スティーブ・ジョブズはなぜポルシェを愛したか?

ポルシェの代名詞 911はドイツの工業製品の基本コンセプトを体現している

ポルシェは現在、代名詞である911、ライトウェイトなオープンカーであるボクスター、ボクスターに屋根をつけたケイマン、RUVのカイエン、ラグジュアリーセダンのパナメーラの5種類の自動車を生産している。

ポルシェファンの中には911しかポルシェと認めない、という言い方をする人も多い。それはどうしてかというと、911以外の車種は、マーケティング調査の上で他社を模倣した戦略車であり、借りてきた方程式による答えだからだ。例えばパナメーラはセダンでありながらスポーツカーとしての魅力を両立させることに成功して復活したマセラティの模倣である。

もちろん誰かが成功した(勝利の)方程式を借りて製品開発をしていけないということはない。いまや韓国経済を牽引するサムスンはAppleを模倣して大成功し、本家を脅かせるだけの地位を築いている。しかし、それでもポルシェを熱狂的に愛する支援者たちの心のよりどころは、変わらず911であり、ポルシェ自身が独自で作り上げた彼らだけの方程式によって導きだされた一流の工業製品があるからこそだ。

911は世界の自動車市場において、唯一といっていいくらい独特な車だ。まずエンジンが後ろにあるリアエンジン・リアドライブ(RR)という方式を一貫して採用している。現代の主流はFF(フロントエンジン・フロントドライブ)もしくはFR(フロントエンジン・リアドライブ)であり、いずれもエンジンを運転席の前に置く。RRは常識でみれば時代遅れの手法だ。RRは構造上、スピードを上げればあげるほどまっすぐ走りづらくなるという欠点があるからだ。

では911はレトロな車なのかというと、もちろんそんなことはない。いまや時速300キロをたたき出すスーパーカーであり、実際にレースでも好成績を残す、最先端のスポーツカーであり続けている。つまり、時代遅れの手法を頑に使いながらも、卓越した技術力でそのビハインドをカバーすることで、現役のスポーツカーとしての座を守り続けているのだ。

例えば911の後輪部分は異様に張り出している。強大なエンジンパワーを受け止めるために後輪のタイヤを太くしているからだ。RRを生かすためにボディの形が進化したわけだ。結果として、911は生産開始以来現在にいたるまで、誰が見てもポルシェだ(911だ)と分かる一貫したエクステリアデザインを手に入れることができた。一つの技術へのこだわりが、不変のブランド価値を持つことになったわけだ。形態は機能に従う、というがまさしく911はその体現者だ。

スティーブ・ジョブズがポルシェを愛し、自分でも乗っていたし、理想のブランドの一つとして折りに触れて公言していたことはよく知られている。Appleもまた、製品数を絞り、自社開発のOSで動作する高性能ガジェットの開発にフォーカスしている。RRを採用しながら最高のパフォーマンスを発揮する911と同じで、Mac OS XもiOSも他社に提供することなく、オリジナルのテクノロジーで自社商品のブランド力を維持している。誰が見てもポルシェと分かってくれるように、誰が見てもAppleだと分かってくれる商品デザインが必要だということも理解している。

そしてそのデザインは、機能によって導きだされたものでなければ、ユーザーの情熱を引き出すことはできない。Googleはデザイン面では酷評されることの多い企業だが、アプローチはポルシェ的だ。彼らは基本的にドル箱であり機関技術である検索エンジンをベースにほかのサービスを開発しようとする。ちょうどRRを基本として911を作ったように、彼らは検索エンジンを生かすためのアプリやサービスを考える一貫性を持っている。GmailはGoogleのWebアプリの最高傑作の一つだと思うが、メールサービスをフォルダーによって整理するのでなく検索すればいいと考えたデザインがGmailを特徴付けている。ここでも形態は機能に従うのである。

日本企業は先日行われたCESで多くの製品を発表し、ローエンド重視からハイエンド重視へと戦略を変え始めているようだが、自社ならではの技術にフォーカスし、その技術によって特徴付けられるデザインを持つ製品はほぼないように思われる。僕は日本の家電メーカーの復活は911の方程式を盗む(という難事に挑む)ほかないと思うのだが、みなさんはどう思われるだろうか。