離島で改革、与論高サッカー部に見る環境格差との戦い

得点を喜ぶ与論高。環境格差を乗り越えた先の勝利は、地元の努力の賜物だ【著者撮影】

雨の降りしきる人工芝の上で、20時間の船旅を経て離島からやって来た高校生が躍動していた。前線に位置取る背番号10が3得点。このチームの多くの選手にとって高校最後の舞台となる高校総体(インターハイ)県大会の初戦を6-2の勝利で飾った。歓喜に沸く、緑色のユニフォーム。それが、鹿児島県の最南端からやって来た与論高校サッカー部の雄姿だった。たった1勝の喜びだが、その裏には厳しい環境下での努力がある。

 悪天候で船酔いに苦しんだというFW川村猛留(3年)は、初戦でハットトリック(1試合3得点)を達成。「僕たちは、高校生同士の試合の(相手がボールを奪いに来る)プレススピードに慣れていない。試合経験も少ないので、慣れなくて、いつも通りのプレーができない選手もいる。でも、今日は、以前より力を出せたかなと思う。入学してから、全部の大会で1回戦負け。やっと勝てて良かった」と勝利の味を噛み締めた。離島は、都市部とは、あらゆる環境が異なる。約20時間の船旅を経て会場にたどり着くことなど、たくさんあるハンディの一つに過ぎない。

アルバイトをしてから練習へ

離島の環境は、都市部からは想像し難い【著者撮影】
離島の環境は、都市部からは想像し難い【著者撮影】

与論高の場合、島に高校が一つしかないため、大会だけでなく、高校生と練習試合を組むだけでも島を出なければならない。高校サッカー界では2011年から全国的に通年のリーグ戦が導入されているが、離島勢は移動の時間と費用が問題となり、現実的には参加できない。与論高には、授業が終わると、夕方に新聞配達を行い、それから練習に参加する選手がいる。チームでも畑の整備や、観光事業の手伝いなどで話をもらってアルバイトを行うことがあり、合宿や遠征の費用にあてている。鹿児島県大会は、離島勢への配慮で平日を通して1週間で行われる日程となっており、何度も往復する必要はないが、体力も財力も要する戦いだ。

少子化と過疎化

 また、少人数での活動も余儀なくされる。島全体の人口が5000人を切るかどうかという与論島では、サッカー部で1学年11人は揃いにくい。今回のインターハイ予選は、2回戦でPK戦の末に敗退したが、この試合を最後に受験勉強に専念するため、半数の3年生が部活動を引退する。すると、2学年でようやく1チームを組める程度の人数しか残らず、紅白戦も組めない。どうしても高校選手権の予選に挑戦したいため、早々に推薦で大学を決めたという3年生の川村は「自分たちの代にも、中学生の頃までは優秀な選手がいた。でも、半分以上が駅伝やサッカーのスカウトを受けて島外に出ていったし、その影響で競技を続けなかったり、違う競技に行ってしまったりする人もいた」と少し寂しそうに明かした。なかなか勝てない言い訳を探すなら、材料に困らない。しかし、地元の人々は、ただ嘆いているばかりではない。環境格差に様々な形で立ち向かっている。

環境改善の鍵は「人工芝」と「外部指導者」

与論島の育成環境について話してくれた重吉監督【著者撮影】
与論島の育成環境について話してくれた重吉監督【著者撮影】

練習環境では、2つの点で改善を進めている。1つは、グラウンドだ。与論町は昨年、多目的運動広場「ゆいランド」を開設した。サッカーで使用可能な人工芝グラウンドは2016年度に完成。与論高は週に2回ほど、この人工芝で島内の社会人チームと練習試合を行っている。重吉勇佑監督が「土のグラウンドしか知らなくて、県大会に行ったら、全部人工芝。転がり方の違いに慣れずに苦労した」と話したように、以前は人工芝特有のボールスピードや、身体への負荷に苦戦していたが、わずかながら改善に向かっている。もう1つは、育成・指導面の工夫だ。重吉監督は「与論町のサッカー連盟が中心になって、小・中学生を島のみんなで育てようという流れが生まれている。部活動における教員の指導に依存すると、異動によって(競技経験や競技指導の経験がある)指導者がいなくなってしまうことがあるので、外部指導者が教えるようにしていて、高校も地元の人が中心に教えて、そこに教員がうまく関わる形にしていこうとしている」と明かした。試合環境は、島のすぐ北にある沖永良部島と協力して改善。両島には、高校、社会人のチームが1つずつあり、4チームでホーム&アウェイのリーグ戦を数年前から始めている。社会人の都合がつかずに日程がずれ込むなど難しい部分もあるが、定期的に試合を行えるようになった。重吉監督は「普段、暑い環境で生活しているはずだけど、社会人相手が多いから昼間に試合をすることがほとんどなく、意外と暑さにやられてしまう」と笑うが、それでも試合数が増えたことは、選手のモチベーション維持に大きく貢献している。

全国4強チームも来島、スポーツを通した誘致と人材交流で地域活性

【著者撮影】
【著者撮影】

何より、環境整備は、島の政策に結びついており、可能性を秘めている。与論島の多目的運動広場「ゆいランド」には、屋内運動場、総合体育館が併設されており、与論町は合宿誘致活動にも取り組んでいる。昨年2月には、2017年度の全国高校サッカー選手権でベスト4に入る活躍を見せた長野県の上田西高校を、白尾秀人監督が与論島出身という縁で招待。与論高と、地元の社会人チームが上田西高と練習試合を行った。与論高は逆転負けを喫したが、先制して盛り上がったという。重吉監督は「あれで勢いに乗っていけるんじゃないかと思ったら、直後の県大会で1回戦負け(笑)。でも、全国大会を戦ったチームが島に来てくれて、生徒はかなり刺激を受けていた。すごく良い経験ができた」と感謝していた。離島で活動する高校生には、貴重な体験だ。

 離島に生まれ育ったというだけで、スポーツにおける可能性を消さないようにと、地域の指導者たちは考えている。過去、昭和最後の県大会では3位という好成績を残しているが、環境格差は広がる一方で近年は苦戦が続いている。インフラ整備や指導体制の改革は、歯止めをかけるための施策だ。重吉監督が「気持ちが乗ってくれば、良いゲームができる子たち。どれだけ前向きに臨ませるかがポイント」と話したように、環境格差による劣等感を取り除き、思い切って挑めば、勝負は可能だ。最南端の離島からやって来たチームの1勝の喜びは、地元に残る子どもたちに、少しでも挑戦できる環境を与えようという島の人々の苦心の結晶だ。