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鹿児島の古豪も部員ゼロ、高校サッカーにも増加する「合同チーム」の挑戦

平野貴也スポーツライター
鹿児島県大会に「蒲生・伊佐農・霧島・高特支」の4校合同チームが出場【筆者撮影】

 サッカー部に入ったら、人数が足りなかった。そう話す高校生がいたら、驚くかもしれない。しかし、現実には、珍しい話ではなくなってきている。全国大会に向けて高校総体(インターハイ)の都道府県大会が行われている初夏、男子サッカーの鹿児島県大会のトーナメント表には、4つの校名がひしめき合って表記されているチームがあった。

「蒲生・伊佐農・霧島・高特支」

4校の合同チームである。大雑把に言えば、東の大隅半島、西の薩摩半島の分かれ目となる霧島市の辺り、空の玄関である鹿児島空港がある地域だ。高校野球の都道府県大会でも各地の合同チームがよく話題に上るが、地方の過疎化は、進むばかり。学校自体が合併していくほど生徒の絶対数が少ないため、野球やサッカーといった人気競技でも団体競技は人数不足を免れず、合同チームは増加傾向にある。

最後の舞台は、悔しい逆転負け

一番メンバーの多い霧島高のユニフォームを使用【筆者撮影】
一番メンバーの多い霧島高のユニフォームを使用【筆者撮影】

 一番人数の多い霧島高のユニフォームを着た4校合同チームは、大会の1回戦で種子島高校と対戦。大西啓嗣(霧島高3年)が抜け出しからミドルシュートを決めて先制したが、後半に2失点。悔しい逆転負けを喫した。3年生のほとんどは、この大会で引退し、受験勉強に専念する。最後の舞台で、つかみかけた勝利が手からこぼれた。選手がピッチを引き上げると、すすり泣く音が雨音に混じった。得点者の大西は「最初は、合同チームと言われても、知らない高校だから戸惑った。学校毎に監督がいるし、練習内容も特徴も違って、かみ合わなかった。でも、もう仲間だから、みんなで助け合えば、もっと良いチームになれる。声も出るようになった。みんなで、また試合をやりたい……」と悔しがった。当初は、自分よりも技術の低い他校の選手に苛立ちを隠せなかった選手が、学校毎にまとまることを嫌い、仲間意識を強調するようになっていた。

過去県大会V3の古豪も一時は部員ゼロに

 少しずつ仲間になり、チームになった。4校が週に一度、土曜日に集まる練習場は、蒲生高校だ。過去に3度、高校総体の県大会を優勝している古豪だが、近年は部員が揃わない。合同チームの主将を務めた野間友翔(蒲生高3年)は「入学したときに、サッカー部に先輩が1人もいなくて、先生しかいなかった。『あれ、ここにいて良いのかな。これで試合に出られるの?』と思ったし、人がいないならやめておこうと思ったけど、中学からの同級生が一緒にやろうと言ったので、入った。でも、僕の代は最初3人だったし、今も1年生はいなくて全員で8人」と人数不足の現状を話した。

合同練習は週に一度、連係に課題

「蒲生・伊佐農・霧島・高特支」4校合同チームを指揮した新田監督【筆者撮影】
「蒲生・伊佐農・霧島・高特支」4校合同チームを指揮した新田監督【筆者撮影】

 平日は、放課後に同じ学校の仲間だけで練習をするが、多い学校で全員揃って10人程度。できることは、限られている。4校合同練習も週に一度できれば良い方で、全員が揃うとは限らない。選手が同じ目標に向かってまとまるだけでも大変だ。野間は「同じ学校の選手は、普段の生活で、どういう性格なのかが分かる。でも、ほかの学校の選手とは週に1回程度の練習でしか会わないので、すぐには考えを察することができない。特に、相手の感覚が前回から変わっていると、分からなくなる。僕は主将だから、なるべくほかの学校の子に話しかけるし、選手の特徴をみんなに伝えるようにしてきた」とコミュニケーションの問題が常につきまとうことを明かした。

 異なる学校の生徒と週に一度の練習でチームを作る。間違いなく、難しい作業だ。ピッチ上では、連係がスムーズにいかない。新田康彦監督(蒲生高)は「球際で仲間が奪いに行くのか、行かないのか。(ボールのところへ)オレが行くのか、お前が行くのか。そんなところで躊躇して、ボールを取れない場面が少なくない。グループ練習が不十分だから、相手の1人、2人までは良いけど、3人目は誰がどこまでカバーするのか。ボールが流れるほど、ポジションがずれていってしまう」とプレー面での難しさを教えてくれた。決して強いチームでも、能力の高い選手たちでもないため、試合中に選手がリーダーシップを取ってまとめることも難しい。

「仲間がいるから、味方を信じるから、できるプレーがある」

 しかし、彼らは合同チームだからこそ気付けたこともある。主将の野間は、人数のいる練習の楽しさ、仲間がいることの心強さを改めて知った。

「僕は、守備の選手。上手くないし、相手のボールをどんどん奪いに行くと、背後に抜かれてしまう。学校の練習だと人数が少ないから、ほぼ1対1の状況で全員が最後の砦。抜かれたら終わりだから、相手に時間をかけさせる守り方になる。でも、合同チームでは、たくさんの仲間が『カバーするから、行け!』と言ってくれて、奪いに行く勇気が持てた。仲間がいるから、味方を信じるから、できるプレーがあるんだと分かった」(野間)

合同チームでも「本気で試合をできるようにしたい」

 そして、少ない人数では、誰もが貴重な戦力だ。チームを背負う責任感の中で彼らは変わっていった。そこには、技術の向上だけではなく、指導者が伝えたかったものがある。

「今後も、こういうチームは増える。だから、合同チームでも一つ、二つと勝って、地域に残ってもサッカーを続けられるという形にしていけないかなと思っている。無理に人数の多いチームに行って試合に出られないというのではなく、こういう形でも本気で試合をできるようにしたい。今日、何人か悔し泣きをしていた。彼らは、下手だけど、サッカーが好きです。だから、やっぱり、勝つか負けるかの中でやらせたい。その中でしか学べないものがある。勝機は多くないけど、今日は、点を取って、ベンチにみんなで来ましたからね。あれを見たらね。やっぱり勝たせてやりたかった。『ありがとうございました』の声がいつもの2、3倍は大きかったね」

新田監督は、そう言って笑顔を見せた。

同じ舞台で勝負できた喜びが新たな力に

惜しくも初戦で逆転負けを喫した合同チーム(白)だが、その歩みの中で学んだものは他チームに劣らない【筆者撮影】
惜しくも初戦で逆転負けを喫した合同チーム(白)だが、その歩みの中で学んだものは他チームに劣らない【筆者撮影】

 合同チームを組まなければ、知り合うことのなかった選手と仲間になり、1つの勝利を追い求めてまとまった。野間は「当たり前のように出場している学校とは違う。弱小の合同チームだから、大会に出られることのありがたみを知ることができた。人数が少なくて出られない選手もいる。4校合同という形だけど、インターハイ予選に出られた。大舞台に立てるだけでも感謝」と周りのチームと同じ舞台で勝負できた喜びを示した。彼自身もこの大会を最後に受験勉強に専念する予定だ。しかし、本気で目標に挑んだ経験は、敗戦の悔しさを次のエネルギーに変えていく。野間は「受験勉強に専念した方が良いと思っているけど、でも、すごく悔しい。交代で、最後までピッチに立っていられなかった。これで終わりにして良いのか……という気持ちが、今はある。選手としては続けたい……」と悩んでいた。合同チームでも大事なことを学べたということなのだろう。人数が少ないからサッカーはやめておこうと言っていた若者は、すっかり本気の挑戦者になっていた。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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