Yahoo!ニュース

青森山田の独壇場か、波乱続出の大混戦か=第99回全国高校サッカー選手権

平野貴也スポーツライター
優勝候補は、浦和に加入内定のDF藤原優大(中央)を擁する青森山田高校【著者撮影】

 今年も「選手権」の時期がやって来た。高校サッカーの頂上決戦、第99回全国高校サッカー選手権大会が31日に開幕する。今年はシーズン開幕前から新型コロナウイルスのまん延による活動制限などで、高校サッカー界も多くの変更を余儀なくされたが、選手権は開催されることとなった。

 ただ、やはり感染症拡大防止策が重視され、すべてが例年通りというわけにはいかない。24日には全試合無観客での開催が決定。これまでは、30日に全チームが一堂に会して開会式を行い、その直後に開幕戦を1試合行い、翌31日に残りの1回戦を行うという日程で行われていたが、今回は開会式と開幕戦を簡略化。30日はイベントを行わず、31日にすべての1回戦が行われる。

 11月16日に行われた組み合わせ抽選会では、日本サッカー協会の田嶋幸三会長から、試合中に選手同士がハイタッチすることや、倒れた選手を起こす行為を原則的に禁止する旨が伝えられた。都道府県予選と同じように、ボトルの飲みまわしを防ぐために、冬であっても前半と後半に1回ずつの給水タイムが設けられることも、今季の独特のルールだ。報道陣による試合後の取材もオンライン形式となる。様々な変更があるが、それでも夏のインターハイ(全国高校総体)が中止になったことを考えれば、多くの関係者の努力によって大会が開催されることを喜ぶべきだろう。

青森山田は今季全勝、4人がプロ内定の昌平も注目

MF須藤直輝(鹿島に加入内定)らプロ内定4名を擁する昌平高校も上位候補【著者撮影】
MF須藤直輝(鹿島に加入内定)らプロ内定4名を擁する昌平高校も上位候補【著者撮影】

 全国大会に出場する各都道府県の代表48チーム(学校数の多い東京都のみ2校)は、すでに出そろっており、組み合わせも決まっている。前回準優勝の青森山田高校(青森)は、最注目チームと言える。DF藤原優大(3年)がJ1浦和、DFタビナス ポール ビスマルク(3年)がJ3いわてに加入することが決まっており、堅守を誇る。

 攻撃陣には、前回大会で1年生ながら得点ランク3位タイの4ゴールを挙げたMF松木玖生(2年)もいる。コロナ禍で特別編成されたスーパープリンスリーグ東北では、AチームとBチームが優勝決定戦を行ったほど選手層が厚く、夏場の交流試合などを通しても、高校生相手には今季全勝を貫いている(12月22日現在)。

 対抗勢力の筆頭は、プロ内定4選手を擁する昌平高校(埼玉)。MF須藤直輝、MF小川優介がJ1鹿島、FW小見洋太がJ2新潟、MF柴圭汰がJ3福島に加入する(いずれも3年)。ボール扱いに長けた選手が連動するパスワークに特長のあるチームだ。こちらは、2回戦で、J1に昇格する徳島への加入が内定しているFW西野太陽(3年)を擁する京都橘高校(京都)と対戦する可能性があり、勝ち上がりも注目される。

 ほかに、J1湘南に加入内定のMF平岡太陽(3年)を擁する履正社高校(大阪)が前回3位の帝京長岡高校(新潟)と初戦で激突、過去3度の優勝を誇る東福岡高校(福岡)と激戦区を制した桐蔭学園高校(神奈川)も1回戦で対戦と序盤から見どころも多い(参照:トーナメント表=JFA公式サイト)。

夏の経験値なく、強豪も敗れる波乱含み

都道府県大会から波乱続出。福島県では5連覇中だった尚志(赤)が準決勝で敗れ、勝った学法石川高校(紫)が初出場にこぎ着けた【著者撮影】
都道府県大会から波乱続出。福島県では5連覇中だった尚志(赤)が準決勝で敗れ、勝った学法石川高校(紫)が初出場にこぎ着けた【著者撮影】

 ただし、今季の傾向を見ると、有力チームが順調に勝ち上がるとは限らない。都道府県予選では、多くの実力校が涙をのんだ。3年生5人がプロ内定の興国高校(大阪)が連続出場を逃したほか、5年連続出場中だった尚志高校(福島)、スーパープリンスリーグ九州の王者となった大津高校(熊本)などが全国切符を逃した。

 東京都大会Aブロックを制した関東第一高校の小野貴裕監督は「例年に比べると、どのチームも(冬の段階になっても)それぞれに課題を抱えている印象がある」と話したが、コロナ禍で春季の活動を制限された影響は、やはり無視できない。コロナ禍で各リーグの昇格・降格がなくなり、経験してきた試合の緊迫感も異なる。

 夏のインターハイは、都道府県予選でも緊張感が強く、選手を大きく成長させる大会だが、その経験も積むことはできなかった。すべてのチーム、選手が経験値の乏しいまま選手権を迎えている。優勝候補となる青森山田の黒田剛監督も「高校生相手に今のところ無敗ではあるけど、全国でいきなり先制されたらどうするのか、11人全員で守備一辺倒というチームに当たったらどうなるか。やってみないと分からないことは(例年より)多い」と難しさを認識。

 パスワークの完成度や、苦しい展開における対応策なども、例年に比べると全体的に不足しがちな印象だ。帝京長岡の谷口哲朗総監督も「どこを見ても、春先の試合を見ているような感じがしますよね」と各チームの仕上がりの遅れを感じ取っていた。自陣でのボール保持をせず、ロングパスを敵陣に多く蹴り込んでリスクを減らす戦い方のチームが多く勝ち上がっている印象もある。どのチームも活動制限の影響は受けており、対応能力が求められる大会と言える。

最大の敵は、新型コロナ 他競技は出場辞退続出

 もちろん、最大の敵は、新型コロナウイルスだ(直接的に感染者が出ない場合でも、国内の感染拡大状況により、試合実施の可否、大会規模、会場の変更、実施方法は主催者判断で変更される可能性がある)。

 12月に入ってからも出場チームの一つである市立船橋高校(千葉)では、男子バスケットボール部でクラスター(感染者集団)が発生。バスケットボールの高校選手権(12月23~29日)では同校を含めて男女で計7チームが開幕前後に感染者発生あるいは発生の疑いで出場を辞退している。予断を許さない。

 元々、大会開催期はインフルエンザやノロウイルスなどの流行によって、打撃を受けるチームが少なくない。憧れの舞台にかける思いが強く、精神的なプレッシャーを感じる選手もいる中、プレー以外でケアすべき問題が増え、ストレスがかかることは好ましくないが、感染症対策も避けて通れない。

 勝負事と同じく、絶対に間違いがないという方法はない。しかし、準備を怠れば後悔につながる。準備をしてもミスが起こる可能性は消せないが、やるだけやった上での結果なら受け入れるしかない。多くの大会がなくなる中、この大会にかけてきたすべての選手、関係者が、最後まで戦いきれることを願いつつ、その姿を楽しみたい。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

平野貴也の最近の記事