日本人の「仕事に対する熱意」 本当に国際比較で最低水準なのか?

(写真:アフロ)

人生100年時代と言われるようになりました。終身雇用は、もはや終身ではありません。定年してホッと一息つけたのは今や昔の話。フリーランス協会のイベントにも、セカンドキャリアを摸索したり、副業に興味を持ったりするミドルシニアの参加者が増えてきました。定年後は、誰もが特定の組織に属さない働き方、つまりフリーランスになりうる可能性があることに気付き始めているようです。

定年を待たずとも、価値観の多様化や、キャリア自律志向の高まりを受けて、副業を含むフリーランスのワークスタイルを志す人が、30歳前後のミレニアル世代を中心に増えています。スマートフォン1台あればどこでも働けるため、独立や開業の敷居は急速に下がりました。モデル就業規則の改定により2018年は副業元年と言われ、業務委託による働き方を支援するサービスにも参入が相次いでいます。なかなかのレッドオーシャンぶりです。

実態が分かりづらいフリーランス

そうして副業やフリーランスの働き方に興味を持つ人が増えている一方で、その実態が分かりづらいという声もよく聞きます。それはある意味仕方ない。第一の理由は、一部の職種を除く多くの人にとって、なかなかフリーランスと仕事で出会う機会がないからです。私も実際、フリーターとフリーランスの違いは何ですかと質問されることがよくあります。メディアではよく聞くようになっても、身近では実際に見たことがない未確認生物なんですね。

実態が分かりづらい第二の、そして本質的な理由は、フリーランスと一口に言っても非常に多様だということです。それはそうですよね。「会社員の実態」と聞かれても、十人十色だとしか答えようがないのと同じです。フリーランスはあくまで働く手段や状態のことであり、職種も、世代も、スキルレベルも、ワークスタイルも、働くモチベーションや価値観も、実にバラバラです。フリーランスだからどうとか、一つに括って議論することはなかなか難しいし、時には危険なことだとも思います。

とは言え、新しい働き方への関心が高まる中で、フリーランスという言葉で括られる人々の多様性と、共通して抱える課題や希望を少しでも発信して、未確認生物状態から脱したい。そんな思いで、フリーランスや副業をする人を支援する非営利団体 一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会では、年に1度の実態調査を行い、『フリーランス白書』を発表しています。白書の中では、フリーランスの実態調査だけでなく、フリーランスと会社員の比較調査も行われています。

仕事に対する熱意が最低水準だと言われてきた日本

昨年の『フリーランス白書2018』では、フリーランスの満足度が会社員より高かったことが話題になりました。しかし、なぜフリーランスは会社員より満足度が高いのだろうか。会社員でも熱意を持って幸せに働いている人とそうでない人の違いはなんだろうか。そこまでは解明できていませんでした。

神戸大学社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と同志社大学経済学研究科の八木匡教授が昨年8月に、所得、学歴よりも「自己決定」が幸福感に強い影響を与えているという調査結果を発表し、フリーランスは毎日が自己決定の連続なので満足度が高いのかもしれない、とは思っていましたが。

そこで今年の『フリーランス白書2019』では、越境学習やパラレルキャリアの研究で有名な法政大学大学院の石山恒貴教授に監修を依頼し、ワークエンゲージメント(仕事に対する熱意)やキャリア自律に関するフリーランスと会社員の比較分析を行いました。

その結果、会社員のワークエンゲージメントの平均値は先行研究とほぼ同等でしたが、フリーランスのワークエンゲージメントの平均値は従来の日本人の数値に比べてかなり高く、国際比較における欧米諸国の水準と遜色ないことが分かりました。

米ギャラップ社が2017年に発表した職場の生産性に関する国際比較調査(State of the Global Workplace)では、日本は「熱意あふれる社員」の割合が6%で米国の32%と比べて大幅に低く、調査した139カ国中132位と最下位クラスだったことを考えると、ギャラップ社の概念とワークエンゲージメントは多少異なる考え方ではあるものの、注目すべき発見と言えるでしょう。

これまで日本人のワークエンゲージメントが低い理由として、研究者の間ではそれがいかにも日本人らしい特性であるという議論がなされてきたわけですが、決して国民性が理由ではなかったのです。それでは、なぜフリーランスのワークエンゲージメントが「日本人らしからぬ」値を叩き出したのでしょうか。

なぜフリーランスのワークエンゲージメントは高いのか?

フリーランス白書2019では、ワークエンゲージメントに影響する要因についても分析がなされています。そこでは、会社員・フリーランスともに、「専門性コミットメント」「職業的自己イメージ」「主体的キャリア形成」がワークエンゲージメントに正の影響を与えていることが分かります。

つまり、働く人として、自らの専門性について意識すること、職業的自己イメージを有すること、主体的にキャリア形成すること、という3点がワークエンゲージメントを高める要因となっているのです。これらの要因の平均値は、いずれもフリーランスのほうが会社員より高かったので、ワークエンゲージメントの平均値が高かったことも納得がいきます。

これらの調査結果から示唆されることは、過去調査で日本人のワークエンゲージメントが低かったのは、国民性だけの問題ではなさそうだということ。そして、会社員かフリーランスかは関係なく、自らの専門性に対するコミットメントの高さやキャリア自律により、ワークエンゲージメントが高まる可能性があるということ。(逆を言えば、必ずしも会社を辞めてフリーランスになったからといって、専門性を磨く努力や自律的にキャリアと向き合うスタンスがなければ、それだけで満足度が上がったり、活力や熱意を持って仕事に没頭できたりするという類のものでは決して無さそうだということでもあります。)

これは、これまでワークエンゲージメントが低いと言われてきた日本人にとっては、朗報ではないでしょうか。

環境がめまぐるしく変化する中で、自分自身の在りたい姿や強みと向き合い、周囲のニーズや期待に応えられるように学びの歩みを止めず、キャリアの主体者として未来を切り拓いていく。そんなふうに自律的なキャリアを築く人が増えていけば、日本の経済はもっと活性化できるのかもしれないと期待が膨らみます。