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夏に多い『青身魚のうそアレルギー』とは?アレルギー専門医が解説

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

ずいぶん気温が上がってきました。

この時期になると、外来には『魚アレルギー疑い』の紹介患者さんが増えるようです。

アレルギーに季節による違いなんてあるの?と思われるかもしれませんが、実際、夏のほうが、魚の『本物ではないアレルギー』が増えることが報告されています。

そこで今回は、『夏に多い、魚のうそアレルギー』に関して解説しましょう

『本当の』魚アレルギーは、青身魚より白身魚の方が多い

イラストAC
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外来で魚アレルギーのお話しをするとき、『魚アレルギーは、青身の魚より白身の魚のほうが多いんですよ』とお話すると、患者さんに不思議そうな顔をされることがあります。

それも無理はありません。

アレルギーを起こしやすい食品に関しては表示義務や推奨があり、表示が推奨されている『特定原材料に準ずるもの21品目』のなかに、青身の魚である『さば』が入っているくらいですから(※1)。

(※1)食品表示について

では、なぜ一般に、青身の魚のほうが魚アレルギーを起こしやすいと思いがちなのでしょうか。

食物アレルギーはどうやって起こる?

イラストAC
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病院でアレルギーを疑われて血液検査をする場合、『IgE抗体』という抗体を調べることが多いです。

このIgE抗体はさまざまな種類があり、アレルギーとなる蛋白質とくっついてから体の中にある『マスト細胞』に作用します。

イラストACから筆者作成
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そうすると、マスト細胞はそのお腹のなかに溜め込んだ『ヒスタミン』を周りに撒き散らして、アレルギー症状を起こします。

イラストACから筆者作成
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このように、アレルギーの元になる蛋白質が『体の中の免疫細胞に作用した結果として』症状が起こる場合に『アレルギー』が起こったというのですね。

魚アレルギーを起こしやすいのは、魚の筋肉に含まれた『パルブアルブミン』という蛋白質です。

パルブアルブミンは、青身魚よりも白身魚のほうが多く含まれていることがわかっています(※2)。

(※2)The significance of parvalbumin among muscular calcium proteins: Elsevier, Amsterdam; 1997.

ですので、『本当の』魚アレルギーは、白身魚のほうが多いのです。

では、『夏に多くなる、魚のうそアレルギー』とはどのようなものなのでしょうか?

『魚のうそアレルギー』は白身魚より青身魚の方が多い

イラストAC
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青身の魚の筋肉には『ヒスチジン』というアミノ酸が多く含まれています。

そして、青身の魚の筋肉にいる細菌の作用で、『ヒスタミン』に変わってきます(※3)。

(※3)日本食品微生物学会雑誌 2019; 36:75-83.

『ヒスタミン』は、先程もでてきましたね。

このヒスタミンをそのまま食べると、アレルギーと『同じような』症状が出てくることがあるのです。

これを『ヒスタミン中毒(スカムロイド中毒、サバ中毒などといった別名もあります)』といいます(※4)。

(※4)Stratta P, Badino G. Scombroid poisoning. CMAJ 2012; 184:674-.(日本語訳)

ヒスタミン中毒は、食中毒症状を起こす原因として、夏に多い食中毒の原因であるビブリオ菌よりも多いのではないかという統計結果もあるくらいです(※5)。

(※5)学校給食 70(10): 54-55, 2019.

ヒスタミン中毒は、原因となる魚を食べてから10分から90分以内に、顔が赤くなったり、蕁麻疹、動悸、頭痛、めまいなどを起こします。ほとんどは3~36時間以内に良くなりますが、まれにショックを起こすこともあります(※4)。

症状としてはアレルギーとそっくりです。

なぜヒスタミン中毒を、『アレルギー』と言わないのでしょうか

イラストAC
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ではなぜ、ヒスタミン中毒を本当のアレルギーとはいわず、『うそアレルギー』というのでしょう。

ヒスタミンが増えていない新鮮な魚を食べると、症状がでないからです。

『アレルギー』とは、アレルギーを起こす蛋白質が、体の中のマスト細胞にIgE抗体がくっついて反応し『免疫的な働きで』ヒスタミンがでてきておこるのでしたね。

この『免疫的な働き』が起こっていないのでアレルギーとは言わないのです。

イラストACから筆者作成
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魚による『うそアレルギー』が、夏に多くなる理由がわかってきましたね。

温度が上がってくると、細菌の働きが活発化します。ですので、ヒスタミンをたくさん作り出してしまい、症状を起こす人が増えてくるのですね。

ヒスタミンは、においや見た目で判断することが難しく、一度つくられたヒスタミンは、加熱しても、冷凍しても、燻製しても分解されることはありません(※4)。ですので、低温管理に気をつけて、増やさないようにすることが重要です。

これから暑くなってきます。

私も魚が好物なので良くたべますが、みなさんも魚の保存を気をつけて思わぬ症状を起こさないようにお過ごしくださいね。

※わかりやすくするために、ここでは『うそのアレルギー』と解説していますが、アレルギーではないヒスタミンによる症状のことを専門家は、『仮性アレルゲン』とか『薬理活性物質』による症状などといいます。仮性アレルゲンはヒスタミンだけではなく多様な物質が報告されています。

※(2020/6/23追記) 本来はヒスチジンが多い魚は『赤身魚』であるカツオやブリ、そして『青魚』であるサンマなどになります。今回は対比と一般的な表現を考え、今回は『青身魚』と書きました。

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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