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侍ジャパンはなぜ敗れたのか。元代表スコアラーとの対話から。

本郷陽一『RONSPO』編集長

テレビ画面に写し出された内川の涙……中田翔はしばらくベンチを立たなかった。遠くサンフランシスコからの映像に彼らの悔しさは十分に伝わってきた。プエルトリコのメンバーは、まるで優勝したかのようにはしゃいでいる。

1-3。惜敗と言えばいいのか。完敗と言えばいいのか。

たらればは勝負の世界に禁物だろうが、ついつい、たらればを語りたくなるゲーム内容だった。やり方によっては勝てた。私は、4月10日発売予定の書籍「虎のスコアラーが教えるプロの野球観戦術」(祥伝社)の制作でやりとりを続けている著者の三宅博さんに電話をかけた。三宅さんは、元阪神のチーフスコアラーを25年勤め、北京五輪の日本代表チームのスコアラーも任された“元007”である。

――残念でした。勝てる相手でしたね。

「いや。結果がすべて。負けたということは技術がないということ」

――追い込んでからのコントロールミスが出た日本と、追い込んでからの制球、配球のよかったプエルトリコ。投手陣が対照的でした。

「モリーナーはピンチになってからの配球が上手かったね。ストレートを意識させておいてフルカウントから平気でボールの変化球を使ったり、入りのボールからは外のボール球を使ってきた。でも、これだけ打線が打てないと勝てないだろう」

――ボール球ばかりを振らされていました。

「これが国際試合、短期決戦の怖さだな。技術よりもメンタル面。打ちたい、なんとかしたいという気持ちがはやると、ああいう結果になる。おそらくシーズン中ならば、阿部にしろ稲葉にしろ、あんなボール球は振らないだろう。先発のサンティアゴは、腕の振りがストレート系と変化球でほぼ一緒で、しかも小さく変化させてきた。打ち気にはやる打者がはまりやすいタイプの相手。コントロールミスがないので日本の打者は、なかなか芯で捉えることができなかった。手元で変化するとしても早いカウントの甘いボールを踏み込んで仕留めるしかなかったのだろうが、タイミングが合っていなかった。そういう意味では国際試合の経験不足であり技術がなかったのだろう」

---そういう技術は日本の打者にはあるでしょう。

「そういう見極めも含めたバッティングができていたのは井端と内川だけ。とにかく初めて見るピッチャーの球筋なんだから、どういうイメージのボールなのかをもっと事前に考えて準備しておくべきだったとも思う。北京五輪のチームでは、宮本慎也などは『日本の投手で言えば誰でしょう?国際試合では、そういう例えをして欲しいです』と、事前のイメージを大事にしていたからね」

――その内川です。8回の重盗失敗の場面ですが、どう見ました。

「信じられないミス。内川のスタートを見ていると、彼は盗塁のサインが出たと思っていたんだろうな。2点差。一死一、二塁でバッターは4番。常識では走らない。サインは出ない場面だから内川の見間違いと考えるべきだろう。井端はスタートを切っていないから。でも台湾戦では常識では走らない場面で鳥谷の盗塁が成功したから(笑)。相手のスキをついて二、三塁にしておき一気に一打同点を狙うという考えもあったのかもしれない。しかし、一、二塁のダブルスチールには、必ず約束ごとがいるんだよ」

――それは?

「一塁走者と二塁走者が同時にスタートを切るか、前の走者を見てから後ろの走者がスタートを切るか。阪神時代も、後ろの走者だった新庄がスタートを切って今回と同じようなミスをしたことがあった。野村克也さんは『基本的には2つの考え方があるが、チームとしてどうするべきかを決めておくこと。私は後ろの走者は前の走者を見て走るという方の考えだ』と言っていた。そういう決めごとが、今回のチームにあったのだろうか」

ーー山本監督のコメントは、「行けたら行けのサイン。相手投手のフォームも大きかった」というものでした。

「重盗で行けたら行けなんて無責任なサインはありえないよ。THISボール(そのボールで盗塁する)しかない。理解できないなあ」

酷い審判のジャッジへの対応力

――マエケンは悪くなかった。それにしても審判のジャッジはひどすぎました。

「まあひどい審判だったことは確かだな。初回も何球かストライクがあったのにボールの判定。でも、ああいうジャッジをされると、ボールを半個でなく、ひとつ内に入れたがるもの。本来はストライクからボールになる出入りをしなければならないのに、それが逆になってしまう。そうなると、メジャーリーガーは見逃さない。彼らも打ちたい、なんとかしたいと思っているんだけど、コントロールミスをすると、その気持ちが空回りしなくなる。審判が、そんなジャッジをした場合のおおらかな対応力が日本にはなかったのかもしれない」

――日本はインサイドを使う余裕もありませんでした。

「前のWBC優勝キャッチャーである城島は『一発勝負となると、どうしても安全策のリードになる、つまり、外と低目』と言っていた。もっとインサイドを使って欲しかったが、怖さがあるんだろう。インサイドを見せずに低目、外の勝負となると、コントロールが重要になってくる。ひとつミスが出ると、つけこまれるよ」

――悔しいのは、7回の能見が浴びた2ランです。僕は、前の回のピッチングを見た時、「すぐに攝津に交代すべき」とテレビの前で叫んでいました。ボールが安定せず、たまたま1イニングを抑えたに過ぎない。ハッキリ言ってベンチの継投ミスだと思います。

「能見は、アドレナリンが出過ぎていたのか、それともマウンドの傾斜が合わなかったのか、ボールが全部高かったし、制御ができていなかった。それに彼の持ち味はフォークなのに、なぜ、それを使わなかったんだろう」

――あれだけ高低に制球がばらけたら不安だったのでは?

「公式球の影響もあったのかもしれないが、私には、あのリードがわからなかった。古田あたりだと、もっと使っていただろう。今日はマエケンも悪くはなかったが、ピシッとはまっていたのは、山口だけだったね」

――終わってみて、日本は3連覇を果たせませんでした。メジャーリーガーが出場しませんでした。その影響なのか、日本野球が後退したのでしょうか?

「中南米が本気になっているよね。確かにイチローが一人いたら、今日のようにボール球を振らされることはなかっただろう。バットは止まっている。一人がそういうバッティングをすると周囲に影響を与える。そう考えるとメジャーリーガーがいなかったことは痛かったのかもしれないが、何も日本野球が後退したとは思わない。投手が持つ技術の素晴らしさは見せたと思う。国際試合の経験不足は、これからの課題なんだろうけどね」

WBCの総括は、あらゆる角度から行う必要があるだろう。

代表メンバーの選出はベストだったのか。マー君が休日返上で調整練習をしている時に遊びに行っていたコーチもいたような首脳陣の組閣で良かったのか。そもそもWBCに向かうための準備は万全だったのか。各選手、各球団に温度差はなかったのか。

祭りの後にこそ、我々は考えなければならない。

テレビカメラが、お客さんがほとんどいなくなった球場にカモメが飛び回る姿を映し出していた時、僕はそんなことを考えていた。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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