現代サッカーと電王戦<その2> AIも提示する温故知新

古いマンツーマン戦法を用いる智将ホルヘ・サンパオリ(アルゼンチン代表監督)(写真:ロイター/アフロ)

 門外漢の立場からも語るに尽きない要素がてんこ盛り――将棋の電王戦のことだ。例えば、佐藤天彦名人を破った将棋ソフト『ポナンザ』の駒の使い方。それ一つとってもサッカーマニアの心をくすぐられる。そう言えば、数年前に某サッカー誌の運営する「ニコ生」でご一緒する機会のあった野月浩貴八段の「将棋とサッカー」をめぐる話も、たいへん興味深かった。イングランドのかつての英雄デビッド・ベッカムに着想を得て、差し方を考えたことがある――と。当方の勘違いでなければ。

 他ジャンルへの横断が「創造」の一手を導く好例だろうか。ともあれ、電王戦である。サッカーとの接点という意味では、ポナンザの第一局における飛車の使い方が面白かった。最後尾に下げて縦横に広く睨みを利かせる役回り。背後(横)のスペースをカバーしつつ、縦への攻め上がりも狙う姿はまるで伝説のリベロたるフランツ・ベッケンバウアー(ドイツ)を連想させた。こうした飛車の使い方を、よもや「皇帝」(ベッケンバウアーの愛称)と呼んだりはしないでしょうが。

 現代サッカーで言えば、中盤から最後尾に落ちて攻守の要となるアンカー(フォアリベロ)といったところ。流行中の可変システムでよく見かける動きである。最近ではプロ棋士の間でも飛車をリベロのように使う(?)スタイル(=角換わり:6二金・8一飛車型)がトレンドらしい。AIのよくやる手を採り入れた格好だろうか。もっとも、1990年に弱冠20歳の佐藤康光五段(現将棋連盟会長)が谷川浩司王位(当時)に挑んだ王位戦第三局で、すでにこの戦法を使っていたという。

 そう考えると、古いのか、新しいのか。そこで示唆に富む話として、未来を先取るAI(ソフト)がセオリーにない差し方だけではなく、すでに「用済み」とされていた古い戦法を盛んに打つケースもあるという。何でも雁木(がんぎ)戦法がその一つで、プロ棋士の公式戦でもみかける機会が多くなったそうだ。実は現代サッカーにおいても「時代遅れ」として歴史のゴミ箱に捨てられていた感のある守備戦法が一部の指導者の間で見直され、にわかに復活の兆しを見せている。

 1対1で敵に張り付くマンツーマンだ。1990年代以降の守備戦法は「人」から「地域」を分担するゾーン一色に大きく変化してきた。それだけに「古いのに新しい」という不思議な感覚がある。鬼才マルセロ・ビエルサやホルヘ・サンパオリ(現アルゼンチン代表監督)といった有力な指導者がこれを用いて、一定の成功を収めた。AIのように遠い未来から新戦法をもってくることは難しいけれど、過去に戻ってガラクタ扱いされた「遺物」を掘り起こすことは人間にもできそうだ。

 故(ふる)きを温(たず)ね、新しきを知る――。

 よもやAIから「温故知新」を再認識させられるとは想像もしなかった。幸か不幸か、サッカー界の水先案内人はまだAIではなく、人間だ。将棋の世界と比べて、固定観念や思い込みが温故知新のネックになるケースは多いのだろう。AIのような成功率(勝率)の高さが約束されていないのだから仕方がない。AIが人の先を行くまでは、やはり大胆さや勇気といった、いかにも人間臭い要素が必要なのかもしれない。それがAI的な振る舞い(未来の先取り)への近道ということか。