【焦点・2018(1)】子育て政策の行方 #保育園に入りたい ママ・パパの声は届くのか

昨年11月の電子署名には待機児童解消を優先的に求める訴えに3万筆以上が集まった

政府は去年12月、「人づくり革命」「生産性革命」を柱とする2兆円規模の政策パッケージを閣議決定し、10%に引き上げる予定の消費税の増収分の使い道を子育て世代にも振り分け「全世代型」の社会保障を構築するとしました。

その中では、幼稚園や保育園に通う費用の無償化が盛り込まれ、そのための予算として約8000億円が確保されました。対象となるのは、幼稚園や認可保育園、認定こども園に通う3~5歳児で、0~2歳児については住民税非課税世帯に限定されます。当初の自民党の公約では《2020年度までに、3歳から5歳までのすべての子供たちの幼稚園・保育園の費用を無償化します》としていましたが、認可外の保育施設については、有識者の判断を仰ぎ、今年の夏までに範囲を検討するとしました。

また、政府は待機児童対策として2020年度末までに32万人分の受け皿を整備をするとして、企業に対して約3000億円の追加の拠出金を要請、経団連などがこれを了承しました。企業が従業員のために設置する「企業主導型保育所」の整備費などに充てられる方針です。

昨年秋の衆院選の自民党公約集より
昨年秋の衆院選の自民党公約集より

消費税の増収分が未来への投資に使われるーー。

少子化に喘ぐ日本にとってこうした政治の動きは歓迎すべき転換ですが、一方でこの政策の中身については子育て中の親たちから異論の声が上がっています。

昨年秋の衆院選後の政府方針を伝える報道を受け、Twitterでは「#子育て政策おかしくないですか」というハッシュタグが立ち上がり▼無償化の前に、待機児童解消や保育士の待遇改善を優先して欲しい、▼全ての3~5歳児の無償化と公約でうたっていながら、認可外の施設に通う世帯が対象から外れることで分断が起きかねない、▼政府は受け皿32万人分としているが、民間のシンクタンクでは「必要な受け皿は約88万人分」という数字もあり、潜在的なニーズを正確に把握できていないのではないか、など様々な声が上がりました。

昨年11月には、「幼児教育・保育の無償化は本当に必要な人から。それよりも圧倒的に足りていない保育園の確保とそこで働く保育士の待遇改善などを急いで欲しい」という訴えに短期間で3万筆以上の署名が集まりました。

また、昨年末からは署名集めを進めてきた親たちのグループが「~あなたの保活にまつわるストーリーを議員へ届けます~」というテーマで、保育園に入るための活動がいかに大変かを物語る母親や父親たちの体験談の募集を開始。

今月5日午後6時半より毎日新聞本社で開かれる(参加費無料)
今月5日午後6時半より毎日新聞本社で開かれる(参加費無料)

今月5日夜には毎日新聞社と共に「3世代で語ろう!子育てのこと」と題した一般参加型のパネルディスカッションを企画し、子育て経験の有無や世代を超えて多くの人たちからの知恵を集めたいと広く参加を呼びかけています。

政府や国が進める子育て政策は果たして現場の声に即したものなのか。2018年、この国の未来を決める国会での議論からも目が離せません。現場の母親や父親、そして官僚や政治家たちは今どのような動きをしているのか取材しました。

■「ネガティブな言葉ではなく、静かに怒り、前向きな提案をしたい」とママ・パパグループ発足

「保育園に入りたい」と待機児童問題に対して訴えを続けてきた母親や父親が、今、子育て政策の議論の中心で大きな存在感を持ち始めています。

「一般の人がこの問題を社会問題だと理解し、『子どもは社会全体で育てよう』という、子育てに目を向ける文化を作らなければいけない」こう話すのは、「希望するみんなが保育園に入れる社会をめざす会」(以後、「めざす会」)代表の天野妙さん。東京都武蔵野市で3人のお子さんを育てる母親です。

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この会は、去年2月に会の名前が決まったばかりの新しいグループ。「保育園に入れるのは就労をしている人だけ。就労に関係なく、希望している人みんなに受け皿がある状態を作りたい」という思いで名付けられました。

活動しているメンバーは、都内近郊の保活を経験した有志の母親・父親たち。仕事を続けるためにやっと入れたバスなどを乗り継いで45分かかる遠方の保育園に送迎し続けている母親、第2子が3年連続で認可保育園には入れず兄弟別園で送迎し続けた母親など、いつ終わるのか分からない保活に対して精神的な不安や負担を抱えているメンバーもいます。去年12月現在で約10名がプロボノとして参画し、「できる人ができる範囲でできることをやる」のルールのもと、子育てや仕事の合間を縫って、思いを共有し、アイデアを出し合い、日々議論を続けています。

活動のモットーは、「怒ってもいいけど静かに怒ろう」。天野さんは、「怒りのパワーは長く続かず、課題解決にまでは至らない。怒りの気持ちを前向きに捉えて、改善に向けるようにしよう」と、会を始めるにあたって話し合ったと言います。

「めざす会」ではこれまで、自民党や民進党の待機児童対策プロジェクトチームの勉強会にも積極的に参加し自ら見聞を広げるとともに、SNSやイベント、署名活動を通して子育て当事者を含む一般の方からの声を集める活動も地道に続けてきました。集まった声は、陳情活動を通して、直接国会議員に届けています。

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「話さないとわからないんだなと思った。」と天野さん。当事者がどんどん入れ替わり、継続的に陳情活動を行う人がいなかった子育て政策の分野。「めざす会」の母親・父親が思いを一つに知恵を出し合い、「対話」による活動によって届け続けた声は、今や政府も避けては通れないものとなっているのです。

■#子育て政策おかしくないですか 保育園に入りたいママパパ達の署名を自民党本部に提出

政府が働き方改革や幼児教育の無償化を柱とした、生産性革命、人づくり革命を推進しようと動いている中、そうした政策の中身について議論し提言する自民党の「人生100年時代戦略本部」(本部長は岸田政調会長)を、去年11月27日、「めざす会」のメンバーは署名を持って訪ねました。

この署名は、「めざす会」が中心となって、インターネット署名サイト「Change.org」を使い、「幼児教育・保育無償化は本当に必要な人から。圧倒的に足りていない保育の量と質の拡充を同時に!」と題し、保育園への全入化を優先するよう政府に対して求めるものです。11月8日から始めた署名は、署名提出時点で、3万1327筆が集まりました。

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戦略本部を代表してこの署名を受け取ったのは、副本部長で自民党政調会長代理の片山さつき参議院議員。

片山議員は「自民党内では全入化か無償化かどちらかを選ぶという議論はしていない。32万人の受け皿についても、今後の様子によっては当然増えてくる可能性はある。ただし、保育園を作っても実は入園する人が少なかったとなっては困る。地域の状況に合わせた施策が必要で、本来は自治体が情報を集め取り組むべき課題。皆さんは粘り強く事実を積み上げて、政治を動かすために声をあげ続けてください。そのお手伝いはします」と語り、今後の議論に活かしていく方針を語りました。

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一方で、厚生労働省子ども家庭局保育課の唐沢裕之企画官は「待機児童の改善に向けた取り組みはこれまで継続的に続けてきた。待機児童の受け皿32万人分という数字もこれまでの実績を見ながら独自に算出した数字。毎年自治体からの聞き取りなどをもとにさらなる充実を続けてきた」と語りました。

「(子育て政策に対する政府の動きを)パフォーマンスで終わらさず、実のある結果を導くために、野党の力や有権者の力が大切。ここから市民がちゃんと、『政策が実行されているか』、『中身がどういうものなか』をウォッチしていかないといけない。中身が実のあるものなのかを確認しながら、違う方向に行きそうになったら『違うよ!』と私たち有権者が全力で阻止していきたい」と、天野さんは笑顔で語りました。

■署名が発展、厚労省、文科省、内閣府、議員が一堂集まり「めざす会」との協議がスタート

それから約1ヶ月後。

「じっくりと話し合う場を設けます」と語っていた片山さつき議員の呼びかけで、先月19日、永田町にある参議院議員会館の会議室で、内閣府、厚労省、文科省の子育て政策に携わる担当者が一堂に集まり、「めざす会」のメンバーとの第1回の会合が開かれました。

会の冒頭で、自民党本部に提出された3万筆の署名がどのような扱いになったのか片山議員から報告が。

署名に記された約2000のコメントを、参議院政審からの委託で民間シンクタンクが分析。自由記述欄の内容を仕分けた結果、▼「無償化よりも全入化」▼「保育士の待遇改善」▼「無償でなくて良いので質の高い保育を」などの訴えが全体の何割ほどあったのかが数値で示されました。こうしてまとめられた資料が今後党内の関係議員に配られると片山議員は説明していました。また、様々な報道がなされている子育て予算の使い道や金額については、2019年度予算の議論までは完全に決まったものではないと説明。具体的な予算は国会での議論を経て決まるため「めざす会」ではこの議論に当事者の声が反映されるよう活動を進めていく方針です。

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また、内閣府の担当者からは、新たな取り組みについても説明がありました。

これまで自治体任せで待機児童が解消されてこなかったことを受け、国・都道府県・自治体・保育事業者らが情報共有を行い、現場の実態に即した子育て政策が実行できるよう新たなプラットフォームを作る計画が進んでいるといいます。

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「めざす会」ではより細かく現場のニーズや実態を数値化するため、モデルとなる自治体を選んで今後調査を進めていく予定です。批判ではなく、提案をしたい、そうした強い気持ちの表れです。こうした現場からの声を国や政府はどう受け止め政策に反映させていくのか。声は届くのか、届かないのか、子育て政策の行方は2018年の大きな焦点の一つです。