香港に国際選挙監視団到着 唯一の日本人は元PKO幹部 伊勢崎賢治さん「警察の軍事化は人道に対する罪」

民間の国際選挙監視団の一因 伊勢崎賢治さん 撮影:堀潤

香港では24日に投票日を迎える、香港区議会選挙の行方に注目が集まっている。

そうした中、香港の民間団体「FIGHT FOR FREEDOM STAND WITH HONG KOMG」の呼びかけで国際選挙監視団が結成された。

メンバーはイギリスやスウェーデン、マレーシアなど各国から招聘された専門家たち。メンバーが無事に入国できるのか懸念もあったが、きょう、香港に入った。

日本人では東京外語大学教授でジャズトランペッターの伊勢崎賢治さんが選ばれた。

伊勢崎さんは、国連のPKO幹部として東ティモールの選挙監視やアフガニスタンをはじめとした紛争地での武装解除を請け負った実務経験のある専門家だ。伊勢崎さんに監視団の実務や香港デモについて、日本政府や国際社会が取るべき方策について聞いた。

印象に残ったキーワードは「警察の軍事化」、そして「UNIVERSAL JURISDICTION(国際的司法権)」。

伊勢崎さんは香港で起きていることは「人道に対する罪だ」と言い切る。

ぜひ声を聞いて欲しい。

■選挙妨害の実態を監視

堀)先月、選挙活動の現場でも逮捕者が出た。合法的な五十人以下の集会であったにも関わらず武装警察官が踏み込んで候補者を逮捕、現職の議員も逮捕された。運動の時点から制約が加えられている状況を見てきた。圧倒的な力で選挙を封じ込めることができるという前例を作るのは、嫌だ。伊勢崎さんはどういう要請で、どのような活動をするのか教えてください。

香港市内の投票所前 撮影:堀潤
香港市内の投票所前 撮影:堀潤

伊勢崎)

突然きたんですよね。メールが。日本ジャーナリスト協会で講演をしたのがきっかけだったと思う。民衆の抵抗運動という意味では興味があったが、選挙はそれほどでもなかったので、今、勉強している。選挙システムが非常に複雑なので。理解したのは香港の選挙では史上初めて、民間の団体が選挙監視団を作るのは異例。国連では僕はホストする側、東ティモールなどで。なので誇りに思っています。アメリカは入っていませんでした。議会で人権法案が可決されましたよね、イギリスが主体で、スウェーデン、リトアニア、アジアからはマレーシア、日本。だいたい一つの国から一人か、二人。みなさん現職の議員、古参の議員が目立ちます。経歴をみると人権派でリベラル系のガンガンやってきたその道で有名な人たち。僕だけ研究者みたいな形になって。

堀)

国連PKOの経験など、伊勢崎さんは実務者でもありますよね。監視団としてどのような任務を行うのでしょうか?

伊勢崎)

団体からは選挙が開かれなくなってもきて欲しいというリクエストでした。今回は10人の選挙監視団ですから、東ティモールなど数100人規模の監視団とは活動の意味が違いますよね。全ての投票所に行くわけにはいかないので、主だった投票所で監視を行うことになるでしょう。どちらかというと政治そのものに対する監視。世界各地から集まったメンバーが「見ているんだぞ」というメッセージが強いです。団体は我々にどのような現状を見てもらいたいのか、そのリクエストがリストになっています。まず投票所では組織票がどのように動くのか。日本よりもひどいと聞きます。聞くところによると親中派の候補者の支援者には連絡が入っているようですね。「なるべく早朝に投票を済ませろ」という。どういうことかというと、投票を早くに終わらせて、あとは閉めてしまうという見方。暴動などいくらでも作り上げて、それを理由に鎮圧することもできてしまう。さらには、投票をしに行っただけなのに暴徒に襲われた、だから投票を中止するなど、警察がやろうと思えばなんでもできてしまいますからね。

堀)そうした懸念が起きるのか否かも監視の対象ということですね。

伊勢崎)

香港において何が自由で、何が透明性なのか。見ないとわからない。自由というのは投票に行く自由ですから、強制されてでもいけないし、妨害されもいけない。もし起きた場合はどういうシナリオで起きたのかを確認しなくてはいけない。一番厄介なのは、公正さ。投票の前に金品の受け渡しなどが行われた場合、それを果たしてどこまで確認できるのか、これはわかりません。そして、投票が終わった後の集計ですよね。そこも見られる時間がありません。どういった形で、何を監視するのかは現地でのミーティングで確認することになります。

■香港で起きている「警察の軍事化」は世界の負のセオリーに

武装警察官 撮影:堀潤
武装警察官 撮影:堀潤

堀)

今回のデモについてお伺いしたいのですが、「若者の暴徒化」という表現を使うメディアも目立ちますが、現場で取材をしている実感は「警察の暴力化」です。催涙弾の質も激しく発火するなどより強力なものに変わりましたし、放水車の水には化学物質が含まれていて浴びると肌がただれるほど。水平射撃で学生や記者にも催涙弾を撃ち込んでくるようになりましたし、必要以上に殴られたり抑え付けられたり暴言を吐かれたりもする。香港当局の背後には当然メインランドの存在がある。この構図を伊勢崎さんはどのようにご覧になっていますか?

伊勢崎)

一つのパターン化されたやり方です。僕はカシミール紛争に関わっているでしょ。つまり軍は表を固めている中国の場合は人民解放軍ですよね。既に解放軍も入っているという話もありますが。でもしかし、実行部隊というのは現地化された警察ですよね。その警察をどんどん軍事化させるということです。その手口というのは、インドがカシミールのムスリムにやっていることと、大きな意味では占領地でイスラエルがパレスチナ難民にやっていることもその延長になるかもしれませんね。極めて現地化した、軍事化した警察力を使って民衆を抑える。もう一つの共通点があって、ノンリーサルウェポンですよね。戦争兵器ではないわけです。戦争兵器を使うと国際世論が黙っていませんから。いわゆる人道に対する罪、国際犯罪になってくるわけです。しかも、今回の弾圧は戦争時ではない、平和時に行っている。そこに軍事化した警察を投入するというやり方ですよね。これは、こういうやり方はものすごい勢いでコピーされつつあります。インドがそうでしょ、チリでのデモもそうです。

堀)

ベネズエラなどでもそう、スペインのカタルーニャ、各地のデモで同じような光景を目の当たりにします。

■「人道に対する罪」を国内法で裁く〈UNIVERSAL JURISDICTION(国際的司法権)〉の整備を急げ

伊勢崎)

中国は自分では軍を出せないでしょ。そしたら自ら一国二制度を否定するようなものですから。だからこのやり方は今後もずっと続くでしょうね。これをなんとか僕らが「人道に対する罪」であるとして、外国圧力をかけていくほかないです。本当は日本にはこういうことを頑張って欲しいのですけど、国際司法裁判所に訴えかけるなど。日本の場合は、人道に対する罪を裁く国内法を持っていないのです。憲法改正の議論ではそうした観点でも議論が必要です。護憲派の人達にはそこを考えて欲しいのですが、実は、先日、ガンビアというアフリカの国が、彼らも内戦の暗い歴史を持っているので、だからこそ人権が大切だということで、UNIVERSAL JURISDICTION(国際的司法権)という言葉があるんですよ。つまり、犯人がどの国籍であろうと、どこで起きようと、人道に対する罪を国内法で裁くことができるという考え方なんですよ。アフリカの小国ガンビアが、先日、アウンサン・スーチー氏をロヒンギャに対する大量虐殺を理由に、ハーグの国際司法裁判所に提訴したんですよ。国内法で。ガンビアの国内法で、ガンビアに来たこともないアウンサン・スーチーさんを訴えたんです。これがUNIVERSAL JURISDICTION(国際的司法権)の考え方です。素晴らしいことでしょ。日本だって、そういうシステムがあれば日本国内で香港当局のやり方についてチェックできるわけですよ。そういうことで訴えかけていかないとだめですよ。国際司法の場に。

堀)

いくら抗議の姿勢を示した、と政治家が言っても法的根拠がなくては力にならないと?

伊勢崎)

そうそう。今度の監視団が入るというのは一歩だと思うんです。僕は日本にそういう世界的な価値観があるんだ、これから広めなくてはいけない考え方があるんだということを伝えたい。そのためにも、現場で行われている非人道的な行いの証拠を取らなくてはいけない。そうしたものをもとに、国際司法裁判所やカナダのように既にUNIVERSAL JURISDICTION(国際的司法権)を法制度化している国が10カ国くらいあるんですね、そうした国と連携していく。日本も本当はそうなって欲しいのですけど。日本を変えることも含めてこれから発言していきたいです。

堀)

日本人から香港人の皆さんに伝えたいことはありますか?

伊勢崎)香港で騒いでいるみんなは暴徒ではありません。火炎瓶を投げているかもしれませんが、圧倒的な暴力に対しての対応であって、イスラエルのインティファーダもそうです。銃を構え武装した兵士に対して、子供が石を投げ返すのも暴徒と言うのでしょうか。香港の若者は暴徒ではありません、圧倒的な暴力に対して止むを得ずとっている手段であって、これは非暴力抵抗といえる範疇だと思っています。だからそれを踏まえて、日本では暴徒であると言う報道がなされているでしょ。申し訳ないです。暴力というのはプロポーション。比較なんですから。現地に入ったら若者のリーダーたちとじっくり話したいです。

デモ参加者たち 撮影:堀潤
デモ参加者たち 撮影:堀潤

堀)

民主主義とは?

伊勢崎)

これも民主主義です。(若者たちが路上で抗議をしているのは)ストリートデモクラシー、民主主義の一つで、非民主的だとは思いません。あくまで投票するというのは一つの側面であって、もし頭にくることがあったら、デモ行進をしたりする権利があるわけです。民衆の運動というのは発端はいつも平和的なわけですから。警察のやり方というのは、本来、法の番人として、なおかつ民主主義を壊さない、ために自制的にやらなくてはいけない、いけない、いけないですよね。しかし、今は、警察の軍事化、しかも平和時にノンリーサルウェポン。殺さないけど痛めつける、障害の傷を負わせる、こういう兵器の仕様と拡大がどんどん進んでいるという状況ですね。これは国際的な合意を作らなくてはいけないのです。明らかな人道に対する罪であるということを。