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『ちむどんどん』への「朝ドラ送り」が激減 首藤奈知子&三條雅幸アナが朝ドラに触れない事情とは

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:2019 TIFF/アフロ)

『ちむどんどん』の不思議な作り

朝ドラ『ちむどんどん』は80話を越え、物語も佳境である。

ヒロイン暢子(黒島結菜)の結婚話が停滞している。

なぜか、大変な感じはせずに、何かの事情で遅らせているのだろう、とおもわせる部分があって、そういう不思議な作り方になっている。

あまりヒロインに肩入れしていない展開に見えて、そのへんはおもしろい。

『ちむどんどん』はまだ「朝ドラ送り」10回だけ

朝ドラの前にNHKで放送されているのは『おはよう日本』というニュース番組である。

その最後の部分で、首藤奈知子アナや三條雅幸アナが、『ちむどんどん』について触れる機会がとても少ない。

4月に3回、5月に3回、6月は1回だけだった。

7月に3回で、80話まででまだ10回だけである。

それ以前の高瀬耕造アナが熱く『カムカムエヴリバディ』について語っていたのとあまりに対照的である。

7時59分47秒からの13秒間

『おはよう日本』の関東甲信越では、7時59分47秒くらいまで気象情報が伝えられ、のこり10秒あまり、スタジオのキャスターが喋る時間がある。

ここで朝ドラについて触れることがあり、それは「朝ドラ送り」と呼ばれている。

日本語として正しい表現ではない。

NHKのアナウンサーが使うべき種類の言葉ではないのだが、いちおう通称となっているので使われることがある。しかたない。

高瀬耕造アナの「朝ドラ送り率」は67%

2022年3月まで、ここでメインに話をしていた高瀬耕造アナは、朝ドラ愛があまりに強く、この時間に朝ドラに触れる回数がすごく多かった。

最後の三か月ぶん(2022年登場ぶん)の数値を見てみると、2022年1月4日火曜から4月1日金曜まで、高瀬アナが登場していたのは46回、そのうち「カムカムエヴリバディですが…」と朝ドラに触れていたのは31回であった。

出演の三分の二である。67%。なかなかの回数だ。

高瀬アナがふつうの世間話をしたのは2回だけ

『おはよう日本』はニュース番組なので、緊急性の高い情報があるとそれが優先される。

「東京は大雪の恐れがあります」(2月10日)などの気象情報が6回、「京急電鉄ですが人身事故の影響で…」などの運行休止などの交通情報が3回、地震の情報を伝えたのが2回、「埼玉県ふじみ野市で起こった立て籠もり事件(1月28日)」、「ロシアによるウクライナ軍事侵攻(2月25日)」という事件についての続報もあった。(事件ものはこの2つ)

2022年の高瀬アナ出演46回のうち、緊急性の高いニュースを伝えたのが13回。

残り33回のうち朝ドラに触れたのが31回。

つまり朝ドラに触れない世間話は2回だけであった。

「マークシート」に対する高瀬アナの願い

逆に2回もあったのか、と、毎日見てるものからすれば驚きでもあるが、1つは、高瀬耕造アナが毎年かならず伝えるメッセージで、大学入学共通テストのとき「マークシートの解答欄がずれていないのか確認するように」というものである。

どうやらご本人がそれで失敗したらしい。

失敗したことのない人は何をわざわざとおもってしまいそうなこの情報について、でも高瀬アナは毎年いつも真剣に伝えている。それでいいとおもう。

劇的な展開だった北京オリンピック2月17日

もう1つは2月18日、「ホントに昨日の北京オリンピックは朝ドラもびっくりするような劇的な展開でしたね」とコメントしていて、半年経つともう何を指しているのかわからない。

前日は、高木美帆選手が1000メートルで金メダル、ノルディック複合ラージヒルで日本選手団が銅メダルを取っていた。たぶん、そのへんだろう。

高瀬アナは、オリンピック感想が長すぎたとおもったのだろう「たわむれがすぎました。かっこ、虚無蔵」というコメントで締めた。

朝ドラがらみであることは捨てていないし(虚無蔵はドラマで松重豊が演じていた役の名)、多少意味がわからない。

とにかく高瀬耕造アナは軽やかだった。何だか楽しげだった。

三條雅幸・首藤奈知子アナコンビの「朝ドラ送り率」は16%

いっぽう三條雅幸アナおよび首藤奈知子アナは、4月4日から7月29日までのあいだに出演が75回、そのうち朝ドラに触れたのが12回である。

全体の割合でいくと16%。

『ちむどんどん』に限っていえば70回出演で、10回触れただけなので14%である。

2022年の高瀬耕造アナ時代67%に比べ、激減している。

四分の一以下である。

まあ、高瀬アナのほうはあれはあれで異常だったわけで、わりと「NHKの常識的なところ」に落ち着いている、と言えるのかもしれない。

エンディングに4人並ぶ「おはよう日本」

いまは「おはよう日本・関東甲信越」のエンディングは4人のアナウンサーが並ぶ。

三條雅幸アナ、首藤奈知子アナ、副島萌生アナ、伊藤海彦アナの順に立っている。

4人で、世間話をする。

ただ、13秒をまわすのに4人はちょっと多い。

妙な緊張がある。

4人で同時に話すこともある

だいたい首藤奈知子アナから話し始めることが多く(キャリアが一番上だからだろう)、その話題を三條雅幸アナが引き取り、それだけで終わるのがふつうのパターン。

だったら4人いなくていいだろうとおもうのだが、でも残り2人がからむときもある。

時間がないのに残り2人も話しだすとクロストークになって、即座には聞き取れない。

そして、朝ドラをネタにしたときに、4人が一斉に喋る確率が上がってしまうのだ。

たぶん4人とも、かなりきちんと朝ドラを見てるのだろう。

だからこそ、4人だと朝ドラに触れにくい気がする。

この「4人並び」が朝ドラ送りが減った原因のひとつではないだろうか。

高瀬アナと桑子アナの「ボケとツッコミ」時代

そういう点では高瀬耕造アナのときは、桑子真帆アナとのアナ二人並びのことが多かった。

その横には気象予報士の檜山さんがいて、彼は(わたしはアナウンサーではないので…)という気配を強く出して立っているので(だからこそ高瀬アナが敢えて振るとおもしろかったのだが)いちおう基本は「変なこと言い出しかねない高瀬アナ」と「それに反応しようとする桑子アナ」という基本のユニットで形成されていた。

ボケとツッコミの漫才ユニットと同じだ。

だから、連日のように朝ドラに触れられたようにおもう。

「送り」が減ったのは『ちむどんどん』のせいなのか

『ちむどんどん』がドラマとして今ひとつだから触れる機会が減っているのかというと、そういう可能性もあるが、たぶん、ちがう。

ドラマに問題があればあるほど、毎日見ている者にとって、何か言いたくなるものだからだ。

ヒロインの暢子(黒島結菜)はもちろん、兄の賢秀(竜星涼)や姉の良子(川口春奈)の発言や行動には、いや、ちょっと、と言いたくなることが多い。

だけど、前ほどには触れていない。

本来なら、「週一回は朝ドラに触れる」とでも決めたほうがやりやすいのだろうけれど、そういうわけにもいかないのだろう。

必ず触れるわけではないから、だからこそ「関東甲信越の7時59分47秒からの13秒間」から目が離せなくなっている。これはこれで、何か、してやられている感じもする。

私が見るかぎり、「4人のアナウンサーを横に並ばせる」という体制が、「朝ドラ送り」を減らしている一番の事情のようにおもう。

2人アナウンサー体制に戻れば、たぶん、朝ドラに触れやすくなるとおもうが、はたしてそれだけの理由で戻すかどうか、かなり難しいだろう。(そもそも「朝ドラ送り」を減らそうという意図が含まれているのかもしれない)

あらためて「高瀬アナの時代」が異様だったのだな、とおもうばかりである。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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