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iPad miniをスティーブに捧げられる?

小川浩株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。
iPad miniは7インチ市場の製品ではない?

新しいiPadとiPad miniが発表された。死んでも7インチのタブレットは出さないと言っていたスティーブ・ジョブズの意に反しているのかギリギリ範囲内なのかは微妙に思うが、iPad miniは7.9インチという小さめの画面を備えたうえで、これまでのiPadのインストールアプリに対する互換性を保っている。まだ実際に触っていないので、iPad miniの操作性が“指のサイズを紙ヤスリで削らなくても(ジョブズの言葉より)”快適さを保ったものかどうかはわからないが、いずれにしても初速は順当な売上を見せるに違いない。

Android搭載機は画面サイズやOSのバージョンやカスタマイズの微妙な違いによって、世界中に3000種類以上の仕様の差異が生まれているという。iOSは最新バージョンを出せば半年以内で60%以上の人がアップデートするし、画面サイズがiPhone5で大きくなったもののネイティブアプリの操作上でそれほどの混乱は起きていないし、Webアプリの利用にもまったく問題がない。iPadにおいても同様であれば、今後Samsungが拓き、Googleが自社ハードウエアで入り込もうとした7インチタブレットの市場をAppleが制圧するのは時間の問題かもしれない。

とはいえ、僕にはこの7インチタブレット市場がそれほど大きくなるとは思えない。4インチのiPhoneと9.7インチのiPadの間の市場は、相当にニッチであると僕は考える。Appleの狙いは大きな売上というよりは、SamsungやGoogle潰しであり、マーケティング戦略上生まれた製品であるのだろう。それはジョブズならば、やはり決して実行しなかった製品投入の手法のように思う。

そもそも、ソニーが失速したのは創業者である井深大氏と盛田昭夫氏の死をきっかけにしている。盛田氏は、自社のTVCMにタレントを使うことを決して許さなかった。製品そのものがスターであり、自社の社名とロゴこそがブランドである。広告のクリエイティブはそのふたつを全面に押し出すものでなければならなかった。しかし彼らの後継者たちは遺志を曲げて、安易にタレントを使って普通の会社に成り下がってしまった。

ソニーの遺志を継いだのはAppleであり、いまだに彼らのTVCMは製品と社名とロゴを引き立たせるためのビジュアルと音楽を巧妙に使って、シンプルだが鋭いメッセージを訴求している。

しかし、iPad miniの登場で、それも少しずつ変わってくるかもしれない。ティム・クックCEOはiPad miniをほかの7インチタブレットとは一線を画していて、ジョブズの遺志にも反していないと主張する。だが、確かに製品としてはAndroidタブレットを凌いでいると思うものの、その製品のリリース自体はやはりジョブズならばあり得なかった。こうしたほころびが、ジョブズの死後1年経って、さまざまなところで数えられはじめている。Appleもまた、普通の会社に成り下がるのか? ファンとしては気が気ではない。

株式会社リボルバーCEO兼ファウンダー。

複数のスタートアップを手がけてきた生粋のシリアルアントレプレナーが、徒然なるままに最新のテクノロジーやカッティングエッジなサービスなどについて語ります。

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