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朝ドラ『エール』の娘・華の半生を振り返る 古川琴音の存在感が見逃せない

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:政処 裕介(まろけ)/アフロイメージマート)

最終前週の『エール』は主人公の娘の華の物語

朝ドラ『エール』はいよいよ終盤である。

今週は終盤に入り、主人公の古山裕一・音夫婦の娘“華ちゃん”の恋物語に入っている。

つい「華ちゃん」と呼んでしまいたくなるのは、生まれたときから知ってる親戚のおじさんのような気持ちで見てるからだろう。

ロカビリー歌手(宮沢氷魚)との仲が深まっていって、ほっこりする展開である。

いまドラマ23週(全24週)で華ちゃんは24歳の看護“婦”である(舞台は昭和なので、まだ看護師とは呼ばれない)。

いつのまにか24歳になっていた。今週、急に成長した。

今週の火曜日ぶん(11月17日放送の112話)から昭和30年代に入っている。

あらためてドラマの中での「華」を振り返ってみる。

華は昭和11年で4歳なので昭和7年生まれ

彼女が生まれたのは6月5日放送の50話だった。

母は音楽学校の記念公演『椿姫』への出演を断念して、華を出産した。

しばらく赤ちゃんとして登場していて、彼女がふつうの少女として出てきたのは61話である。

6月22日の放送。演じるのは子役の田中乃愛(7歳)。

昭和11年、なんとか古山裕一の生活が安定していたころで、プロデューサーに“低め安定”と呼ばれていたが「六甲おろし」や「仙台小唄」を作曲して好評だったころである。「六甲おろし」(阪神タイガースの球団歌)の完成を喜んでかけつける関係者役で掛布雅之が出ていて、朝の放送では気づかず、昼の再放送で、え、これ、ひょっとしてあのタイガースのカケフかと驚いて二度見してしまうほど面変わりしていましたが、主人公は気にしてないようだったので、それでいいでしょう。

61話は昭和11年で、華は4歳になりました、とナレーションがあった。

彼女は昭和7年生まれのようである。

子役の田中乃愛ちゃんはなかなかおしゃまで、喫茶店でマスターを「タモツ」と呼び捨てにして、生意気でかわいかった。

11歳と15歳で役者が交代、古川琴音はさらりと凄みを感じさせる

ドラマ第16週、9月28日放送の78話の舞台は昭和16年12月で、ついに対米英戦が始まり、主人公の古山裕一はがぜん忙しくなり、78話内で2年進んで昭和18年となった。

華は11歳になりました、と役者が変わった。根本真陽(11歳)。

彼女は戦時下の少女を演じた。

翌々週、10月15日放送の89話で終戦。

主人公は放心状態となった。

その翌週、10月20日の92話で、お話は昭和20年から昭和22年へと進む。

朝、華がお弁当を持って学校に出て行くシーンがあって、そこで「そのまま一年半が過ぎました」のナレーションがあり、華が帰ってきてたら、背が高くなって顔も変わっていた。

役者が交代したのだ。見ていてちょっと驚いたが母が驚いてないので(あたりまえだけど)そのまま見続けた。

こんど華を演じるのは古川琴音(24歳)。

さっき調べて、古川琴音は24歳だったのかと驚いている。

かなり子供っぽい顔なので、そんなに違和感がなかった。

初登場の昭和22年は中学三年生だから15歳の役である。

15歳から24歳まで演じていて、さほどに無理を感じさせない。

とてもさりげなく感じるというところに、この役者の持つ深さと凄みがあるようだ。

これからちょっと目が離せない。

華役の古川琴音は叔母役の森七菜と別ドラマで共演中

ご存知の方も多いだろうが、火曜のドラマ(TBS系)『その恋あたためますか』で古川琴音は主人公役の森七菜とルームシェアしている友人役を演じている。(しかも漫画家志望の中国人で来日五年目というかなりひねりの利いた役である)。森七菜は『エール』では“華の母の妹”をやっているから『エール』の叔母―姪が、そのまま『その恋あたためますか』で一緒に住む友人どうしになっているのだ。ちょっとこういうのは珍しい。(ちなみに森七菜は19歳で、古川琴音の五つ下)

華は看護学校に進む。

ドラマ最終前週の11月16日。

111話。

まず一世を風靡したラジオドラマ『君の名は』の話題から始まった。

ラジオドラマが放送されたのは昭和27年。(そのおよそ四十年後の平成3年には朝ドラでも放送され、異例の一年放送だった。主演は鈴木京香)

この111話から、『エール』も残り10話となり、いろんな話を進めなければいけないようで、ちょっと気ぜわしくなってきた。

『君の名は』の現場へ急ぐ父と入れ替わりに「看護学校の実習で疲れた華」が帰ってくる。昭和27年だから華は20歳。

ラジオドラマ『君の名は』を母の音は真剣に聞き入っているが、華は「またすれちがうの!?」と少々あきれぎみだった。

母世代と娘世代の感覚の差、というところなのだろう。

母はこの時点で四十代で、なかなか若々しくて、無理に母らしいメイクなどしてないところがとてもいい。

『君の名は』は予定が延びて昭和29年の春まで放送された。

華は22歳の看護“婦”さんになっている。

ドラマはいきなり昭和30年代へ入っていく

111話が月曜(11/16)で、火曜日(11/17)が112話。

「華が働き始めて3年が経ってました」とドラマは進む。

テンポが早い。

この日の冒頭、華が家に帰ってきたとき、母はテレビのスイッチを切ったみたいで、ちょっと驚いた。

テレビそのものが映し出されなかったから、大きなラジオのスイッチを切ったのかもしれないが、でもそれは有り得ないとおもうので、おそらくテレビジョンセットである。

昭和31年である。

まあかなり裕福だったであろう主人公古山裕一なら、ふつうにテレビジョンセットは持っていてもおかしくないが、でも昭和31年時点だと、かなり珍しくて、おそろしく高いものだったはずだ(いまの感覚で数百万円ではないだろうか)。おそらく近郷近在の人が、ちょっと見せてくれと、家に入り込んで来たのではないかとおもわれるが(少なくとも喫茶バンブーの夫婦は来るとおもう)そのへんは略されていて、なにげなくテレビを消していたので、ちょっと驚いた。

華の恋物語はアップテンポでなにやら楽しい

もう25でしょうと母が大雑把なことを言うので、華はまだ24歳です、と言い返していて、ちょうど演じてる古川琴音の年齢に追いついたことになる。

24歳だといまならまさに「これから」という年齢だが、昭和31年では「早く結婚しないといけないとあせる年齢」で、これは何となく昭和の終わりごろまで(少なくとも昭和50年代まで)は続いていたので、この空気は覚えている。

24歳で独身看護婦の最年長になったという華のショックは「人生五十年だ」とおもって生きていた時代の最後の名残りのようなものだろう。

112話の後半から「24歳の華の恋物語」に入った。

彼女は重い女と呼ばれていることにコンプレックスを持っている。

113話の最後には「自分を変えたいの! 私、重い女を卒業する! 軽い女になる!」と重々しく言い放って、母に「その決意がすでに重いのよ」と言われていた。強い決意だったようで、どーんと大きなテロップで「華、軽い女になる」「明日放送!」と入って、それに重ねて決意の華の表情が止まっていた。

昼の再放送でそれを受けた一時のニュースの三條雅幸アナは、あきらかに笑ってました。三條アナを見てまたこっちも笑ってしまいました。

月曜の111話が昭和27年の『君の名は』と、それより前の「イヨマンテの夜」を扱っていたのに、翌日112話に昭和31年に飛んだから、ちょっと見失いそうになった人もいるとおもいますので、あらためて、時系列を確認しておきましょう。

『エール』は今週の火曜(11/17)から昭和31年に入っています。

天才作曲家の才能を追うと一般人には長く感じられる

終盤を迎えて、ちょっと急いでるようなので、しっかりとついていかないといけない。

主人公が作った曲、つまり実在の古関裕而が作曲した「長崎の鐘」、「栄冠は君に輝く」、「イヨマンテの夜」はかなり相次いで出されており、かなり近い時期の曲である。

でもドラマではそれぞれの背景を追っていたから、それなりの時間が流れたように感じてしまう。

これは、同時にいろんなヒット作品を作る天才の感覚を後追いしようとすると、ふつうの人にはとても長く感じてしまう、ということではないだろうか。

時間が伸びたり縮んだりする感覚を味わえて、何だかおもしろい。

終盤になってまたドラマはわくわくするものになってきた。

華役の古川琴音もその存在感がすごく増している。

ロカビリーもぶっとばすくらいに、走りきってもらいたい。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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