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新型コロナウイルス流行でホワイトデーどうなる? 菓子業界の動きは

平岩理緒スイーツジャーナリスト
「歴史的緊急事態」に直面するホワイトデーの取り組みは?(画像提供・クラブハリエ)

ホワイトデー&春のギフト商戦真っ只中、営業縮小を迫られた菓子業界の選択は?

ホワイトデーまであと2週間という2020年2月29日、新型コロナウイルスの流行抑制のため政府より発表された、全国の学校への臨時休校要請とイベント等の中止や延期要請、テレワークの推奨等。

次第に不穏な空気を感じていた各地の菓子店経営者達も、多大なインパクトをもって、この発表を受け止めた。

外出を控える傾向となり客足が落ちるのでは? 百貨店や商業施設で開催されるホワイトデー関連の催事はどうなるのか? 休校措置が始まると、包装作業などで人手を必要とする時期にもかかわらず、お子さんのいるパート勤務の方が出社できなくなるのでは? といった懸念の声も多数出た。

菓子店にとって、3-4月はホワイトデーに限らず、卒園や卒業に伴う謝恩会や送別会、入学や入社など、大口のギフト注文が入る時期である。今回の件で卒業式・入学式を中止とした学校も多く、そのために発注されていたお菓子がキャンセルになったケースも複数耳にした。

政府発表を受けて、主要百貨店をはじめ、ショッピングモールや駅ビルの商業施設等も、営業時間の短縮を続々と告知。これらの施設内にある菓子店や、海外からの観光客やビジネス客の多い地域の店からは、やはり客足が減っているという声も聞かれる。

滋賀県近江八幡市にある「たねや」・「クラブハリエ」のフラッグシップショップ「ラ コリーナ近江八幡」(画像提供・クラブハリエ)
滋賀県近江八幡市にある「たねや」・「クラブハリエ」のフラッグシップショップ「ラ コリーナ近江八幡」(画像提供・クラブハリエ)

そんな中、滋賀県に本拠を置く和菓子・洋菓子メーカーの「たねや・クラブハリエ」は、3月2日~15日までの直営店の臨時休業、飲食・販売休止の旨をホームページ上で発表した。その内容は主に、期間内の飲食部門の休業と、混み合う土日の施設全体の休業。また、パッケージされていない商品の販売休止を含む。

苦渋の選択であろうと想像できるが、たとえば近江八幡市に構えるフラッグシップショップ「ラ コリーナ近江八幡」は、駐車場の収容台数は414台、観光バスや車椅子利用者の専用スペースもある大規模な施設であることを鑑みると、その判断に至ったことも理解できる。

「クラブハリエ」は「ホワイトブラウニー」など2020年ホワイトデー商品を通販でも展開(画像提供・クラブハリエ)
「クラブハリエ」は「ホワイトブラウニー」など2020年ホワイトデー商品を通販でも展開(画像提供・クラブハリエ)

代表取締役の山本隆夫氏は、「正直、商売としては苦しい。店を閉めたからと言って収束するかもわからない。でも、国がこの2週間を大事な時期として動き始めた以上、できる限りのことは協力するし、日本が一つになる時。事業主も、お休みになったお子様も含めて、皆で外出を控えて感染防止に努める必要がある。その分、通販を頑張ります。」と話す。

一方、各地での休校措置が始まった3月以降、個人店の菓子店からは、「平日、土日に関わらず、むしろ普段よりお客様が増えて忙しい」という声が多く聞かれる。「混雑する場所や、交通機関を利用する遠方への外出は避けたいけれど、近所のお菓子屋さんなら行ってもいいかなという方が多いのかもしれません」と推測する店主も。菓子店への滞在時間はそれほど長くなく、購入だけなら15-20分程度で済むことも、心理面に影響していると言えるかもしれない。

ここ数年、ホワイトデー前日や当日には、商業施設の菓子売り場や駅構内の催事場で、大勢の男性客が列をなす光景が風物詩となっていた。しかし現状では、混雑が予想される場所に長時間滞在することは避けたい、と考える消費者も少なくないだろう。

日本は、世界のどの国よりも菓子店の通販のシステムが充実し、破損を防ぐ梱包やクール配送などの対応も非常に丁寧だ。こんな時こそ、オンラインショップや通販対応を利用するのも、一つの選択肢となる。「今からの注文で、まだ間に合うのか?」という諸氏は、まずはお店に相談してみることをお勧めする。

ギフト菓子の送料無料に取り組むブランドが複数登場

「Minimal」がオンラインストアで数量限定販売する送料無料のチョコレートギフトセット(画像提供・Minimal)
「Minimal」がオンラインストアで数量限定販売する送料無料のチョコレートギフトセット(画像提供・Minimal)

さらに通販において、より積極的な施策に出るブランドもある。自社で仕入れたカカオ豆を自家焙煎して製造したチョコレートを中心に販売する「Minimal-Bean to Bar Chocolate-(ミニマル)」は、今回の状況を受け、オンラインストアにて、新作や限定商品の送料無料セットの販売を3月4日から開始した。ホワイトデーなどのギフト用途で相手宅に送ったり、取り寄せて自宅で楽しんだりと、このタイミングだからこそ、チョコレートを通じたコミュニケーションによる安らぎや元気を感じてほしいと、送料を負担する形で企画したという。

代表取締役の山下貴嗣氏曰く、「今回の送料無料プランを考えた別の要因は、ある商業施設でのホワイトデー催事が無くなったことです。」という。2月下旬、その近隣のビルで行われたイベントに、新型コロナウイルス患者が参加したことが確認されたという報道があった。そのような状況を受けて催事の中止が決定。既に仕込みを始めていたお菓子を破棄しなくてはならない可能性が出てきてしまった。

これを避けるため、催事限定で販売予定だった生チョコレートを、これらのギフトセットに入れて販売することにしたという。

「農家さんがカカオを大切に育ててくれているところを見ている。そのバトンを引き継ぎ、商品を作り届け、食べていただくこと、喜んでいただくことが私達の役割です。うちのスタッフが心を込めて作ったものですし、またカカオ農家さんのことを思うとロスを出すのはあまりに心苦しい。」と山下氏。

送料無料ギフトセット提案の背景には、フードロス回避の目的もあった(画像提供・Minimal)
送料無料ギフトセット提案の背景には、フードロス回避の目的もあった(画像提供・Minimal)

この展開を受けて、山下氏のツイッターにも「外食やカフェ利用を控えていたらココロが元気をなくしかけていました。食べ物が心にいかに大切かということに気づきました。不安な世の中なのでチョコで心を癒したいですね。」といった好意的なコメントが多く寄せられ、購入者からも喜びや応援の声が届いているという。

実際に、2月最終週から3月第1週の伸び率を比較検証したところ、「去年と比べて今年は、実店舗の来店はダウン、オンラインストアはアップという傾向。私達はまだ実店舗の売上割合が大きいので、厳しい状況というのが正直なところです。オンラインストアのユーザー数は2割増、売上件数も3倍近く、3月に入ってからの伸び率が昨年より高いです。一方で、ホームページの【店舗アクセス】ページは伸びていないので、やはり外出しようとする人は少ないのかもしれません。」という結果が出ているそうだ。

その他にも、新型コロナウイルスの影響による外出自粛や在宅勤務の増加に配慮して、送料無料キャンペーンを行っている菓子店は複数ある。ホワイトデーが終わっても、世の中の状況に合わせてしばらく続けるという店もあるので、この機会に利用してみてはどうだろうか。

デリバリーサービスを通じたお菓子の注文も増えている

神戸市内のフランス菓子店「ラトリエ・ドゥ・マッサ」(画像提供・同店)
神戸市内のフランス菓子店「ラトリエ・ドゥ・マッサ」(画像提供・同店)

神戸市内のフランス菓子店「ラトリエ・ドゥ・マッサ」のオーナーシェフ上田真嗣氏は、「新型コロナウイルスの影響は、平日は少し出ている感じがします。向かいの小中学校が休みになり、お母さん達が外に出なくなったのもあるかと思います。カフェでイートインする人は減ったかも・・」と話す。

その一方で、「Uber Eats」のフードデリバリーサービスを通じた菓子の注文件数が増えているそうだ。上田氏が「Uber Eats」に登録しているのは2018年12月より。「お店が住宅地にあるのと、配達できるアイテムが限られているというのもあり、件数は多くなかったのですが、3月2日週以降、注文件数がそれまでの4倍程になり、客単価も20%くらい増えていますね。」という。

おそらく、休校の影響で子供達が在宅するようになったこともあり、外出はしづらいが、自宅で美味しいお菓子を味わいたい、というニーズが高まっているのではないだろうか。

焼き菓子やリーフパイの詰合せギフトや生チョコも用意しているので、ホワイトデーに利用してもらえたら嬉しい、とのことだ。

「歴史的緊急事態」に直面した2020年のホワイトデーは、菓子業界にとって逆風かとも思われたが、それぞれの店では、時代や状況に即した臨機応変な判断で、然るべき道を選んでいる。

お菓子は人を幸せな気持ちにし、元気を与えてくれる。そして、笑顔は免疫力を上げるという研究もある。そんなコミュニケーションの機会となるホワイトデーを見逃す手はない。このような時期だからこそ、パートナーやお子さんや大切な人に、お返しの気持ちや日頃の感謝を込めた贈り物を届け、笑顔の輪を広げてほしい。

スイーツジャーナリスト

マーケティング会社勤務を経て、製菓学校で菓子の基礎を学び、スイーツジャーナリストとして独立。月200種類以上の和洋菓子を食べ歩き、各種媒体で発信。商品開発コンサルティング、イベント企画や司会、製菓学校講師、コンテスト審査、スイーツによる地方活性化支援など幅広く活動。スイーツ情報サイト「幸せのケーキ共和国」主宰。「All About」スイーツガイド、「おとりよせネット」達人、日経新聞のランキング選者等も務める。著書『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『まんぷく東京レアもの絶品スイーツ』(KADOKAWA)、監修『厳選スイーツ手帖』『厳選ショコラ手帖』(共に世界文化社)等。

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