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流行し始めた手足口病で爪が取れる?原因ウイルスはひとつだけじゃない?小児科医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(提供:イメージマート)

昨年流行しなかった手足口病が流行し始めたという報道がありました[1]。

特に九州などでは本格的な流行にはいっており[2]、東京でも、すこしずつ増加傾向になってきています[3]。

東京での手足口病の流行状況(東京都感染症情報センター(文献3)
東京での手足口病の流行状況(東京都感染症情報センター(文献3)

手足口病は、手や足、口などに発疹が出るウイルス性の夏風邪のひとつで、例年は、夏から秋にかけて流行します。しかし、晩秋の今、流行が開始になったことになります。

手足口病の原因になるウイルスにはさまざまあり、そのウイルスごとに特徴があります。

そして小児科医は、今年はどの型の手足口病のウイルスが流行しているのかを考えながら診療しています。

そこで今回は、その手足口病のウイルスごとの違いを中心に、簡単に解説してみたいと思います。

手足口病の原因といえば『コクサッキーウイルスA16型』というウイルスが中心だった

提供:sashimi/イメージマート

手足口病は5歳未満の子どもの発症が多く、通常3日から6日間の潜伏期を経て手のひらとか足の裏とか口に、2mmから3mmぐらいの水疱(水ぶくれ)ができるという症状が典型的です。

そして、数日程度で喉の痛みが楽になり、園や学校を再開できるようになります。

かつては、そんな典型的な経過をとる『コクサッキーウイルスA16型』が手足口病の原因ウイルスとして多かったのです[4][5]。

『エンテロウイルス71型』は、髄膜炎や脳炎を起こしやすい

提供:イメージマート

そして、エンテロウイルス71型という型の手足口病の流行も見られるようになりました。

エンテロウイルス71型は、全体としてはコクサッキーウイルスA16型とそれほど変わらない症状なのですが、ウイルス性の髄膜炎を起こしやすいという特徴を持っています[6]。

髄膜炎とは、髄液にウイルスが侵入して頭痛や嘔吐などを起こす病気です。

脳って、豆腐みたいにやわらかい臓器ですが、そのまま骨の中に収めていると傷んでしまいます。ですので、豆腐のように水に浮かべるという構造になっていて、その水にあたるものが髄液です。

そのエンテロウイルス71型は、コクサッキーウイルスA16 型よりも髄液に侵入しやすい性質を持っているのです。

つまり、手足口病による髄膜炎が多い場合は、小児科医はエンテロウイルス71型を警戒するということになります。

手足口だけでなく、他の場所にも派手な水疱をだしたり、場合によっては爪がとれてしまう症状を起こす『コクサッキーウイルスA6型』

そして最近になって、コクサッキーウイルスA6型というウイルスによる手足口病が流行するシーズンがみられるようになりました。

コクサッキーウイルスA6型は、今までの手足口病に比べて発疹の様子が異なります。手のひらとか足の裏だけではなく、腕や脚、お尻やお腹、背中などにも、今までの手足口病であまり見たことがないような大きな水疱をつくる場合があるのです[7]。

つまり、見た目が今までの手足口病とは異なり、水痘(水ぼうそう)や伝染性軟属腫(水いぼ)、カポジ水痘様発疹症(ヘルペスウィルスによる重症の皮疹)といった、別の病気に似たたような外観になることもあります。

しかもコクサッキーウイルスA6型による手足口病は、派手な発疹が治まった頃に、爪が取れてしまうという『爪甲脱落症』といった症状を起こす方もいます

文献7より。爪甲脱落症。
文献7より。爪甲脱落症。

簡単にまとめると、こんな感じですね。

コクサッキーウイルスA16型:従来の典型的な『手足口病』の原因ウイルス。

エンテロウイルス71型:髄膜炎や脳炎を起こしやすい。

コクサッキーウイルスA6型:大きな水疱を手足の先だけでなく他の場所にもたくさん出したり、爪がとれてしまったりすることもある。

つまり小児科医の頭の中では、手足口病がどんなウイルスが原因になっているかを想像しながら捉えているのです。

なお今シーズンは、今のところコクサッキーウイルスA16型やコクサッキーウイルスA6型の割合が多いようです[8]。

つまり、典型的な手足口病の水疱だけではない可能性がありますので、留意が必要だということです。

手足口病に関しては特別な治療はなく、対症療法になります

イラストAC
イラストAC

手足口病には、直接有効な抗ウイルス薬はありません

つまり症状がおさまるまでの症状に対応していくという対症療法が基本です。

喉に痛みが少なくなるようなのど越しのいいようなものを食べたり、場合によって痛み止めを使ったりします。

どうしても水分取れないという場合や、もちろん髄膜炎といった重症化している場合は入院もしくは点滴が必要な場合があります。

手足口病のウイルスは、便の中に2から4週間ぐらい長期に排泄されるとされています。ですので、お子さんの便の処理などの処理を丁寧に、手洗いをきちんとしておき、食器類の共用をしないとなどはしないように配慮しましょう。

なお、手足口病の原因ウイルスはエンベローブという脂質の膜を持ちません。ですので、アルコールによる消毒は無効です。

さて今回は、手足口病に関して簡単に解説しました。

さまざまな感染症がまた流行し始めていますが、適切に対処しながら、医師にも相談しつつ過ごしてまいりましょう。

[1]手足口病、季節外れの流行 新型コロナも影響か(2021年11月20日アクセス)

[2]感染症予防接種ナビ(2021年11月20日アクセス)

[3]手足口病の流行状況(東京都感染症情報センター)(2021年11月20日アクセス)

[4]手足口病に関するQ&A(厚生労働省)(2021年11月20日アクセス)

[5] Froeschle JE, et al.American Journal of Diseases of Children 1967; 114:278-83.

[6]Fujimoto T, et al. Microbiology and immunology 2002; 46:621-7.

[7]Wei SH, et al. BMC Infect Dis 2011; 11:346.

[8] 病原微生物検出情報Infectious Agents Surveillance Report(国立感染症研究所)(2021年11月20日アクセス)

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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