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ステイホームで我が子が便秘?運動と水分に気をつければもとに戻る?小児科医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
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ステイホーム期間のため運動量が減り、さらには気候が暑くなってきて脱水になりやすい時期になりました。

そして救急外来には、腹痛があって受診される子どもが増えていることを実感するようになりました。

実際、運動や水分摂取が少なくなると、便秘の子どもが多くなるという報告があるのです(※1)(※2)。

(※1) Asia Pac J Clin Nutr 2017; 26:118-29.

(※2) J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo) 2019; 65:38-44.

ただでさえ、便秘症である子どもは少なくありません。

世界全体としても9.5%もあるのではないかという研究結果があります(※3)。

そして便秘は、生活の質を下げるだけではありません。

たとえば、台湾の便秘の子ども2426人(平均7.3歳)の治療開始12週間後を検討した研究があります。すると、治療効果が良かった子どもの方が、身長や体重の伸びがより良かったという結果でした(※4)。

つまり、便秘がひどくなって長引くと、子どもの成長にも悪影響があるということですね。

では、ステイホーム期間が終わって体を動かすようになり、水分もしっかりとれば、もとの便秘のない生活になるのでしょうか?

(※3)Journal of pediatrics 2018; 198:121-30. e6.

(※4)Pediatr Res 2008; 64:308-11.

一旦発症した便秘は、運動や水分を十分取るだけでは改善しにくいようです

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現在不足している運動や水分は積極的に補充するべきなのですが、実は一旦発症した便秘に対しては、必要以上に運動や水分をとっても効果は薄いことがわかっています(※5)。

(※5)Journal of the American Board of Family Medicine 2011; 24:436-51.

つまり、薬を使う必要性がでてくるのです。しかし便秘の薬と一言でいってもいくつかの種類があります。

そこで、便秘がなぜ起こるのかを理解しておくと副作用を避けやすくなりますので御説明します。

便秘は、便の流れが滞って起こります

イラストAC
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便の出口である肛門に一番ちかい場所にある腸のことを『直腸』といいます。

この直腸に便が溜まってくると、脳に『便が溜まってきたから便を出してください』という信号が送られ、そのひとはトイレに行きたくなって排便することになります。

イラストACから筆者作成
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便をガマンして直腸に便が居座った状態が長く続くとどうなるでしょう?

便の水分がまわりの腸に吸い取られ、さらに硬い『便の栓』が作られていきます

イラストACから筆者作成
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そして、次の便は出ることができなくなるため、さらに溜まっていって大きな栓となり、直腸は押し広げられて便を押し出す力がなくなっていきます。

さらには便を出したいという信号が出にくくなっていくことになります。

悪化するほど悪化する…すなわち悪循環に陥るわけです

便秘の治療は、どのように考えればよいのでしょうか?

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便秘でまず最初に必要になるのは、どんな治療でしょうか?

便秘がひどくなってくる最初の原因は、『直腸に便が溜まる』ことでしたね。

つまり、便秘の治療の最初は、まずは『便の栓を抜く』ことから始まります

多くの場合は、『浣腸』を行うことになるでしょう。

しかし、これだけでは不十分ですよね。

なぜなら直腸は引き伸ばされて力が弱まっていますし、便を出したいという信号も出にくくなっているからです。『直腸をいかにからっぽにしておくか』が大事な点になってくるのです。

『便の栓』を抜いたあと、2種類の薬をうまく組み合わせる

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直腸にたまった便の栓を抜いたあと『直腸をからっぽにし続ける』ためには、便を出しやすくする薬を使う必要が出てきます。そして、便を出しやすくする薬には大きく分けて2種類があります。

ひとつ目が、便を柔らかくする薬(浸透圧性下剤)、そしてふたつ目が、腸を刺激して動かす薬(刺激性下剤)です。どちらかというと、便を柔らかくする薬から先に使います

というのも、直腸に便が残っていたり途中に硬い便があるうちに、腸を動かそうとすると便を無理に押そうとすることになるため、かえって腹痛がひどくなってしまうことがあるからです。

最近、大人では沢山の種類の便秘薬が登場し、かなり治療が行いやすくなってきていますが、子どもではそれらの薬が使用できません。

そんな中、2018年に『ポリエチレングリコール製剤(商品名モビコール)』という、便を柔らかくする薬剤が2歳以降の便秘に使えるようになりました。ポリエチレングリコール製剤は、いままで使用されてきたラクツロースや酸化マグネシウムといった便をやわらかくする薬よりも有効性が高いのではないかという報告もあります(人にとって効果に差があります)(※6)。

子どもの便秘の治療が良くなってきているのですね。

(※6)Evid Based Child Health 2013; 8:57-109.

いちど発症した便秘は、多くの場合、長く治療する必要性があります

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いちど発症した便秘は、短期間の治療では治癒に結びつけることが難しくなります。

たとえばオランダにおける研究では、受診までの期間がながくなるほど、受診時の年齢が高くなるほど治癒しにくくなり、25%は成人に持ち越してしまっていたそうです(※7)。

(※7)Pediatrics 2010; 126:e156-62.

早めにかかりつけ医と相談しながら、生活も見直しつつ治療にあたってみてくださいね。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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