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先生は昼休みを取るべきか? ~先生の働き方改革を保護者はどう見ているか~

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
(写真:アフロ)

ユネスコでは10月5日をWorld Teachers' Day(世界教師デー)と定めています。日本ではあまり普及していないですが、先生に思いを馳せる日になっています。国民の祭日になっている国もあり、先生方も休める1日になります。

日本では先生の「働き方改革」が社会課題となっています。

「日本の先生は働き過ぎだ」との指摘が国内外から相次いでいます。

文部科学省の発表によると「小学校教員の3割、中学校教員の6割が、月に80時間以上の時間外労働をしている」というデータが出ています。

私は以前の記事で、教員の働き過ぎの要因についての下記の指摘を紹介しました。

〇長時間労働になってしまう先生の行動様式

・前例重視

・自前主義

・手段が目的化

〇その背景にある要因

・働き方改革が評価されない学校の仕組み

・ICTインフラの未整備

・生徒のために際限なく頑張ってしまう教員の意識・空気

〇最も根底にある真の要因

『保護者・地域からの過度な期待とそれに全て応えようとする学校・教員側の意識・慣習』

教員の働き過ぎの要因について、給与、部活、事務の問題など色々な指摘がありますが、真の要因は「私たち社会の過度な期待」

つまり、私たちが学校の先生に全てを任せ過ぎていて、先生方がそれに必死に対応してしまう状況が長時間労働を招いている、との指摘です。

確かに様々な学校現場を見ていると「そんなこと、保護者に説明できない」という声を多く聞きます。その無言のプレッシャーが先生たちを追い詰め、改革を遅らせます。

しかしそれらの心配が本当にそうなのか?杞憂ではないのか?と思うこともあります。

小学校で教員をされたこともある乙竹洋匡さんの著書には「学校の”9割は杞憂”でできている」と指摘されていました。

そこで実際に保護者は教員にどういう期待をしていて、どういうところはそんなに頑張らなくても大丈夫なのか。独自にアンケート調査をしてみました。

○保護者は先生の働き方改革をどう考えているか?調査結果の共有

(調査の概要)

・インターネット調査(2019年7月実施)

・未就学児・小学生の保護者500名、中学生の保護者500名、合計1,000名が対象

・各設問について4段階で返答

まず最初は、先生の働き過ぎについて保護者がどう見ているかです。これを見ると4分の3の保護者が「先生の過剰労働により良い人材が先生になることが阻まれている」と感じています。

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先生の勤務実態の調査によると、小学校の先生の勤務時間全体の6割にあたる週41時間が学習指導に充てられていました。これだけで既に所定労働時間である週40時間を超えてしまっていましたが、学習指導の中身は以下の割合でした。

1.授業:40% 2.授業準備:30% 3.採点評価:30%

実際の授業より多くの時間が準備と後処理にかかっています。

ここで注目されるのが「採点評価」です。ずいぶん時間がかかっています。

採点評価の代表格といえば毎日の宿題です。保護者は宿題を毎日求めているのでしょうか。

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上記の結果でした。「宿題は毎日必ず出されるべきだ」と考えている人は小学生の保護者は半分いません。この結果を見る限り、「宿題を毎日出すことは強くは求められていない」と考えても良いでしょう。

さらに「宿題のチェックを担任の先生以外がしても良いか」と聞くと、これは8割近い保護者が「構わない」と答えています。「必ず担任が自らチェックしなければ!」と考えている先生も多いですが、そこまでの期待はないと言えます。

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「毎日宿題を出すのをやめて、そして出しても地域のボランティアの人に採点してもらって、その結果だけ先生が見る」

こんな風にして働き方改革が出来ないでしょうか。

次に働き方の意識です。

「先生が昼休みを取る」皆さん、どう思いますでしょうか?

実際には先生たちは「給食指導」の名のもとに、生徒たちと給食を食べていて、昼休みを取れている先生はほぼいないのが現状です。

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上記の結果でした。9割近い保護者が「先生も昼休みを取ってほしい」と思っています。

私が以前に視察に行ったオランダの小学校では、先生は当然昼休みを取り、地域のボランティアの人が生徒と一緒にランチを食べていました。アレルギーの懸念などがあるのは注意点ですが、そこをしっかりと対応し、「先生が昼休みを取る」ということもできないでしょうか。

さらに働き方についても聞いてみました。

皆さんは「担任の先生が平日に休暇を取るのはおかしい!」と思いますでしょうか?

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上記の結果でした。「担任の先生の平日の休暇はおかしい!」と思う方は2割程度、約8割は「そういう日があっても良いのでは」と考えています。この結果をある小学校教員に話したら、とても驚くと同時に涙ぐまれました。その先生は「平日に休むなんて考えてはいけないことだと思っていた、自分の子どもの参観日に見に行ってあげたことがない」と仰っていました。

さらに「17時以降は職員室の電話が留守番電話でも良いか?」を聞きました。現実には遅い時間に保護者との電話対応に追われる先生も数多くいます。

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結果は上記でした。7~8割の保護者が「留守番電話で良いのでは」と考えています。

実際に留守番電話の導入はいくつかの自治体で始まっていますが、全体的に「概ね問題ない」という結果であるように聞いています。留守番電話が導入された学校の保護者に聞くと「今まで持ち物の確認などすぐ電話してしまっていた。ちゃんと子どもに聞いてくるように言い聞かせるようになった。これが本来の姿、今まで先生にすぐ電話して申し訳なかった」とのことでした。

最後に先生方へのエールも込めて、下記の声をご紹介します。

「先生方の過剰労働を減らすために力を貸したい」と思うかを聞きました。

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約7割の保護者が「力を貸したい」と仰っています。

全体を通して、このアンケート結果を見た教員は

「こんなに保護者が応援してくれていると思わなかった」

「今まで保護者の声を想像してかなり心配していたが勇気をもって働き方改革したいと思った」

という感想でした。もっと保護者と教員間で本音でコミュニケーションすることが必要です。

保護者も教員も「子どもたちの幸せを願う」という共通目的を持ったチームメイトです。

今回の調査を通じて分かったことは、

教員の働き過ぎの真の要因は「私たち社会の過度な期待」というよりは、

「私たち社会の過度な期待への教員の杞憂」と言っても良いのかもしれません。

先生たちはもっと自信を持っていただいて大丈夫だと感じました。

好人材が教員になり、良い先生に教わった子どもたちが教員という職業を目指す好循環を生んでいくために、今後も社会全体で先生方の働き方改革を応援していきたいと思います。

<参考記事>

教員の長時間労働の真因は「過度な期待」? 教員の働き方の現状と課題をみる

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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