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年越し合宿で始動のバドミントン日本代表、五輪前の注目点は3月の全英

平野貴也スポーツライター
元日、年越し合宿でノックを受け終えて休む桃田賢斗【筆者撮影】

 年が明けて2020年元日、ついにオリンピック&パラリンピックイヤーを迎えた。すでに出場権争いが始まっている競技は、お正月の休みを味わうこともなく、次なる戦いへと走り続けている。東京五輪で金メダル獲得の有力候補競技として注目されるバドミントンの日本代表も、12月29日から年越し合宿を行っており、1月6日から始まるマレーシアマスターズに向けた調整で新年を迎えた。

 男子ダブルス世界ランク3位の嘉村健士(トナミ運輸)は「(年越し合宿は)初めてのこと。年末年始は、大体、実家で過ごしていました。本当に年末年始なのかなというのが実際の感想」と少々困惑気味だったが、元日は日本A代表全員で味の素ナショナルトレーニングセンターからほど近い清水稲荷神社で初詣。9時半から12時まで行ったトレーニングを報道陣に公開した。最注目は、男子シングルス世界ランク1位の桃田賢斗(NTT東日本)。桃田は、体育館に入って、椅子に腰かけて周りを見渡すと、まだ何もしていないのに、どこを見てもカメラが向いていることに気付いて思わず苦笑いを浮かべていた。全競技を通じて金メダルの期待度が高い。

奥原「2020年が始まったというより、前から始まっていた感覚」

リオ五輪で銅メダルを獲得した女子シングルスの奥原は、17年に世界選手権を優勝。東京五輪でも頂点を狙う【筆者撮影】
リオ五輪で銅メダルを獲得した女子シングルスの奥原は、17年に世界選手権を優勝。東京五輪でも頂点を狙う【筆者撮影】

 朴柱奉ヘッドコーチのあいさつで始まった練習は、体操から始まり、軽い羽根打ちを経て本格化。部分的に別メニュー調整の選手もいたが、男子シングルスは、中西洋介コーチのノックなどで汗を流し、女子ダブルスは実戦形式の中で中島コーチが声をかけるなど、実戦1週間前らしく熱気を帯びた練習が行われた。冒頭の体操から集中力の高さを窺わせていた女子シングルス世界ランク4位の奥原希望(太陽ホールディングス)は「私は、実業団の試合があったほかの選手より早く休んで、先にスタートしていたので、今日、2020年(のシーズン)が始まったというよりも、前から始まっていたという感覚。今年のテーマは『貫く』です。自分の道を貫いていきたいと思います」と準備万全の様子だった。

朴HC「目標は(金1個、銅1個の)リオ五輪以上」

年越し合宿で実戦形式の練習に取り組む、女子ダブルスの松本/永原(写真手前)。世界選手権を2連覇しており、3年連続の世界タイトルを狙う【筆者撮影】
年越し合宿で実戦形式の練習に取り組む、女子ダブルスの松本/永原(写真手前)。世界選手権を2連覇しており、3年連続の世界タイトルを狙う【筆者撮影】

 練習後に取材に応じた朴ヘッドコーチは「東京五輪の目標は、前回以上。初めて選手と一緒に初詣をしました。日本の選手がベストの結果を出せるように願いました」と2016年リオデジャネイロ五輪の金1個、銅1個を超える成績に意欲を見せた。昨年の世界選手権では金2個、銀3個、銅1個(3位決定戦はなし)と全種目でメダルを獲得。前回の五輪には出場していなかった男子シングルス世界ランク1位の桃田は年間90%以上の勝率を誇り、女子ダブルスは世界選手権で松本麻佑/永原和可那(北都銀行)が2連覇中。福島由紀/廣田彩花(アメリカンベイプ岐阜)が3年連続準優勝と常に日本勢がトップを争っている。混合ダブルスも、前回は出場していない渡辺勇大/東野有紗(日本ユニシス)が世界ランク3位と目覚ましい成長を見せており、リオ五輪を上回る成績は、現実的な目標と言える。

3月の全英オープンは「五輪前哨戦」、桃田は出場大会制限で集中か

中西洋介コーチのノックを受ける桃田(奥)【筆者撮影】
中西洋介コーチのノックを受ける桃田(奥)【筆者撮影】

 バドミントンの五輪出場権争い(通称:五輪レース)は、4月末まで行われる。1年をかけて行われるレースも、もう終盤戦だ。大きな大会は、3月の全英オープン(BWFワールドツアースーパー1000)、マレーシアオープン(同750)の2つ。特に、全英オープンは、五輪を考える上で大きな鍵となる。まず、五輪レースの中で世界選手権に次ぐ高いランキングポイントが設定されているため、五輪出場権獲得に向けて逆転を狙う選手にとっては、最後の大きなチャンス。上位選手の五輪出場に当確ランプが灯るケースが出てきそうだ。

前回大会からの大きな変化は、混合ダブルスの渡辺/東野ペアの躍進だ。全英オープンでは18年に優勝、19年に準優勝と好結果を出している【筆者撮影】
前回大会からの大きな変化は、混合ダブルスの渡辺/東野ペアの躍進だ。全英オープンでは18年に優勝、19年に準優勝と好結果を出している【筆者撮影】

 次に、全英オープンは、五輪前哨戦の意味合いを持つ。世界選手権以前に存在していたため、古くから「新の世界一決定戦」と呼ばれ、最も権威がある大会だ。純粋に世界ランキングが高くなければ出場権を得られない。そのため、多くの国の選手が参加できるように配慮(例えば、五輪では1種目に同じ国の選手は最大でも2名あるいは2組までしか出場できない)されている五輪や世界選手権よりもレベルが高いとも言われており、現時点の世界最強が誰かという問いの答えを出すことになる。

 当然、その場では日本のライバルも明確になる。五輪レースが終われば、夏に向けて、相手の研究とコンディショニングが重要なテーマとなる。すでに五輪出場が確実となっている桃田については、日本A代表の遠征の中から出場大会を絞り込む考えがあることを朴ヘッドコーチが明かしている。例えば、全英オープン直前のドイツオープン(BWFワールドツアースーパー300)などは、日本A代表の派遣が予定されているが、出場義務もなく、欠場する可能性が高い。今後は、五輪に向けてどのような対策や調整をしていくのかという点も注目ポイントとなる。

日本は大惨敗の2004年から急成長、東京での期待は過去最高成績

元日練習の最後に走り込む、男子ダブルスの齋藤太一。20年からA代表入りしたメンバーもおり、昨年から少し変わった顔ぶれでバドミントン日本A代表は2020年のスタートを切った。
元日練習の最後に走り込む、男子ダブルスの齋藤太一。20年からA代表入りしたメンバーもおり、昨年から少し変わった顔ぶれでバドミントン日本A代表は2020年のスタートを切った。

 バドミントン日本A代表は、1月7日に開幕するマレーシアマスターズから2020年の遠征をスタート。続けて14日開幕のインドネシアマスターズと連戦する。ついに五輪イヤーの幕開けだ。2004年アテネ五輪でわずか1勝という惨憺たる結果の後、朴ヘッドコーチを招いて4年毎に存在感を強めて来た。2008年の北京五輪で女子ダブルスの末綱聡子、前田美順が4位、2012年のロンドン五輪では同種目で藤井瑞希、垣岩令佳が銀メダル。前回の2016年リオデジャネイロ五輪では同種目で高橋礼華、松友美佐紀(日本ユニシス)が金メダル。女子シングルスの奥原が銅メダルを獲得した。2020年、「BIRD JAPAN」(バドミントン日本代表の愛称)は、開催国が誇る精鋭として大きく羽ばたこうとしている。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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