ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を抑える薬として有用な薬です。

しかし、『同じ場所に』『毎日』続けて使っていると、『塗り続けている箇所に』副作用を起こすリスクが高くなってきます

ですので多くの医師は、ステロイド外用薬の強さを考慮しながら、使用する頻度や期間をお話しすることを心がけているでしょう。

とくに、ステロイド外用薬の吸収率が高い顔面に対しては、慎重に計画しながら減量・中止を考えていきます。ステロイドの吸収率は、腕の内側のよりも頬の吸収率が13倍あるのです[1]。

では具体的には、顔面に長期にステロイド外用薬を毎日使用し続けているとどんな副作用が起こりやすいのでしょうか?

ステロイド外用薬の作用と副作用とは?

イラストACより
イラストACより

ステロイド外用薬の『作用(副作用ではありません)』には様々なものがありますが、そのうちの一つに、ステロイド外用薬を塗った皮膚に近い細い血管を収縮させる作用があります。

皮膚に『炎症』が起こっていると、その部分が赤く見えますね。

なぜなら体は、炎症のあるところの血管を膨らませ、免疫細胞を送り込もうとしているからです。そして、集まった免疫細胞は、お互いに連絡を取り合いながら炎症を治めようとしているのですが、しばしばその炎症はいきすぎてしまい、さらに炎症はひどくなっていくのです。

ステロイドは、そのいきすぎた免疫細胞の連絡を取り合う作用を弱め、血管を収縮させる作用があるのです。

しかし、長いあいだ同じ箇所に、とくにステロイドの吸収率がよい顔面にステロイドを塗り続けると、その毛細血管が破綻して『あから顔』になることがあります

これがさらに進むと、『酒さ様皮膚炎』という状態になっていきます。

『酒さ様皮膚炎』とその治療とは?

イラストACより
イラストACより

ステロイド外用薬を長期間使って酒さ様皮膚炎を起こした場合、ステロイド外用薬を突然中止すると、急激に悪化するケースがでてきます[2]。

ですので、酒さ様皮膚炎が起こった場合は、ステロイド外用薬を減量していく必要があるのですが、その症状を乗り越えることは辛いものになります。ですので、酒さ様皮膚炎を起こさないように、慎重な使い方や炎症を抑える他の薬を考えていきます(詳しくは後述します)。

実は、この酒さ様皮膚炎が多く起こった時代があり、このテーマでお話しするには、ステロイド外用薬の歴史から始めなければなりません。

ステロイドは最初、『からだ全体に使用する薬剤』として、1948年に臨床ではじめて、慢性関節リウマチという病気に使用されました。

とても大きな効果があったのですが、慢性関節リウマチは長期に内服する必要がある病気であったため副作用も大きかったのです。

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

ですので、『目標になる場所にのみ』ステロイドを使うという方法が使われるようになりました。

たとえば、

気管支喘息であれば、炎症のある気管支に吸入薬を。

アレルギー性鼻炎であれば、炎症のある鼻の粘膜に点鼻薬を。

そして、

アトピー性皮膚炎であれば、炎症のある皮膚へ外用薬を。

イラストACより筆者作成
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1953年には国内初のステロイド外用薬が臨床で使えるようになり、1978年には5段階に強さが分類されているステロイド外用薬がそろいました。

さらに、1970年代には市販薬としてステロイド外用薬が使えるようになったのです。

しかし、内服薬のような副作用はほとんど起こらないものの、ステロイド外用薬に副作用がないわけではありませんでした。

とくに、市販薬がではじめたころに問題がでてきたのです。

さきほど、ステロイドは炎症を抑えたり、血管を縮ませたりする作用があるというお話をしましたね。

すなわち、皮膚は一時的に、『炎症のない色白肌』になるので、たとえば化粧の下地に用いる方もでてきたのです[3]。そして、外用薬なら大丈夫、と漫然と処方した医師もいたかもしれません。

そしてステロイド外用薬の副作用が注目されるようになり、酒さ様皮膚炎は問題となりました[4]。

必要な場合にステロイド外用薬を避けて悪化が強くなると、弊害も大きくなる

そのころから、ステロイド外用薬をつよく批判する報道なども増え、ステロイドを強く避ける気持ちが強い『ステロイド忌避』の方も多くなったのです。

これらの歴史から考えると、そのことは十分理解できることです。ですので、ステロイドに強い不安を抱く方々に問題があるとは、私は考えていません。

しかし、皮膚の炎症をそのままにして、ステロイド外用薬を使用せずにアトピー性皮膚炎が大きく悪化すると様々な問題が起こります。

乳児期の顔の湿疹は、その後の食物アレルギーのリスクを高めますし[5]、白内障(眼球のレンズが曇る)や網膜剥離(眼球の裏側にある“光を投影するスクリーンにあたるもの”が剥がれる)が多く発症したり[6]、成長障害などをきたす子どももでてきたのです[7][8]。

そのような混乱を、いかに改善させるかを考えなければならない時代があったということです。

より根拠のあるスタンダードな治療を広める動きと、ステロイド外用薬の欠点を補うような治療薬が登場しています

イラストACより筆者作成
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そのような時代背景から、2000年にアトピー性皮膚炎の治療に関するガイドラインが発刊され標準治療を周知しようとする努力が、医療者のなかからも活発になり、現在もその努力が続けられています。

そして、ステロイド外用薬を『皮膚が安定させたあとゆっくり回数を減らしていきながら減量して中止をめざす』という、副作用を軽くしながら改善を望める『プロアクティブ療法』が2000年前後から広く行われるようになってきました[9][10]。

そして、さらに追い風になったことがあります。

ステロイド外用薬のような副作用を起こしにくい外用薬が処方できるようになってきたのです。

たとえばタクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏と呼ばれる治療薬です。

タクロリムス軟膏は、2歳以上の子どもでも2003年に、デルゴシチニブ軟膏は2歳以上の子どもでも2021年になって使用できるようになりました。

これらの薬剤は酒さ様皮膚炎を起こしにくく、顔面のアトピー性皮膚炎の治療を、大きく改善させたのです。

酒さ様皮膚炎の治療は、ステロイド外用薬の中止です。

しかし、前に書いたように、急にステロイド外用薬を中止すると、多くの方が大きく悪化します。患者さんの苦しみはとても大きなものです。

ですので、その辛さを軽減するために、考えながらステロイド外用薬の減量を試みます。

そして現在は、タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏などの助けをかりることができます(酒さ様皮膚炎の治療はこれらだけではありませんが、少々クセのある薬も含まれますので専門医にご相談ください)。

繰り返しますが、ステロイド外用薬は、とくに顔面に長く使用する必要がある場合は、減量までの道筋に対する説明が必要な薬です。

これらの説明を省略することは、車の免許をもたない方に車の鍵を渡して運転してくださいというようなものです。私も、そのことを忘れないように努めています。

コロナ禍で、患者さんも、医療者も、大変な状況かと思います。

しかし酒さ様皮膚炎は、長く苦しまれた後に受診され、治療にも大変な思いをされることを、いまだに経験する病態です。

とくに顔の湿疹に関しては、可能な限り定期的に診察をし、患者さんも、医療者も、ステロイド外用薬の減量・中止、そして新規の治療薬の併用を考えながら計画的な治療を行っていくことが望まれます。

この記事が、顔の湿疹の治療に対する理解を深め、患者さんと医療者の相互理解にわずかでも役立つことを願っています。

[1]J Invest Dermatol 1967; 48:181-3.

[2]Nepal Journal of Dermatology, Venereology & Leprology 2018; 16:12-6.

[3]診断と治療 2011; 99:383-91.

[4]Indian J Dermatol Venereol Leprol 2011; 77(1): 42.

[5]PLoS One 2020; 15:e0240980.

[6]JAMA Ophthalmol 2018; 136:912-8.

[7]アレルギー 2008; 57:853-61.

[8]JAMA dermatology 2015; 151(4): 401-9.

[9]J Allergy Clin Immunol 2014; 133:1615-25 e1.

[10]日本小児アレルギー学会誌 30(1): 91-97, 2016.