Yahoo!ニュース

ドラマ連続主演中の杉野遥亮 「小三男子から怪奇酒男まで」イケメンらしからぬ魅力

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

テレビ東京ドラマで連続主演を続ける杉野遥亮

杉野遥亮はテレ東のドラマ『直ちゃんは小学三年生』に続いて『東京怪奇酒』で連続で主演を務めている。

深夜枠とはいえ、二作連続でのドラマ主演はなかなか珍しい。

続いているような二作ではあるが、内容は別のドラマである。

どちらも少し変わったドラマだ。

どうも金曜深夜のテレビ東京ドラマは、かなり真剣に「変わったこと」をやろうとしているように見える。

金曜夜はまず24:12から(すでに日が変わって土曜ではあるが)『バイプレイヤーズ〜名脇役の森の100日間〜』が放送されている。ドラマ撮影の舞台裏を描き、少しのリアルさと多くのフィクションが混在している「メタドラマ」である。かなり開き直った奇妙で面白いドラマである。

杉野遥亮主演ドラマ『直ちゃんは小学三年生』の奇妙さと凄み

そのあと24:52から始まるのが「ドラマ25」であり、そこで今年になってからずっと杉野遥亮主演の世界が展開している。

前作『直ちゃんは小学三年生』では杉野遥亮たちが“小学三年生”を演じていた。

(1月9日から2月13日までの全6話)

ドラマの冒頭にこういう説明が出ていた。

「このドラマの登場人物は誰がなんと言おうと小学生です ご理解ください」

大人の役者が「小学三年生」をそのまま演じていたのでこの注意書きになっていたのだ。

それぞれの年齢を書くと、杉野遥亮が25歳で、渡邊佳祐27歳、前原滉が28歳、竹原ピストルは44歳で、この四人がいつも一緒にいる親友グループだった。みんな小学三年生だから8歳か9歳。

服装や持ち物は小学生らしかったが、外見はそのままで、たとえば竹原ピストルはヒゲ面のままなので、見た目は大人だけど、彼らは心情も行動も小学三年生そのままに演じていた。

彼らがきちんと小学三年に見えるかどうかで、見る人を振り落とす「裸の王様の着ているきれいな服が見えるか?」というドラマであった。

なかなかに例を見ない、すさまじい作品である。

小学三年生の世界はどこまでも狭い

小学三年生の世界というのはすごく狭いので、その狭い世界だけが描かれている。

大人は現れなかった。

駄菓子屋のおばあちゃんと、直ちゃんの母が声で出てくるぐらいで、あとは同級生か、同級生の兄(小学生)しか登場しない。世界がとても狭い。

女子も出てくるが、小学三年男子にとって女子は不可解な存在でしかないから、よくわからない存在として少し出てきたばかりである。

遊び場になっている公園と(宝物も埋めてある)、秘密基地と、ばあちゃん一人でやってる駄菓子屋、あとは直ちゃんちの前くらいが舞台で、たしかに小三男子にとっては家と学校以外では、(習い事がなければ)それぐらいが世界のすべてだった。

『直ちゃんは小学三年生』が示していた狭い世界の楽しさ

世界を区切って、小さくとらえて、その世界で懸命に生きている。その姿が描かれていた。

ぼんやり見てると「生きてるってつまり何なんだ」と考えさせられてしまいそうな物語ではあるが、気分が小学三年生のままだから、みんなあまりそれ以上は考えない。それでいいんである。

「小学三年生男子だったことを覚えている男子」にとっては、あのころはほんとにバカだったよなとおもいだせる世界だった。

それなりに必死だったし、でもバカだったし、そしてどうしようもなかった、ということである。そしてそれはいまと変わってないかも、と考えたり考えなかったり。

小学三年生が一生で一度しかないように、たぶん、あとから見返したり、続編を見たりしては意味がないんじゃないか、とおもわせる刹那的な物語でもあった。

世界は狭いから楽しかった。

杉野遥亮の演じる直ちゃんは、小学三年なりにかっこよかった。

かっこいいんだけど、見てるほうも頭を小学三年生にしないとかっこよく見えなかった。半ズボン姿で黒板消しを叩いて、どうだ、とこっちを見ている杉野遥亮は、小三男子の気持ちで見ないと、かっこよく見えない。

怪奇ドラマではない『東京怪奇酒』での主演

その続きのようなドラマ『東京怪奇酒』もかなり変わっている。

(2月20日から始まって全6話予定)

タイトルに怪奇と入っているが怪奇もの、つまりホラーではない。

見ている人を驚かそうというドラマではないのだ。

『直ちゃんは小学三年生』を撮影中の杉野遥亮が、マネージャーに呼び出されているところから始まる。杉野遥亮は半ズボンの小学三年生スタイルのままである。

そこからの話の流れでなぜか「怪奇スポット・霊感スポット」に彼が一人で出向いてお酒を飲むということになってしまう。その姿を追ったお話である。

少しドキュメント風に仕立ててあるが、どこからどう見てもドラマである。

言ってしまえば「杉野遥亮を見るドラマ」でしかない。

でも奇妙なおもしろさに包まれている。

ホラーが苦手だという杉野遥亮がひとり怪奇スポットで酒を飲む

説得されて杉野遥亮はお酒を用意して、怪奇スポットへ出向く。

もともと杉野遥亮はホラーが苦手(という設定)なので、それを克服しようとして怖い場所へ一人で出向いている。怖いのをこらえて、怪奇スポットで一人酒を飲む。

つまり「肝試し」ドラマ、という味わいである。

肝試しがドラマに登場して、それをきっかけに怖いことが起こるというホラー作品(ないしは恋愛ドラマ)は見たことがあるが、「肝試ししている姿をずっと追うドラマ」はあまり知らない。

おもしろい、とおもえばおもしろい。でも入り込めなければたぶん意味がわからない。

そこは『直ちゃんは小学三年生』と同じテイストである。

怪奇スポットの話がすごいとか、怨念話が尋常ではないとか、そういうこともない。(一部、話がカットされていたりもする)。

怖い話は入っているが、そこにメインがない。

怖い場所でどんどん酔っ払っていく杉野遥亮の不思議な気配

怪奇スポットの地面に座りこんで、杉野遥亮がひたすらお酒を飲んでいる。

また、そこで飲むお酒が、やたらとうまそうなのだ。

暗くなってからの怪奇スポットなんかぜったいに行きたくないけど、でも、そこで飲むお酒がそんなにおいしいのなら、ちょっとだけ、一回くらいなら行って飲んでみてもいいかな、とおもわせるくらいに、うまそうなのだ。

杉野遥亮は酔っ払っていく。

怖さが麻痺していくようだ。

そして予想外に長居してしまう。ある瞬間ふっと気がついて、その場から全速力で走って逃げ帰る。そのとき「まさに生きている」という気持ちになるという心情にもふれたドラマである。

でもそんな心情は、どうでもいい。

そもそも一人で怪奇スポットで酒を飲むという部分に共感できていないから、そこから生還して生きてるんだ、と叫ばれても、そうなのか、としかおもえない。

そして、あえてそういう作りをしているところが、おもしろい。

怪奇スポットに行く前の杉野遥亮は、いつもどおり、すごいイケメンである。

いけてる若手の役者がスタッフたちと話しているんだなという素敵な気配が出ている。

ところが「怪奇酒」を飲み始めてからの杉野遥亮は、あまりイケメンではない。

イケメンらしさがかなり減っている。

かなりビビっている若者が、酒を飲んで気持ちが大きくなり、われに返って逃げるという「とても小心な人物」でしかない。

小心さがきちんと全身を覆っていて、イケメンらしさはうしろにまわって、そのぶん人間的な魅力が出てきている。

『ミストレス〜女たちの秘密〜』で魅せていた杉野遥亮はどこに

杉野遥亮がこれまでドラマで見せてきた役は、いかにも若手イケメンという役どころだった。

たとえば篠原涼子主演の『ハケンの品格』2020年版では、やる気のない新入社員役だった。ぱっとしない役どころというのは彼としては珍しいのだけれど、イケメンだけにやる気のなさが際立って、見てる人をちゃんと腹立たしくさせていた。これは損な役どころだった。(最後はちゃんとしていたんだけど)。

生田斗真主演の『俺の話は長い』(2019年)では主人公の後輩で近くのバーのバーテンダー役を演じていた。これは人の話をきちんと聞いてあげるやさしいキャラクターだった。

注目を浴びたのはNHK『ミストレス〜女たちの秘密〜』(2019年)でのヒロイン長谷川京子の相手役だった。杉野遥亮の色気が全開の作品で、この路線をしっかり歩むイケメン俳優になるのだろうとおもって眺めていた。でも実際は、その後あまり恋愛ドラマのメインを彼はやっていないのだ。戦略なのだろう。

戸田恵梨香の『大恋愛〜僕を忘れる君と』(2018年)では、ムロツヨシのバイト先で働く若手で、ここでもやさしい気配の若者だった。

線が細めで、やさしい気配の役者である。

立っているだけで色気を感じさせるイケメンでもあった。

でも2021年になってからは「半ズボンの小学三年生」から「怪奇スポットで一人で酒を飲んで変に笑い続ける青年」を演じている。

大人が見ていられる俳優を目指しているのだろう。

たしかに、いまの杉野遥亮は、見ていて飽きない。

そこがいい。イケメンらしさを越えて、注目して見ていきたい。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

堀井憲一郎の最近の記事