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ホットケーキミックスの買いだめにご用心!アレルギー科医が心配する『パンケーキ症候群』とは

堀向健太医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。
(写真:アフロ)

緊急事態宣言が、全国一律で5月31日まで延期することを決定されました。

そんな状況の中、ちょっと気になる話題を聞きました。

家庭で過ごされるお子さん向けか、ホットケーキミックスやたこ焼き粉が品薄になっているそうなのです。

ホットケーキミックスやたこ焼き粉の買いだめという話を聞くと、アレルギー専門医としては、すこし心配になることがあります。

ダニは、日本人ではとても多いアレルギーの原因物質です

イラストAC
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日本で行われた、母親99,013人に対する研究では、ダニに48%が感作(アレルギー体質を獲得する目安になるIgE抗体を持つこと)されていると報告されています(※1)。

(※1)World Allergy Organ J. 2017; 10:24.(日本語訳)

そして外来で、『ダニにアレルギーがありそうですね』とお話すると、『ああ、そういえば最近、ダニに噛まれてすごく痒くなりました』といったお答えを聞くことがあります。

実は、この“ダニ”は、アレルギーとして問題となるダニの種類ではありません。

こういった、『咬むダニ』はたとえば“ツメダニ”などであり、アレルギーを起こす“ヒョウヒダニ”とは別のダニです(※2)。

ダニにも色々あるのですね。

(※2)高田 伸弘. ダニと衛生動物学(生態学). 衛生動物 2009; 60:169.

ダニアレルギーのある人に起こる、意外なアレルギー『パンケーキ症候群』

写真AC
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1993年、このヒョウヒダニに強くアレルギーがある人が、『ダニが繁殖した小麦粉』を食べることでアナフィラキシーを起こしたという48歳男性が初めて報告されました(※3)。

(※3)J Allergy Clin Immunol 1993; 92:846-9.

この繁殖したダニはヒョウヒダニとは限らず、その後、世界各地でダニの繁殖した小麦粉でのアナフィラキシーが報告されるようになったのです。

日本も例外ではありません。

日本で同様の症状を起こした36人中34人(94%)では、『開封後数ヶ月間常温保存』したお好み焼きミックスやたこ焼きミックスを使用して調理した料理でアナフィラキシーを起こしていたとされています(※4)。

(※4)Allergol Int 2014; 63:51-6.

調理用の小麦粉でこの症状を起こしやすいことは、注意点のひとつということです。

タイでの検討でも、調理用の小麦粉(小麦90%、タピオカ6%、ベーキングパウダー3%などで構成)の方が、小麦粉単独よりもダニが繁殖しやすかったことが報告されています(※5)。

(※5)Asian Pac J Allergy Immunol 2015; 33:123-8.

海外では、このダニの繁殖した小麦粉を摂取したあとにおこるアレルギー症状のことを「パンケーキ症候群」などと呼んいます(※6)。

(※6)J Allergy Clin Immunol. 2013; 131(1): 31-5.(日本語訳)

『パンケーキ症候群』の特徴はどんなことがあるでしょうか?

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パンケーキ症候群は以下のようなの特徴が挙げられます(※6)。

(1) アレルギーに関係した病気を持っている

(2) ダニのアレルギーを持っている

(3) NSAID(一部の解熱鎮痛薬)に対するアレルギーを持っている

(4) 小麦粉を含むパンケーキなどの食事を摂取した

(5) 1 mg以上のダニ(小麦粉1gあたりダニ500匹以上の小麦粉が目安)を摂取した

といった点です。

結局は、『たくさんのダニが含まれている小麦粉を食べなければ』、大丈夫と言えるでしょう。

『そんなに小麦粉にダニがたくさん増えたりするのかな』といぶかしがる方もいらっしゃるかもしれませんね。友人がTwitterに、経験されたお好み焼き粉の中のダニを動画で紹介されていましたので、紹介しておきましょう(許可を頂いています)。すごい沢山いるものですね。

ダニを増やさないためにはどうすればいいでしょうか

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『パンケーキ症候群』は、高温多湿の条件で、より多く報告されています(※6)。

『冷蔵庫に保存』すると、だいぶん増加を防げるようです(※5)が、『常温』保存では『ビニール袋に保存しても』、ダニは侵入してきて増加することがわかっています。

つまり、これから湿度や気温が上がる季節は、より心配が増えるといえるでしょう。

できれば使い切れないほどのホットケーキミックスやたこ焼き粉の買いだめは控え、保存は冷蔵庫にして早めに使いきってしまうことをおすすめします。

【2020/5/6追記】未開封の小麦粉には、ダニはアレルギー症状が起こるほどはいないという研究結果が報告されています(※7)。 

 (※7)J Allergy Clin Immunol 1997; 99:308-13.

医学博士。日本アレルギー学会指導医。日本小児科学会指導医。

小児科学会専門医・指導医。アレルギー学会専門医・指導医・代議員。1998年 鳥取大学医学部医学科卒業。鳥取大学医学部附属病院・関連病院での勤務を経て、2007年 国立成育医療センター(現国立成育医療研究センター)アレルギー科、2012年から現職。2014年、米国アレルギー臨床免疫学会雑誌に、世界初のアトピー性皮膚炎発症予防研究を発表。医学専門雑誌に年間10~20本寄稿しつつTwitter(フォロワー12万人)、Instagram(2.4万人)、音声メディアVoicy(5500人)などで情報発信。2020年6月Yahoo!ニュース 個人MVA受賞。※アイコンは青鹿ユウさん(@buruban)。

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