5歳~9歳の子どもの30%がスギ花粉症に 発症リスクを減らす方法は?

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スギ花粉症は増えており、発症する年齢は下がってきています。

花粉症とは、花粉にアレルギーを持っている方が花粉にさらされることで、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・目のかゆみなどが起こるアレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎のことです。

ひとくちに花粉症といっても、アレルギーを起こす花粉はさまざまです。

2014年現在61種類も報告されていて、ざっくり分類すると樹木から飛散する花粉、雑草から飛散する花粉に大きく分けられます(※1)。

樹木花粉ではスギ花粉、雑草花粉ではブタクサが有名ですね。

雑草花粉はあまり遠くには飛ぶことができず、例えばブタクサ花粉の飛散距離は数十m以内と考えられています。そしてスギ花粉の飛散距離は100kmともいわれています(※2)。

ですので、雑草花粉症は、雑草が多く生えている地域に住むと発症しやすくなります。そしてスギ花粉症は、近くにスギ林がなくてもスギ花粉症を発症することになります。

スギ花粉症は子どもでも増えており、たとえば2019年には5歳から9歳の子どものスギ花粉症の有病率が3割に達していることがわかっています。この20年での伸びがすごいですね。

鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会、鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版 [改訂第9版]から筆者作成
鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会、鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版 [改訂第9版]から筆者作成

そして花粉症は、生活の質ばかりか試験の成績も下げる可能性が研究結果で示されています(※3)。

ですので、花粉症の発症を減らすことができればいいですよね。

しかしアレルギー疾患の発症予防は、花粉症に限らず現在進行形の状況です。残念ながら、『アレルギー性鼻炎の発症を予防するすごく効果的な方法はまだ発見されていない』のです。

とはいえ、いま考えられているいくつかの理論や方法もあります。

今回は、その一部をご紹介しましょう。

(※1)日本小児アレルギー学会誌 2019; 33:749-57.

(※2)アレルギー・免疫 2006; 13:1254-7.

(※3) Journal of Allergy and Clinical Immunology 2007; 120:381-7.

『衛生仮説』ってなんでしょう?

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「衛生仮説」は、1989年に英国の疫学者ストラカンが提唱した概念です。

ストラカンは、1958年のある週に生まれた英国の子ども17414人を23年間観察しました。すると、生まれたときの上のきょうだいの数が多いほど花粉症や湿疹が少ないことをつきとめたのです。そしてその理由として、「きょうだいからの感染症が多くなる環境だとアレルギーが少ないのではないか」と推測したのです(※4)。

このアレルギー疾患を予防したメカニズムとして、『微生物が多く存在する環境にいると、その微生物が放出するエンドトキシンという毒素に長くさらされる』ことが理由と考えられています(※5)。

たとえば、あるときフィンランドのある町において、汚水が飲料水に混入してしまい多数の胃腸炎患者さんが発生したという事故が起こり、その後の感作(アレルギー体質を示すIgE抗体をつくること)の状態を観察した研究があります。

すると、1歳未満で汚水にさらされて胃腸炎を発症しなかった場合は、感作するリスクが1/3程度まで下がったとされています(※6)。

しかし、『いやいやそんな無茶な』と思われますよね。

こんな感染リスクを冒せば、亡くなる方も出てくる可能性があります。つまり今のところ、この衛生仮説を活用してアレルギーの発症を減らすことは難しいといえるでしょう(※7)。

(※4)Bmj 1989; 299:1259-60.

(※5)N Engl J Med 2016; 375:411-21.

(※6)Pediatr Allergy Immunol 2019; 30:598-603.

(※7)『衛生仮説』に関しての詳細は、以前のYahoo個人の記事もごらんください

清潔だとアレルギーになりやすい?「インハンド」に登場の「衛生仮説」とは

乳酸菌は花粉症の予防に有効ですか?

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では、CMなどでよく見かける、『乳酸菌』はどうでしょうか?

乳酸菌は、医学的な用語で「プロバイオティクス」の1種です。

プロバイオティクスとは「宿主(この場合は人間です)に有益な効果をもたらす微生物」のことです。メカニズムは十分には分かっていないものの、免疫的な調整をするはたらきがあると考えられています。

プロバイオティクスによるアレルギー疾患の治療に関しては、いくつも研究結果があります。

たとえば、成人のアレルギー性鼻炎患者(平均30.1歳) 152人を、鼻噴霧ステロイド薬による治療を行いながら、プロバイオティクスを内服するグループと内服しないグループにわけて観察したところ、プロバイオティクスを内服しているグループの方が8週間後の症状が軽くなったという結果があります(※8)。

ただし、プロバイオティクスの研究にはどうしても問題点があります。

『どの種類の菌を』『どれくらいの量』『どれくらいの期間』使えばいいかをはっきりさせにくいのです。同じ菌をつかった別の研究では効果がなかったとか、地域によっても効果が異なるんじゃないかという研究結果もでてきていて、まだまだ混沌としているのですね(※9)。

アレルギー疾患の発症予防に関しても同様で、まだ結論を出しにくい状況といえます。

私は、『○○菌のヨーグルトを食べたほうがいいでしょうか?』とか、『○○菌のサプリを飲んでいいですか?』という質問を受けた場合は、『あなたにあっている菌かどうかはわかりませんが、高価でなくて美味しければいいと思いますよ』とお答えすることにしています。

(※8)Laryngoscope 2019; 129:1744-50.

(※9)Alimentary Pharmacology & Therapeutics 2019; 49:1376-84.

舌下免疫療法ってなんでしょう?予防に有効ですか?

最近、スギ花粉の治療として、『舌下免疫療法』が使われるようになっています。

これはスギの成分をふくませたタブレットを、舌の下に毎日1分間置き続けると、だんだんスギ花粉に対するアレルギーが軽くなるという治療法です。

アレルギー性鼻炎のあるひとに免疫療法を続けると、その後の喘息の発症がすくなくなる可能性が高くなるという研究結果もあります(※10)。

つまり、スギ花粉に対する舌下免疫療法はスギ花粉に対するアレルギー自体を改善させるので、もしかすると発症前から使えばスギ花粉症の発症を予防する可能性があります。

しかし、もちろん舌下免疫療法の保険適用はあくまで『治療』に対してで『予防』ではありませんし、舌の下に1分間錠剤をおいておかないといけないので、あまり小さいお子さんだと実施するのが難しいのです。ですので、5歳~9歳には3割に発症してしまうスギ花粉症の予防には使いにくいかもしれません。

(※10)Pediatr Allergy Immunol 2017; 28:18-29.

皮膚を積極的にきれいにすることがアレルギーの発症予防に有効?

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アトピー性皮膚炎を発症した子どもは、その後アレルギー性鼻炎を発症しやすくなることが分かっています(※11)。

なぜかというと、皮膚の湿疹がひどくなってくると皮膚からアレルギー体質が悪化してくるため(経皮感作といいます)と考えられています。

そのため、アレルギー体質をひどくしないためには、アトピー性皮膚炎が悪化しないように(もしくは発症しないように)、積極的に湿疹を治療したほうがいいのではないかと考えられるようになりました(※12)。

実際に、アトピー性皮膚炎を早めに治療すると食物アレルギーの発症が少なくなる可能性を示した研究結果は増えつつあり、大規模な試験が日本で行われている最中です(※13)。

結果が期待されますね。

さて今回は、花粉症の発症を予防できるかという視点から、いくつかの研究をご紹介しました。私もスギ花粉症を持っていて、舌下免疫療法を続けていますが、だいぶん症状が緩和しているように感じています。

とはいえ、治療にくらべ予防に関しての研究はまだまだこれからです。

発症する年齢が下がってきた現在、もっと発症予防に対する研究が進んでくればと願っています。

(※11)Allergy 2000; 55:240-5.

(※12)Annals of Allergy, Asthma & Immunology 2018; 120(2): 145-51.

(※13)Clinical and translational allergy 2018; 8:1-11.

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】