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キングオブコント審査席の「かまいたち山内」は何故あまり映し出されなかったのか

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:Splash/アフロ)

キングオブコント審査員の「表情」を見る

お笑いのコンテストでは、パフォーマンス中に審査員の顔が映しだされる。

だいたいギャグというかおもしろいことを言った直後、受けている客席とともに「ニマっと笑っている審査員の顔」が一瞬、映しだされたりする。

先だっての「キングオブコント2021」でも映しだされていた。

ただ、誰が映されるのか、かなりの偏(かたよ)りがある。

2021年のキングオブコントは、審査員が入れ替わった。

審査委員長(格)ダウンタウン松本人志だけが留任、あとの4人は新しくなった。

かまいたちの山内健司、ロバートの秋山竜次、バイきんぐの小峠英二、東京03の飯塚悟志。

この4人が入れ替わった新しい審査員である。

キングオブコントでもっとも人を安心させる顔

審査員5人の顔が、コントの最中に、入れ替わり、映しだされる。

一秒にも満たないくらいの一瞬だが、映される。

いわゆる「顔が抜かれる」というやつである。

誰がもっとも「抜かれた」かといえば、2021年は圧倒的に松本人志だった。

もっとも古株だし、もっとも安心する顔ということだろう。

それに、彼以外の審査員は、わかりやすいほど緊張していた。

東京03の飯塚悟志は、まだ年長だったので、少し余裕があったように見えたが、残り3人は、カチンカチン、と音が聞こえてきそうなくらいに、緊張していたようだった。

めちゃめちゃ笑っていることもあれば、真面目な表情もある

最初に10組のコントがあり、ファイナルに3組進んで2回めのコントを見せる。

合計13回のパフォーマンスを審査する。

コント13回中に「審査委員長の松本人志の顔映像が抜かれた回数」は33回だった。

ほぼ、全パフォーマンスで映しだされていた。

ファイナルの男性ブランコのネタ(レジ袋をけちった男)は、審査員を映しだすタイミングがむずかしかったようで、ふつう1回のコントで審査員は平均6回ほど映されるのに、このときは2回だけで、松本人志の表情は抜かれなかった。

それ以外の12のパフォーマンスでは、すべて松本人志の表情が見られた。

めちゃめちゃ笑ってるときもあれば、半笑いで顔の前で手を組んでいたり、何かを喋っていたり(軽くツッコんでいるように見えた)、ただ微笑んでるときもあり、真面目な顔をしていることもある。

ただ、「コント中に自分の反応が何度も映しだされる」ということに慣れているようで(あたりまえだが)、わかりやすい反応を取っている。

松本人志の次に多かったのはロバート秋山

ほかの新審査員は、松本人志ほど映しだされていない。

もっとも多く映されたのが、ロバート秋山で、18回だった。

たしかに秋山は、笑っていなくてもその表情が意味ありげで、サマになっている。

目が強い。ある意味、目つきが怖い。

だから笑っているときもやはり意味ありげで、映しだすのにはいい顔なのだとおもう。

3番は爽やかなバイきんぐ小峠、4番は柔和な東京03飯塚

次が小峠英二で14回。

彼は、なぜか「これぞ爽やかな笑顔の見本」というような笑い顔を見せる。

いつも風が吹き抜けているような爽やかさがある。何だろう。何とも色気のある芸人だということなのだろう。

喋るときの焦りはやや気になったが、黙って笑っているのはサマになる。

そして飯塚悟志が9回。

笑ってるときは、柔らかい感じで、いかにも見守っているという気配がする。

回数が少し少なかったのは、真面目な表情の時間が多かったからではないだろうか。

問題のかまいたち山内は3回しか表情を抜かれなかった

そして問題は山内健司だ。

かまいたちの、狂気じみたほう。

彼が映しだされたのは3回だけだった。

2番目のジェラードン、3番目の男性ブランコのときに一度ずつ抜かれて、最後のマヂカルラブリーのときにもう一度抜かれて、それで全部だ。3回だけ。

圧倒的に少ない。

途中から、なんで山内だけ映されないのだ、と気になるが、映されない。

なぜ山内の顔は抜かれなかったのか

最初の2回の表情は、かなり固い笑顔だった。

2回目は固い笑顔のまますぐに俯いてメモをしていた。

たぶん、すごく、真剣に、真面目に、見ていたのだろう。

笑うことも忘れて、真剣に審査していたのではないか。

「めちゃくちゃ笑うネタが多かった」と総評的なコメントをしていたが、でも、彼が大笑いしている表情が映されることはなかった。

「一瞬の表情を切り取りにくい審査員」だったのだろうと、想像するばかりである。

かまいたち山内は、左端(舞台上から見て、およびテレビを見てる人にとって左端)に座っていた。

ひょっとして座ってた位置の問題かとおもって、いちおう、去年2020年のキングオブコントでも調べてみた。

2020年の審査員はバナナマンとさまぁ〜ずだった

2020年の審査員は、バナナマンの設楽と日村、さまぁ〜ずの三村と大竹、そしてダウンタウンの松本人志である。ダウンタウンの浜田雅功は司会をしている。

座り順は左から、設楽、日村、三村、大竹、松本の順である。

かまいたち山内の席にいたのはバナナマン設楽。

バナナマン日村は39回、さまぁ〜ず大竹はたった2回

2020年のキングオブコント、パフォーマンス中に顔を映し出された審査員別の回数。

多い順に並べる。

日村勇紀39回、松本人志36回、設楽統29回、三村マサカズ17回、大竹一樹2回。

これはこれで驚く。

楽しそうな日村と真面目そうな大竹

バナナマン日村は、純粋にコントを楽しんでいるようだった。

ふつうに笑って、いつも楽しそうである。だから映される回数が多い。

松本人志より多いというのが驚きだ。

それほど「絵になる笑顔」ということだろう。丸っこいものは強い。

逆に、さまぁ〜ず大竹の、たった2回だけ、というのもびっくりだ。

そのうち一回は斜めから「三村と大竹と松本」の3ショットで抜かれているから、一人きりの表情を映されたのは一回だけだったのだ。

かなり真剣に何かを削るようにコントを見続けていたのだろう。

左端にいたバナナマン設楽は29回も映されていて、とにかく「左端の審査員が映されない」ということはないようだ。

やはり、かまいたち山内、および、さまぁ〜ず大竹の表情の問題だとおもわれる。

審査員として真剣すぎて、テレビ的な表情を作っていなかった、もしくは作っても間に合わなかったのではないかと(見られてないからあくまで想像ではあるが)、そう考えられる。

2020年審査員の余裕と、2021年審査員の緊張

あらためて2020年の審査員を見直すと、もう6年連続審査をしているというのもあって、すべての審査員がゆったりしていて、審査後のコメントも楽しく聞ける。

お笑いの人が、お笑いを審査しているのだという気配が横溢としていて、コメントを聞くのも楽しい。

比べて、2021年の審査員はあまりにも緊張していて、その緊張ぶりが一周回ってめちゃおもしろかった。

天丼でもないのに同じことを言うお笑いの人

「直前に別の審査員が言ったことと、ほぼ同じ内容を続けてコメントする」というのがけっこう目立っていた。

ふつう、お笑いの人は、そういうことはしない。「天丼」という、あえて重複させるボケでもないかぎり、前の人と同じことを言わない。

けっこうそれが目立っていた。

素直に聞いていればふつうのコメントだが、お笑いの人がそれをやっているのかと一周回って見ていると、かなりおもしろい。

松本人志は、つねに何かしらおもしろいことを言おうとしていた。それですべっていたのもあったけれど、コメントもまたエンタメの一部だという意識が高く、彼の顔ばかりが抜かれるのも当然だろう。

テレビの番組で、しかもそこそこのベテランのお笑いの人たちが緊張している姿というのがとても珍しく、これはこれで、おもしろいものを見られたな、とおもった。

たぶん2021年でしか見られない風景であろう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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