Yahoo!ニュース

二宮和也&多部未華子『マイファミリー』初話のスリリングな展開 「誘拐事件で興奮する警察」の衝撃

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

第一話がスリリングだったわけ

(ドラマ『マイファミリー』の第一話ネタバレしています)

日曜劇場の新ドラマ『マイファミリー』が始まった。

二宮和也と多部未華子演じる夫婦の娘が誘拐されるドラマである。

その第一話は、スリリングな展開で、85分、見る者を離さなかった。

見事な始まりであった。

誘拐事件が起きると、その初動捜査の展開はスリリングになる。

犯人は「警察へは知らせるな」と要求し、その目をかいくぐって警察は動きだし、秘密裏に大掛かりな捜査体制を組む。

どこまでも犯人に気づかれないように動くため、それだけでスリリングになる。

また素早い対応が大事なので、スピーディな展開を見せる。

いわば「誘拐もの」の型どおりな展開ではあるが、それでじゅうぶん、目が離せない。

一話で事件が起こって、これからどうなるかがわからない。

二話が見逃せない。

誘拐ドラマ型どおりの展開がおもしろい

娘が帰ってこないと妻(多部未華子)から知らされた夫(二宮和也)は、当初はまともにとりあっていなかった。

あまり家族と親密ではなかったため、そんなこともあるだろう、というのんきな対応であった。

これまた、型どおりの設定でもある。

誘拐ものでは、拐かされる子は富裕な家の子であり、だいたいその家にはいろんな問題がある。

家族円満でみんな仲がいい、という家の子は、ドラマではあまり誘拐されない。

そういうものである。

そして今回のドラマもそのとおりの展開である。

でも意に介してない。

TBS日曜劇場は、型どおりのパターンであろうと、それがおもしろいのならまったく気にしないで踏襲する力強さがある。

クリエイティブとは新奇なものにだけあるわけではない、といつも訴えているかのようだ。たしかにそうだよな、とおもって見ている。

娘のために熱くなっていく姿

誘拐された娘の父(二宮和也)は、日ごろ、家庭(妻と娘)とあまり関わっておらず(警察では仮面夫婦と噂されている)、最初のうちはどうしても他人事感があった。

妻(多部未華子)が心配していることを、きちんと聞いていない。

日常的に、妻の言動をちょっと小馬鹿にしているからだろう。

だから見ているほうは、妻のほうこそ、本当に娘のことを心配する親がましい人物であり、夫はちょっと信頼できないとおもって見始めることになる。

でもそれは徐々に逆転されていく。

金策に走りまわり、各所に頼み込んで何とか金を調達し、ものすごい量となった大金(五億円)を苦労して運ぶ姿に「どんなことをしても娘を取り戻したい」という熱意が激しく現れてくる。

その姿に、徐々に心動かされていく。

「徐々に」というところが、いいわけで、これはあきらかに二宮和也の存在感によるものだ。

薄っぺらそうな人物に見えていたのに、それが行動することによって、少し信用してみようかという気にさせる。

一話のなかだけでその逆転を見せた。

二宮和也だからこその「爽やかな薄っぺらさ」と「本気になった熱い心」を見せてくれて、心つかまれる。

多部未華子の見せる存在感

多部未華子もすごくいい。

夫に言いたいことがいっぱいあるのに、なかなか言えない妻を演じて、その内に溜めたエネルギーを無言で感じさせ、その存在感は二宮和也に負けない。

ときどき、ぽろっと洩らすように不満を語るが、相手にしてもらえない。

インスタに「仲睦まじい家族写真」を毎週あげていて、これは鬱憤晴らしでもあり、またせつない願望でもある。

そのいくつもの屈折を胸に抱き、それをストレートには言葉にしない女性を演じて、強く迫ってくる。

犯人との電話交渉のときは、なるべく冷静に対応しようとする夫を横目で眺めながら、彼女は感情的な声をあげてしまう。真に迫る声である。

そもそも警察に知らせたことをずっと不安におもいつづけている。

揺れる若い母親を演じて、それが熱く伝わってくる。

現場指揮官が「わくわくしない」と注意される事情

第一話のみごとさは、この夫婦ふたりの心情の変化を、説得力を持って見せてくれたことと、それと同時に「警察内部の心情」も見せたところにある。

「娘を誘拐された夫婦の心情」と「少女の保護と犯人逮捕をめざす警察の心情」には大きな隔たりがある。

迅速に動く警察の本音を、さらっと描く。

「現場指揮者」に任命された管理官の反応をみて、捜査一課長は「わくわくしない!」と注意する。

もちろん管理官は「してませんて」と答えているのだが、おそらくほんとのところ、少し「わくわくする」いるのだ。

誘拐事件の現場指揮官になるということには、そういう高揚があるようだ。

営利誘拐とは貴重な体験ですね、と言い放つ警官

また現場に到着した若い警察官は、宅配便業者の本物の衣装を身につけて興奮し、「自分、誘拐捜査は初めてなんで」と勢い込んで先輩に話している。

先輩は冷静に「みんな一緒、営利誘拐なんてずっと起きてなかった」と言う。

すると彼は勢いよく「なるほど、貴重な体験ですね」と答えてしまう。

もちろん先輩に、きっと睨まれ、すくんでしまう。

みんな、少し、浮き足だっている。

「久しぶりの営利誘拐」に浮き足立つ捜査官たち

「久しぶりの営利誘拐事件」の現場は、どうやら警察官の気持ちのどこかに「わくわく」を呼び起こしてしまうらしい。

もちろん全警官がそうだというわけではないだろうが、でも現場全体に、そういう空気がすこし漂うのかもしれない。

通報からのスピーディな反応は、職務優秀だからだろうが、で同時にみんなで力を奮うぞと興奮した状態であるから、という面もあるのかもしれない。

それはマスコミも同じだ。

みんな真面目な顔をして、目の前の職務をしっかりとこなしていくが、「どこか興奮がおさえられない」という部分がある。実際の現場では、おそらく誰一人として口に出さないけど感じている空気なのだろう。

その空気をいくつかのセリフで見せている。

現場の刑事は被害者夫婦の陰口を言う

また、現場の刑事から、警察署の本部への報告で、この夫婦は厄介な二人だとも話されている。

夫は「捜査方法を細かく確認してくる面倒なタイプ」と言われ、妻は「最低限の協力はしてくれてますが、警察に連絡したことを後悔しているみたいです」と報告されている。

本部からは「やっかいな二人だな、たのむぞ」と声がかけられる。

なかなかリアルなところだろう。

そのへんの細かい描写が、スリリングさが増していく。

両者に信頼がなく、誰のどの態度が正しいのか、まったくわからない。

迷いながらも、夫婦は事件の当事者になろうとする。

第一話はその姿を見せた。

スリリングさを増しながら、でも、主人公を強く応援したいという心持ちにさせることに成功していた。

日曜劇場ならではの、強く巻き込んでいくスリリングな展開が期待される。

果たして誘拐の目的は何なのか

夫はゲーム会社の経営者である。

だから五億円を用意することができる。

彼の会社は乗っ取りも企てられており、そういう方面からの事件である可能性も示唆されている。

つまり犯人の目的は、五億円をもらうことではなく「その金を用意したために会社経営が揺らいでいく」ことなのかもしれないのだ。

そのあたりは、まだ明らかにならない。

夫婦はどうやら大学時代の友人関係から結婚にいたったようなのだが、彼らの大学時代の友人(濱田岳と賀来賢人が演じている)にも複雑な事情がありそうだ。

そこの部分も目が離せない。

果たして二宮和也演じる夫は、何を失い、何を得るのか。

その苦しい選択を見守ることになる。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

堀井憲一郎の最近の記事