新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言で,どのような外出がどの程度減少したのか?

(写真:つのだよしお/アフロ)

新型コロナウイルスに対する緊急事態宣言

 2020年4月7日に東京・千葉・埼玉・神奈川・大阪・兵庫・福岡の7都府県で緊急事態宣言が出されてから,もうすぐ2週間が経過しようとしています.この災害はいまもなお継続中ですが,この緊急事態宣言が目的とする,人々の接触回避行動はどのように変化したのでしょうか.ビックデータなどを用いた検証は既に様々なところで議論されていますが,どのような人が,どのような目的の移動を,どの程度控えたかに関する基礎資料は現段階,そこまで豊富ではありません.筆者は感染症対策の専門家ではありませんが,これまで計画運休時の出勤に関する調査や地震時の出勤調査,あるいは帰宅困難者の帰宅行動の調査など,「緊急時の通勤・移動」に関する研究を長年続けてきました.

参考:令和元年台風15号の襲来に伴う鉄道の計画運休が示唆すること

 これらと新型コロナウイルス対策の外出自粛は,「一時的に都市活動を一部止め,人命を優先するために,緊急時に求められる移動を社会全体で実現する」という点で共通点があるものと考えられます.ただし,新型コロナウイルス対応は長期戦が予想されます.そのため,ごく短期間の出社抑制などが求められる計画運休や地震時の出勤行動とは異なり,このような移動制限は経済活動との折り合いをどうつけるか,という非常に難しい課題があるといえるでしょう.そして,公共交通機関の制限や外出者への罰則などを課す欧米などに比べて強制力を伴わないわが国の移動制限は,その結果が個々人の「選択」に委ねられる部分も大きいのではと思います.

 筆者らはこれらとも比較する目的で,2020年4月7日に発せられた緊急事態宣言に対して,どのような人がどのような目的で,どう動いたのかを知るため,アンケート調査を行いました.調査の詳細はこの記事の最後でご説明しますが(注1),今回はこの調査で得られた速報値をもとにして,緊急事態宣言をうけた人々の行動変容を「緊急時の移動」という論点から考えたいと思います.

この2か月間で外出はどのように減っていったのか

 それでは,速報レベルの集計ではありますが,さっそく外出がどう変わったのかについてみていきます.筆者らの過去の調査では,2018年の大阪府北部地震時,多くの人が交通手段を自動車に転換して「頑張って出勤」することで,都心部の車道が大混雑したことが示唆されました(参考文献1).また,千葉県を中心に大きな被害をもたらした令和元年房総半島台風(台風15号)では,鉄道の運転開始時刻ぎりぎりの時間に通勤者が集中し,混乱を呈しています(参考文献2).いずれの調査においても通勤行動の制御には会社からの指示が極めて重要であることが示唆されましたが,今回の緊急事態宣言でも同様の傾向がみられています.図1は調査で得られた,2月中旬から4月中旬までの各週で「外出している人(青,緑,赤)」および「外出を控えた人(黒)」の割合を目的別に示したものです.4月7日に国から緊急事態宣言の指定があった7都府県(東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県・兵庫県・大阪府・福岡県)が実線で,その他4道県(北海道,宮城県(仙台市),愛知県(名古屋市),広島県)を破線で示しています.

図1:7都府県と4道県の目的別・「外出をしている人(青,緑,赤)」と「外出を控えた人(黒)」の割合(7都府県はN=1144,通勤・通学はN=814,4道県はN=1117,通勤・通学はN=798)
図1:7都府県と4道県の目的別・「外出をしている人(青,緑,赤)」と「外出を控えた人(黒)」の割合(7都府県はN=1144,通勤・通学はN=814,4道県はN=1117,通勤・通学はN=798)

 この図のなかで7都府県の数字に注目すると,最も多くの人が控えている外出目的は「食事・社交・娯楽」でした.現在では平常時の約7割がこの目的で外出を控えていることになります.続いて多いのは「買い物」目的で,この目的の外出を控えている回答者は平常時の4割5分程度でした.他方で,現段階で最も多い外出目的は「通勤・通学」であり,現状では7割程度が変わらず通勤・通学目的の外出をしています(これは学生を除いて分析しても通勤を控えている人は26%という,ほぼ変わらない結果でした).モバイルデータにより,平日昼間の都心オフィス街(銀座、渋谷、梅田など)の滞留者は5~6割減ったとの分析がされていますが(参考文献3),通勤・通学の目的のみに絞り,なおかつテレワーク等の進んでいない郊外部も含めた都道府県単位ですと,通勤・通学目的の外出を控えている割合は現状で3割程度と考えられます.この目的の外出をその他4道県の数字(上図の点線)と比べると,7都府県の「通勤・通学」は緊急事態宣言の効果が大きかったとみることができます.なお,業種別の「出勤を控えた」割合は,特に公務・インフラ・医療が低い数値となっていました.このような産業の方々は緊急事態宣言下でも変わらず通勤され,社会を最低限機能させるために努力されている,という結果がここからも明らかになりました.

 ただこの緊急事態宣言の効果も,必ずしも全ての出勤者の行動変容を直接的に変えたというわけではありません.例えば,下の図2は会社が行った対応を2月中旬から累積でまとめたグラフになります.これをみると,「一部在宅勤務」が緊急事態宣言をきっかけに急激に増加していることがわかります.これは,緊急事態宣言が会社の対応を促し,その結果,通勤・通学者の行動が変化したとみることができないでしょうか.とすれば,これは台風接近時の計画運休が会社の指示を促し,出勤抑制が実現される構造と同様と考えられます.会社の意思決定があってはじめて,出勤者は自分の行動を変えることができるという人も多いのではと思います.いずれにせよ以上の分析から,緊急事態宣言は特に通勤・通学について効果が大きかったとみることができます.なお煩雑になるため図には示していませんが,「出張」は「通勤・通学」と、「観光・行楽・レジャー」は「食事・社交・娯楽」とそれぞれほとんど同じ傾向を示しました.

図2:7都府県の会社が行った対応(累積グラフN=784)
図2:7都府県の会社が行った対応(累積グラフN=784)

 さて図1の黒線は,外出目的を問わずに「(どのような目的でもよいので)外出を控えたかどうか」を示したものです.これによれば,この7都府県では調査日(4/15-4/16)時点で「何らかの目的の外出を控えている」回答者は全体の9割であり,かなりの人数が(いずれかの目的で)外出を控えていたことがわかりました.大多数の人はすでに,程度の差はあれど外出の自粛に貢献しているわけです.なのでこれ以上の外出自粛を求めようとする場合,ただ単に「外出自粛を要請」するだけでは効果は薄いかもしれません.そのような場合は,「買い物は控えてください」や「通勤・通学はできるだけ在宅勤務を進めてください」といった,具体的に外出目的を例示するような要請が必要と言えるのではないでしょうか.

 さて,この結果から今後を推測することは容易ではありません.しかしながら2つの図について全体の傾向をざざっと概観すると,緊急事態宣言が出た次の週はあらゆる変化が鈍化傾向にあることもみてとることができます.通勤・通学目的の外出は図2を見る限り,在宅勤務体制の準備などにある程度の時間を要するとすれば,今後も引き続き外出が減少する可能性も見込まれるでしょう.一方で「買い物」及び「食事・社交・娯楽」については,この図を見る限り,急激にこれ以上の外出抑制がなされる可能性は低いかもしれません.それゆえこれらの目的について,いま以上の外出自粛を促したいという場合は,何らかの方策が必要であることが示唆されます.

会った人はどの程度減ったのか

 次に,緊急事態宣言を受けて「会った人はどの程度減ったのか」という設問について考えてみたいと思います.さて厳密には,「外出の自粛」と「接触の抑制」は異なる概念です.例えばごく単純な数理モデルで考えると,AさんとBさんがそれぞれ外出を10%抑制する場合,両者が出会う割合は(1-0.1)の二乗ですから,2人の出会いは単純に考えると約20%低減することになります.このように外出の抑制と接触の抑制は異なりますので,感染予防を考える場合は外出の抑制だけではなく,接触の抑制という視点でも考える必要があると思われます.そこで,ここでは人との「出会い」が緊急事態宣言でどの程度抑制されたかもアンケートで尋ねました(注2).

 この結果,先ほどの7都府県では,緊急事態宣言が出る前は「人と会った回数」が平常時の51%程度でしたが,緊急事態宣言後はこれが34%にまで減少していました.すなわち現在,平常時と比べて65%程度の「≒人との接触」が回避されたとみることができないでしょうか.ちなみに先ほど比較対象とした4道県では,4/6までに「人と会った回数」は従来の54%に低減していたのが,4/7以降は従来の42%となっています.減少はしているのですが,これを7都府県の数字と比較すると,緊急事態宣言が「人と会った回数」の低減に一定の効果を与えたという可能性が示唆されます.

 ただし,「人と会った回数」と「外出を控えた割合」の両者は異なるとはいえ,ある程度の関係性がみられました.例えば緊急事態宣言後に「通勤目的の外出を控えている回答者」は「人と会った回数」が従来の28%と大幅に低減しています.また「買い物目的および食事・社交・娯楽目的の外出を控えている回答者」もそれぞれ「人と会った回数」が従来の28%,31%とほぼ同程度でした.一方で,「買い物目的および食事・社交・娯楽を控えていない回答者」は「人と会った回数」が従来の41%,42%とあまり低減していませんでした.

今後、どのような状況の変化があったら外出をやめるか

 筆者は感染症の専門でもなければ経済の専門でもありませんので,政策を声高に提言するような立場にはありませんが,調査では「現時点で外出を控えていない人」に対して,今後どのような状況の変化があったら外出をやめるかも尋ねています. これらについては下図3をご覧ください.

図3:いま外出を控えていない人は、どうなると外出を控えるか(仕事:N=1322、買い物(日用品除く):N=1586、食事:N=1167、観光:N=862)
図3:いま外出を控えていない人は、どうなると外出を控えるか(仕事:N=1322、買い物(日用品除く):N=1586、食事:N=1167、観光:N=862)

 まずは最も厳しく,また社会・経済にダメージを与えつつも感染予防には効果的と考えられるのが「自粛ではなく禁止が指示されたら」,「外出に罰則が適用されたら」という状況です.これらと「高熱・味覚障害などウイルス感染が疑われる症状が自分に出たら」という状況下においては,外出・買い物(日用品以外)・食事・観光のいずれの目的についても約半数が「外出しない」と回答しています.

 しかしながら,上記のような厳しい状況以外にも外出の抑制を促す手段は多いと思われます.例えば「会社や学校が休業状態になったら」,「自分の仕事の休業などに十分な補償が後日もらえたら」という条件については,ともに通勤・通学目的の4~5割が「外出しない」と答えています.このような施策は通勤目的の外出者を抑えたい場合に効果があると言えるでしょう.

 さらに「重症の感染者に医療現場が対応できなくなったら」という医療崩壊の懸念や,「マスクがなくなり,マスクなしで外出できなくなったら」というマスク不足,「直接の知り合いに感染者が出たら」および「自分が感染するかもしれないという危機感を感じたら」など外出者本人のリスク認知の向上を促す方法もあると考えられます.調査では,これらの対策については,就業者についてはその効果は限定的でしたが,観光や食事目的の外出はかなり減らす効果があることが分かりました.また,「飲食店や理容店などのサービスも休業するようになったら」は食事や観光目的の外出を大きく下げることが確認できます.通勤目的を減らすことなく,食事や観光などの外出を減らしたい場合は,この施策が(感染症予防という意味においては)効果的と言えるかもしれません.一方で,「何があっても外出をやめない」という人はどの目的についても,1割前後いることがわかります.

 調査では他の条件についても尋ねていますが,全体としてこれらの結果を見ると,外出目的によって外出自粛を促す手段は大きく異なるといえます.一般に,都市のどの活動を止め,どの活動を継続するかは地域や状況によって戦略が異なることも考えられるでしょう.それゆえ巷で言われているような一律の「都市封鎖」一辺倒ではなく,最低限の社会・経済機能を維持しつつ感染拡大を抑えるため,都市の特徴と外出目的に応じた施策のきめ細かい取捨選択も一考に値するのではないでしょうか.

おわりに

 今回の記述内容は,新型コロナウイルス対策として出された緊急事態宣言の効果を,はじめの1週間~10日の範囲で,筆者の専門である「緊急時の通勤・移動」に焦点を絞って分析したものになります.続きはこちらの記事になります.

注1:このアンケート調査は,東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・兵庫県・大阪府・福岡県・宮城県(仙台市)・愛知県(名古屋市)・広島県・北海道に居住する18歳以上の方5,541人に対し,性別・年齢や住まいの変更,職業・業種などについて尋ねたうち,このなかで性別・年代・職業を絞ったうえで2,261人を抽出し,より細かい質問に答えていただいています.回答くださった方々に御礼申し上げます.また本稿で用いた数字などは速報値になりますので,今後加筆修正する可能性があることをおことわりいたします.

注2:一般に,新型コロナウイルス対策を考えるうえでの「接触」は「相手との距離が1m以内+2~3往復以外の会話のやり取り」もしくは「握手などの身体的接触」と考えられているようです(参考文献4).ただし,この「人との接触」は,満員電車などのケースを考えるとアンケート調査では非常に答えにくいことが予想されたため,本調査では「人と会った回数」を答えてもらっています.このため,現在の感染拡大抑制の目安である「接触8割減」と「人と会った回数8割減」は若干の違いがある可能性もあります.

参考文献1:U HIROI, Naoya SEKIYA, Shuntarou WARAGAI, Fusae KUKIHARA:Questionnaire Survey on the Difficulty of Attending Work for Commuters in the 2018 Osaka Earthquake,Journal of Disaster Research,Vol.15,pp.212-225,2020.

参考文献2:https://news.yahoo.co.jp/byline/hiroiu/20191006-00145555/

参考文献3:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200418-00000032-asahi-bus_all

参考文献4:https://note.stopcovid19.jp/n/n1d0745601527