東京五輪卓球混合ダブルス金メダルを獲得した水谷隼選手。それほどまでに活躍した水谷選手がビジュアルスノウであることを告白した。金メダルを取るほどなのに現役引退も表明されているようです。ビジュアルスノウはそれほどつらい病気なのでしょうか。あなたは聞いたことがあるでしょうか?

「自分には関係ない」と思っていませんか?

「自分には関係ない」そう思うかもしれません。確かにビジュアルスノウというのは聞き慣れない病気です。しかし、ビジュアルスノウはある日突然やってきます。誰に起きるかもわかっていません。あなたやあなたの家族、友人がなってもおかしくない病気です。知らなければ自分に何が起こっているのかもわかりません。どれだけつらい症状で、現在どのような治療法があるのか?そして原因は何なのか?

世界で発表されている論文から、またビジュアルスノウの患者さんを診療している経験から、眼科医としてこの病気についてお伝えしたいと思います。

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飛蚊症かと間違えるが明らかに違うつらい症状

ビジュアルスノウと間違えられる症状に飛蚊症があります。飛蚊症とは目の硝子体という部分の混濁により蚊が飛んで見えるような症状なので「飛蚊症」と言われています。飛蚊症の特徴は目を動かすと同時に動くことと、強く症状を感じる時もあれば、全く気にならない時もあるという症状です。飛蚊症という症状を引き起こす硝子体の混濁には様々な原因があります。例えば網膜剥離、眼底出血などです。このような悪い病気の前兆ということもあるのでビジュアルスノウかなと思ったら一度は眼科の診察を受ける必要があります。

(症状としてはビジュアルスノウの方でも飛蚊症と感じている方がいますがこの場合は硝子体の混濁は明確ではないです。)

 ビジュアルスノウの症状は具体的にどうなのか?「きらきらする・光が散って見える・ライトがぎらついて見える」などの症状です。また「ブルーフィールド内視現象」といって飛蚊症に似ているふわふわとしたのがランダムにい動きをするのを強く感じる事もあります。光に対して過敏になる、夜見にくくなる、などの症状があります。そしてこれらのどう考えてもつらい症状が一時的ではなくて3か月以上持続してきます。

 患者さんの言葉を借りると「生きているのもつらい」「これが一生続くと思うと人生どうしていいのかわからない」とおっしゃる方もいます。一方で何とかそれに耐えて、つきあっていって「何とか折り合いをつけていけています」という方もいます。一方「ちょっと気にはなるが特に問題ない」という方もいてかなり症状に幅があります。また目の症状だけではなく関連してうつ症状や不安症状・睡眠障害に至ることもあります。※

 そのため目の病気のチェックだけではなくて脳の病気がないかどうかというのもチェックが必要になります。症状だけで自己判断で「ビジュアルスノウ」だと放置してはいけません。

こんなつらい症状の原因は?

 残念ながらビジュアルスノウの原因はわかっていません。少なくとも目の病気ではなさそうです。目に症状が出るのですが脳が異常興奮をしてしまうのが原因の一部と考えられています。異常興奮をして伝わった電気信号が正常とは違うものを見せてしまうというメカニズムです。MRIなどを用いた研究でも脳の血流増加が指摘されています。※※また診断基準自体はできつつありますが、他覚的な検査ができないという所が診断の難しい病気です。

 他覚的な検査とは第三者がみて病気があるかどうかを判断できるというものです。飛蚊症の原因として硝子体混濁があれば医者がみてわかります。白内障があれば視力が低下するのがわかります。しかしビジュアルスノウに関しては「患者さんの訴えからのみ」診断がされます。第三者的な診断が不可能な場合、診断も困難となります。医者によっては「ウソなんじゃないのか?」と疑う医師もいます。結果として病気として認められにくい。実際私が診療してきた多くの患者さんは「ほとんどの眼科・脳神経外科で相手にされなかった。」「変なことを言う患者だなといぶかしい顔をされた。」というようにむしろ医療機関でつらい経験をされている方が多いです。残念ながらビジュアルスノウ自体は医者の間でもあまり知られていないので、このように悲しいことが起こっています。

どこでどういう治療を受ける?

 現在は確定した治療法というのがありません。訓練を用いた治療の研究、昔からある脳に関連するお薬を使った報告など治療の報告はあります。※※※しかし決定的な治療法はまだなく模索中です。その理由としてそもそもこの病気を知っている医師が少ないために診断もされない。そのため多くの患者さんの情報も集まらず治療につながらないという現実があります。患者さん自身もそうですし、今は関係ないと思っているあなたも、医師も是非病気について知っておいていただければと思うのです。今回水谷選手が勇気をもってビジュアルスノウのことを公表してくれました。このことにより病気の認知度が高まり診断が増え、診断・治療がより進んでくれることを願ってやみません。

※Emma JS et al: The Psychiatric Symptomology of Visual Snow Syndrome Front Neurol. 2021 Jul 30;12

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Francesca P et al: Localised increase in regional cerebral perfusion in patients with visual snow syndrome: a pseudo-continuous arterial spin labelling study J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2021 Sep;92(9):918-926.

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Ozan E, Chistoph JS: Insights into pathophysiology and treatment of visual snow syndrome: A systematic review Prog Brain Res. 2020;255:311-326