視聴者の多いテレビに広告を入れるなら誰でもできる

アメリカで人気のスポーツNFL(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

アメリカのテレビ視聴者数の多い番組

 ここに、アメリカのテレビ視聴率提供会社、ニールセン(Nielsen)が提供している、歴代のテレビ視聴者数の多い番組の1位から10位までの表があります。

アメリカのテレビの歴代視聴者数
アメリカのテレビの歴代視聴者数

 このTop 10を見ると、9位のM*A*S*Hというドラマの最終回を除いては、すべてSuper Bowlという名前が並ぶ。このSuper Bowlとは、アメリカン・フットボール決勝戦の生中継番組である。昨年の2017年2月5日のSuper Bowlも、4位に入っており、その視聴者数は、1億1130万人である。

 このSuper Bowl、これだけ視聴者数が多いので、テレビ・コマーシャルの放映単価も当然高い。アメリカのスポーツ専門誌Sports Illustratedの報道によると、30秒で500万ドル、5億5000万円(1ドル、110円換算)である。ちなみに、1億1000万人がテレビを見ると仮定すると、1人5円と非常に安価なコミュニケーション・コストになる。

 テレビの番組ごとの視聴者数の減少は、確かにある。しかし、このように視聴者数の多い番組も存在して、その一人当たりのコミュニケーション・コストが安価なのは、今も変わらない。ところで、マーケッターは、テレビ・コマーシャルを流すときに、この一人当たりのコミュニケーション・コストだけで設計するのだろうか。

アップルが、Super BowlのCMを活用

 このSuper Bowlの1984年に、アップルがテレビ・コマーシャルを放映した。

(このサイトでは、この広告の背景を語られた、Bloombergのチャネルから紹介します。テレビ・コマーシャルが、断片的につながっています。)

このテレビ・コマーシャルは、アップルから、初めてマッキントッシュ(Macintosh)というブランドのコンピューターが出るためのものである。  

 ところで、1984年のSuper Bowlも、テレビの視聴者は多かったのだろうか?このページに、過去のSuper Bowlの視聴者数と、おおよその30秒のテレビ・コマーシャルの放映料がまとめられている。視聴者数は、7762万人である。先に説明した、最近のSuper Bowlが、1億人の視聴者が見るのに対して、それほど多くない。なぜアップルはテレビ広告を放映したのだろうか。

 実は、当時のテレビ・コマーシャル放映料は、約37万ドルと、現在の料金の1/10以下と安価なのである。今でこそ、Super Bowlは、そのゲームの話題とともに、当日流れるテレビ・コマーシャルも話題になっているが、1984年は、まだそんな時代ではなかった。

視聴者が多いから、テレビ・コマーシャルを投入するのか

 マーケティングにおいて、製品・サービスの広告、プロモーションは、とても重要だ。そしてできることなら、一人当たりのコミュニケーション・コストを下げて、広告を流したいと考えるのは当然で、そのため視聴者数の多い番組を予想して、テレビ・コマーシャルを投入する。

 しかし、このアップルの事例は、必ずしもコスト重視ではない。おそらく、Super Bowlというテレビのスポーツ中継で、コマーシャルを流すという話題性も考慮したのだろう。広告を出すときに、このように「どの番組で流れるのか」かという、番組のBrandの力を借りることもあるのだ。

 アップルは当時、このマッキントッシュというパソコンに勝負をかけていた。そして、競合はIBM。このテレビ・コマーシャルでハンマーを投げるブラウン管は、IBMをイメージしていた。こんな挑戦的なメッセージを流すのに、このSuper Bowlというスポーツ、つまり挑戦やハードなゲームが展開される試合の番組が、テレビ・コマーシャルを流すのに相応しい場所と考えたのかもしれない。

 昨今、インターネットの広告が普及し、多くのマーケッターが、1クリックあたりのコストや、1回の資料請求や、応募のコストなどを重視するようになってきている。どの場所に広告を出すかより、どれが効率が良いかを考えることが増えてきた。しかし、経済効率も重要であるが、広告においても番組や雑誌というBrandを考えることも忘れてはいけないのではないだろうか。

 この1984年のアップルの広告は成功を収め、Super Bowlの広告枠は、見直される結果となった。このリストのページにあるように、これ以降は、Super Bowlの広告枠の価格は上昇し続けているのである。そして、近年では、Super Bowlでしか流さないコマーシャルもあるほどである。

 これは、広告主がSuper Bowlのテレビ中継というBrandを上手に利用し、その広告の価値まで高めた結果である。

 日本でも、年末のテレビ番組の視聴率などが、話題になるが、広告主は、テレビ視聴率以外の、番組そのものの価値も理解しながら、メディア・プランニングしてもらいたい。