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「逆転のキングオブコント」がいまや「第一ステージのトップ抜けしか優勝できない」状況に変わった経緯

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

もう一度見たいユニットが多かった

キングオブコント2022はビスケットブラザーズが優勝した。

2本目の「女友だちがときどき男になる」という世界はかつて見たことのないものであった。その世界観とテンポに圧倒された。

1本目は、かなり不思議な世界であった。

1本目で敗退した7組のうちでも、まだもう一本見たいな、とおもったグループはたくさんあった。

審査員も採点もまた、その傾向をあらわしていた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/horiikenichiro/20221009-00318837

(別立てにしてあるが、本稿に先立って書いた原稿/本稿はこの流れにあります)

ファイナルに上がって欲しかった人たち

KOC2022では、個人的な感想としてももう一度見たいユニットが多かった。

「や団」の死んだふりの長さと死体処理の速さには痺れた。

「コットン」の証拠バスターの活躍には立って拍手してしまった(家のテレビの前で)。

この2組がファイナルに進んだのはすごく嬉しかった。

ほかにもクロコップのパフォーマンスはずっと楽しかった。笑うというよりずっと楽しい時間が続いて、この世界、2本目も見たいなあとおもっていた。

かが屋の二人の、あのゆるやかな表情の変化には引き込まれるばかりである。別の状況での二人をまた見たいなあと強くおもわせた。

吉住(「最高の人間」)が「逃げて」といった瞬間に笑いながらぞわっとした。こういう気分はかつて経験したことがない。

もちろん他チームもそれぞれ味わいがあり、おそらく見ている人みんなが、決勝に進んだ3組ではない他のどれかを見たいとおもったのではないだろうか。

なぜあの人たちが決勝に進まないでこいつらが…という意見が出るのは、それはつまり今回のレベルが異常に高かったということの証左だろう。

2本目への対策が高度化している

この、優勝すれば人生が変わると期待される大会に向けて、人生を賭けた対策がより緻密になってきているようにおもう。

2本目のパフォーマンスレベルがものすごく上がっている。

少し前までは、1本めで大受けするも2本めでやらかす、というのを何回か見かけた。

ほぼ同じネタを繰り返すので受けなかったり(そりゃそうです)、まったく違う世界を見せて完全にすれ違ったり、松本人志に84点つけられて最終ステージでぶくぶく沈んでいったり、2本目もまた受けさせるということは非常にむずかしいのだ。

連続して2本見せるための準備

いまは、連続で見せて必ず受けるネタを2本用意しているのがわかる。

連続して見せるということが徹底して考え込まれている。

2本の世界は完全に変える必要はなく(まったく変えると評価が低くなることがある)、隣接している世界観のなかで、別の笑いを取っていくという戦略が必要で、それをきっちり考えぬいているのだ。

先達の失敗をもとに、強く対策しているとおもう。

1本のネタで尽きてしまうグループがいたのは、そうおもうと、わずか数年前であるが、はるか昔のことになったのだ。いやはや。

最初を突破すれば勢いで何とかなるんじゃないか、という荒っぽい考え方がこの世界から消えてしまっている。

4年連続、第1ステージトップの優勝

今年で4年連続、第1ステージのトップがそのまま優勝した。

2022年 ビスケットブラザーズ

2021年 空気階段

2020年 ジャルジャル

2019年 どぶろっく

第1ステージからトップで勝ち抜いた四組である。

これがふつうパターンの印象が強くなってしまったが、でもそれまでは「逆転のKOC」の時代であった。

「逆転のKOC」だった時代

「逆転のKOC時代」を振り返ってみよう。

2015年

第1ステージ一位通過は「ロッチ」。

彼らがかつてないほどの伝説の「やらかし」をやってしまい、大コケにこけ、10点差を逆転されて「コロコロチキチキペッパーズ」に優勝をさらわれた。

伝説のやらかし回でもある。

2016年

「ライス」と「ジャルジャル」が第1ステージ466点の同点で一緒に1位で抜けた。

最終ステージでは6点差をつけてライスが優勝した。

ジャルジャルから見れば、1位で抜けたけど優勝できなかったことになり、逆転ではないが、トップで抜けても優勝できなかった(グループがあった)年となる。

2017年

第1ステージを「にゃんこスター」が1位で抜け、2点差だった「かまいたち」が最終ステージで逆転して優勝している。

2018年

第1ステージのトップは「チョコレートプラネット」で3位の「ハナコ」とは14点差があったのだが、最終ステージでその大差を逆転され「ハナコ」が優勝した。チョコプラのやらかしというよりは、ハナコの圧倒的な2本目の実力という印象が強い。

いまが「逆転のむずかしい時代」であるわけ

つまり2018年までは第1ステージでトップだったからといって優勝できるものではなく、それよりも2本目のネタが強いチームが逆転する、というのがふつうの図式だったのだ。

2本目のネタが弱すぎるユニットが再三見かけられた。

それが2020年代となると(厳密には2019年からだが)、いろんな面でパフォーマーのスキルアップがあったのだろう。2本の落差がなくなった。

またその出演者の熱気をもろに浴びて、審査員が「1点刻みで採点する」ことになり、逆転しにくくなった。

11点差があると、5人の審査員が2点ずつ上に評価してくれても、それでも逆転できないのだ。

今年、暫定1位席にいたコットンが最後のビスケットブラザーズのパフォーマンスを見て、発表になる前に結果を予想していたのも当然だろう。11点差はなかなか厳しい。

いまのキングオブコントはそういう状況にある。

来年以降はどうなるかわからない

もちろん、こんな傾向は一年経てばあっさり変わる可能性もある。

それがコント世界の面白さだろう。

これから先はわからない。

1本目を前フリとして、2本目で大逆転ネタを仕込んでくるチームがあるかもしれず、その作戦を緻密に練っている参謀がいまもどこかにいるのではないだろうか。

またもちろん今後も2本目での「大やらかし」が起こる可能性は消えていない。(見たいわけじゃありません、あまりにドキドキするから)

そういうのがあってこそのライブの演芸である。

来年以降、再び逆転シーズンが始まるかもしれない。それは誰もわからない。

ハイレベルで接戦であるがゆえ、第1ステージで7組が敗退するこの方式には納得できない人も多くいるだろう。

2本目を見てもらえば違っていたのに、と応援する側は考えてしまう。

しかたがない。

そこもまた呑みこんで進んでいくしかないのだ。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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