution is still simple. Lancet 2018; 392:536-8.

[3]Hartling L, Bellemare S, Wiebe N, Russell K, Klassen TP, Craig W. Oral versus intravenous rehydration for treating dehydration due to gastroenteritis in children. Cochrane Database Syst Rev 2006; 2006:Cd004390.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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