デジタルで「顧客体験」の価値を高める ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートにリピーターが多い理由

マジック・バンド(筆者撮影)

入場から、マジカルなウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート

 テーマ・パークや最近の遊園地は、乗り物単位ではなく、そのパークや遊園地に入場する時に、入園料を支払う方法が主流だ。入場券を購入し、購入した紙のチケットを確認して、入場する。ごくありふれた光景だ。しかし、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートのパークには、紙のチケットがない。入場する時には、以下のような「マジック・バンド」と指紋の認証で、入場OKだ。腕時計のようなバンドのミッキー・マウスの部分を、入場確認の機械に触れさせて、入場確認機のミッキー・マウス形になっているライトが緑に光れば、夢と魔法の国への入場が完了。入口から、マジックが始まる。

マジック・バンドで入場する(本人)
マジック・バンドで入場する(本人)

マジック・バンドのしくみ

 マジック・バンドの仕組みは、単純である。RFID(radio frequency identifier)がそれぞれのマジック・バンドに入っている。楽天EdyやSUICAなどと同じ仕組みだ。これらは、カードの形になっているが、マジック・バンドは、腕時計の形になっているだけである。

ディズニーのスマートフォン・アプリの画面(筆者のスマートフォンのスクリーンショット)
ディズニーのスマートフォン・アプリの画面(筆者のスマートフォンのスクリーンショット)

 チケットは、事前にWebサイトで購入。その時に、サイトにユーザー登録も行い、誰がチケットを購入したかがわかるようになる。マジック・バンドをこのユーザー情報に結びつけることで、紙のチケットが不要になるのである。

映画『アバター』のアトラクションも増えた。この、アトラクションも、ファスト・パス・プラス対象(筆者撮影)
映画『アバター』のアトラクションも増えた。この、アトラクションも、ファスト・パス・プラス対象(筆者撮影)

ファスト・パスもマジック・バンドが兼ねる

 さて、入場の時に使ったこのマジック・バンド、入園後も便利である。まずは、ファスト・パス。正式には「ファスト・パス・プラス」という名前だ。アトラクションの長い行列を避けるために、アトラクションの利用時間を事前に予約するものだ。

 日本のディズニー・リゾートでは、紙のチケットを、ファスト・パスの発券機にかざして、紙のパスをもらう。このために、その時には乗らないアトラクションまで一度行き、紙のチケットを出し、発券機から出てきたファスト・パスを宝物のようにしまうという事を行う。そして、実際に乗るときにも、この紙のファスト・パスを出さないといけない。

 しかし、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでは、まずスマートフォンやパソコンから、先ほどチケットを買ったサイトにアクセス、または専用のアプリをスマートフォンにダウンロードして、事前にファスト・パス・プラスに登録したい物を登録すればいい。この登録は、通常30日前からできる。あとは当日、アトラクションの利用時間にファスト・パスの入場口で、マジック・バンドを、タッチするだけである。

ファスト・パス・プラスの予約画面(筆者のスマートフォンのスクリーンショット)
ファスト・パス・プラスの予約画面(筆者のスマートフォンのスクリーンショット)

写真もマジック・バンドで

 テーマ・パークに来たら、当然家族や友人と思い出のために、写真を撮りたくなる。ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでは、多くのカメラマンが、私たちを撮るために待っていてくれる。日本では、スタッフに声をかけて、自分のカメラやスマートフォンを使って写真を撮ってもらうことが多い。しかし、ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでは、カメラマンが、写真スポットに事前にカメラを設置して待ってくれている。写真は、もちろん有料だが、後から欲しい写真だけを買っても良いし、写真撮り放題のプラン(メモリー・メーカー)もある。

 ここでも「マジック・バンド」が登場する。写真を撮ってもらったカメラマンに、マジック・バンドをタッチする。そうすると、数分後には撮ってもらった写真が、チケットを買ったサイトの自分のユーザーIDでログインしたページに、「いつ、どこで」という情報ともに保管される。あとは、パークから帰ってからゆっくりと、思い出にひたりながら、写真をオンラインで購入すれば良い。

IoTで生まれ変わったテーマ・パーク

 「マジック・バンド」によって、テーマ・パーク内の体験が変わった。よく考えると、この「マジック・バンド」は、いわゆるIoTである。ユーザーごとに、異なるRFIDタグを持ち、そのタグにインターネットで更新した情報がリンクされるのである。

 実は、このウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートでの驚きの改良は、魅力的なアトラクションをタイミングよく設置することはもちろん、テーマ・パークに無料のWi-Fiが用意されていることにある。非常に広大なテーマ・パークの隅々までWi-Fiが張り巡らされている。それも、一度どこかでWi-Fiに一度アクセスすれば、この山手線の内側2倍の面積のパーク、オフィシャル・ホテル、どこでもつながる。

 これにより、パークに来園したゲストは、ファスト・パス・プラスを追加で取ることも、当日のレストランを予約することも、カメラマンに撮ってもらった写真を確認することもできるのだ。ほとんどストレスがない。

テーマ・パークの体験は、顧客の感じる重要な価値

 この「マジック・バンド」は、長い歴史のあるディズニーのパーク事業の重要なプロジェクトの一つであった。ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートも開園から歴史が流れ、このようなテーマ・パーク事業にも、競合が出て来た中で、この新しい体験の提供が必要になったのだ。

 この「マジック・バンド」は、アメリカのデザイン・スタジオ「フロッグ(frog)」によるものである。今まで、遊園地やレジャー施設は、目玉になるアトラクションや、パレードのような企画で、他との違いを出してきた。確かに、アトラクションの進化はある。しかし、訪問しているお客は、アトラクションやパレードを体験しているだけではなく、全ての滞在時間を楽しみたいのだ。この「マジック・バンド」は、まさに「テーマ・パークの顧客体験」の改良から、テーマ・パークの価値を再構築したと言える。もちろんアトラクションやイベントの企画・更新も重要だ。それに加えて、このようなアトラクション以外のインフラに投資を行い、「来園者の顧客体験」を変えることは、今の時代に求められていることだろう。人気の新しいアトラクションができても、それを楽しむまでの体験に問題があれば、お客は離れる。行列に並ぶ時間を少なくするなどの工夫をして、滞在している時間のすべてが快適で「行けば楽しく過ごせる場所」になることができれば、来園者は子供から大人まで何度も足を運んでくれるリピーターになってくれるだろう。

 日本の遊園地、レジャー施設、観光業も、滞在時間の体験を総合的に見直すことで、より魅力的になり、価値が高まることがあるだろう。「顧客体験」を「価値」にすること、これが今後の遊園地やレジャー施設、観光業に求められていることだろう。