5月のはじめに、RSウイルスの流行が始まったようだという記事を公開しました(※1)。

そして現在、RSウイルス感染症が全国的に流行しており、東京でも、近年みられなかったような流行の拡大となっています。

東京都感染症情報センターホームページ※2より引用
東京都感染症情報センターホームページ※2より引用

これは、日本だけで起こっている現象ではないようです。米国南部やオランダなどでも流行が始まっており、CDC(米国疾病対策センター)からは注意喚起がでています(※3)(※4)。

この理由は十分に解明されてはいませんが、米国小児科学会の記事によると、2020年から21年にかけてRSウイルスの流行が抑えられたため、その期間にRSウイルスにさらされていなかった乳児にRSウイルスに罹患するリスクが高まっているのではと述べられています(※5)。

(※1)成人でも入院の原因として注目されるようになったRSウイルス感染症が、現在増加しています

(※2)RSウイルス感染症の流行状況

(※3)Increased Interseasonal Respiratory Syncytial Virus (RSV) Activity in Parts of the Southern United States

(※4)Outbreaks of RS Virus reported in parts of the Netherlands

(※5)CDC advises broader testing for RSV due to regional spikes

RSウイルスは、特に『年齢のひくい子ども』では悪化するリスクが高くなります。

写真:アフロ

RSウイルス感染症は1歳までに7割、2歳までにほぼすべての子どもが1回はかかるという、感染症の原因としてとても多いウイルスです。『はじめての感染』では悪化することが多いのですが、繰り返しかかるうちに、だんだん症状が軽くなっていくことが知られています。

お年寄りで悪化するケースがあるという報告もありますが、一般的に成人の多くは『かぜ』ですみます(※1)。

すなわち、RSウイルス感染症は、特に『はじめて』感染した場合には約4割が下気道まで炎症がひろがることとなり、約10人に1人が入院を要するのです(※6)。

下気道とは、ざっくりいうと『のどより下』、すなわち気管支や肺ということです。

イラストACより筆者作成
イラストACより筆者作成

さらに、とくに年齢の低い子どもは、中耳炎を併発しやすいこともしられています(※6)。

ただし、はじめてRSウイルス感染症にかかった乳児でも、約6割は、「かぜ」の症状で終わるともいえます。『みんなが悪化するわけではない』ということも押さえておきましょう。

そこで、悪化する場合の典型的な経過を承知しておくと心配事が減るかもしれません。

(※6)成相 昭吉.小児内科 2016; 48:1794-7.

RSウイルス感染症の典型的な経過とは?

写真:アフロ

症状はまず発熱・鼻汁からはじまることが多く、2~3日つづきます

このままひどくならずに回復する方も多いのですが、一部の方に4~5日目くらいから下気道の症状、すなわち咳や喘鳴(ぜいぜい、ひゅーひゅーとした呼吸)、陥没呼吸(鎖骨の上のくぼみがぺこぺこするなど)、多呼吸(呼吸が速くなる)などの症状が出てきます。

イラストACと文献※6より筆者作成
イラストACと文献※6より筆者作成

これらの症状に対して特別な治療があるわけではありませんが、鼻水が多くて辛いことがあるので、可能であれば鼻水を吸引してあげると良いでしょう。最近は、電動の鼻水を吸う器械も市販されています。

そして、慢性肺疾患、早産、先天性心疾患、ダウン症、免疫不全、受動喫煙などが悪化の原因になります。これらのリスクの要因がなくとも、特に生後6か月未満であると重症化のリスクがあります。たとえばスペインの報告では、RSウイルス感染症による入院となった子ども390人のうち1歳未満の子どもが83.3%だったとされています(※7)。

もちろん生後1歳以降だから重症化しないという意味ではありませんが、一般的には2歳までに多くの場合、『はじめての感染』は起きています。2回目以降は入院するほどの重篤化は少なくなっていきます。

ただし、この1年ほどRSウイルスの流行がありませんでしたので、1歳以降でも『はじめての感染』が起こりうるかもしれず、留意する必要はあるかもしれません。

(※7)Epidemiology & Infection 2003; 131:867-72.

呼吸の速さや陥没呼吸をどのように見分ければ良い?

写真:アフロ

ここまでの話をまとめると、鼻水や発熱がはじまって3~5日程度経過したときに、呼吸が速くなったり、呼吸が苦しくなったりしていないかを観察する必要性が出てくるということですね。

どのように確認していけばよいのでしょうか。

幼児までは一般に腹式呼吸ですから、乳児を前向きに抱きかかえて腹部を見ながら10秒間で何回呼吸するかを数えます。そして、それを6倍すると1分間あたりの呼吸回数を知ることができます。

その呼吸数が40回を超えると速くなりはじめている、そして60回をこえるととても速いと考えると良いでしょう。そして、息を吸うときに胸骨や鎖骨の上の陥没(凹む)などがあるかなど呼吸の状態を確認します。

比較的簡単に調べることができる『迅速検査』がありますが、注意点もあります

写真:show999/イメージマート

迅速検査とは、インフルエンザの検査のように、綿棒を鼻の奥に差し入れ検査を行うという方法です。陽性の場合はほぼRSウイルスであるといえます。

しかし残念ながらRSウイルスの迅速検査は、外来で行う場合は、『1歳未満のみ』しか保険適用はありません。時々、『園や学校の先生から“検査をしてもらうように”と言われました』と受診される方がいらっしゃいます。

しかし、1歳を超えると外来では保険適用でないためご注意ください。もちろん、入院を要するような悪化をきたした場合は検査が行われるでしょう。

なお、このRSウイルスの流行は、コロナ禍で感染予防に努めていた揺り戻しである可能性もあります。しかし、最終的にはこの大きな波も落ち着いてくるだろうと、私は考えています。

たとえば、集団保育に行き始めたとき、それまでかぜの原因ウイルスにさらされることが少なかったお子さんは、かぜにかかる回数が多くなり、平均して9ヶ月くらい経過してくると、落ち着いてくるという報告があるからです(※8)。

確かにこのRSウイルス感染症の波は、子どもたちにとっても、親御さんにとっても厳しいものですよね。しかし、ゆるやかにもとの状況に戻っていくことを願っています。

ゆっくり、いっしょに頑張っていきましょう。

(※8)BMJ open 2017; 7.