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「子どもの自殺が特別多い9月1日」〜子どもが学校に行きたくないと言ったら〜

平岩国泰放課後NPOアフタースクール代表理事
子どもが「学校に行きたくない」と言ったら親はどうしましょう(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年も「9月1日」がやってきます。

昨年ここに書かせていただきましたが、

9月1日は子どもの自殺が突出して多い日であります。

夏休み明けに子どもたちの心と体が不安定になり、不登校になったり、最悪のケースとして命を絶ってしまう子が増えるわけです。

この「9月1日問題」は社会的な認知がだいぶ進みました。

◯学校と社会の対応は?

まず学校現場では、文部科学省の旗振りのもと、「児童生徒の自殺予防に関する普及啓発協議会」が各地で開催され、「長期休業明けに注意!!」との情報が各地で共有されています。

学校ではスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置が進み、特にこの夏休み明けは丁寧に対応することがうたわれています。

さらに、社会での動きも進んでいます。

大きなきっかけになったのは2015年の鎌倉市の図書館の下記のツイートでしょう。これにより、「9月1日問題」が知られると共に大きな共感を呼びました。

もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。

2015年8月26日 09:11

このようなツイートもきっかけに、社会において「子どもたちの居場所を増やそう!」ということが認知され、少しずつセーフティネットが広がっていると言えます。

学校・社会と対応が進むのは喜ばしいことですし、私たちアフタースクールも対応をますますしっかり行いたいと思います。しかしながらそれだけ良いのでしょうか?

◯肝心要の「家庭」の対応は?

学校と社会、それよりも子育ての最も基本となる場所は「家庭」です。家庭でこの問題が起きた時の対応に注目が集まり始め、悩みも多く聞かれています。もしあなたの子どもが『学校に行きたくない。。』と言ったら、どうするでしょうか?

あるお母様のお話です。そのご家庭は小学5年生の長男が不登校になったそうです。

「5年生でクラス替えがあって、子どもの人間関係がうまくいかなくなり始めました。3・4年生の担任の先生はうまく子どもを扱ってくれましたが、新しい担任は上手に仕切れていないようです。

1学期の6月くらいから『頭が痛い』『お腹が痛い』と言い始め、休んだり、保健室に登校したりが増え始めました。

はじめは自分も『学校に行かなきゃ』と子どもに言ってましたが、自分も仕事をしているし、どうして良いか分からなくなりました。

7月にはほとんど学校に行けなくなり『2学期になったらまた行くから』と言うのでそのままにしておきました。

夏休みに入り、リラックスした様子になりました。旅行にもいったり、弟と遊んだりで表情も明るくなりました。

そんな中、8月21日、月曜日を迎えるあたりから表情が落ち着かなくなりました。うちの子どもの学校は8月25日金曜日に夏休み明けなのです。

息子は月曜、火曜、水曜と進むにつれだんだん落ち着かなくなりました。夜も眠れなくなり始めたようです。前日の木曜の夜はいよいよ眠れなかったようです。私も心配で眠れませんでした。なかなか眠れない中、『明日、別に行かなくてもいいよ。』と言ったらようやく眠ってくれました。」

「『明日、別に行かなくてもいいよ。』との言葉を自分もようやく言えました。

なんとか2学期には立て直す、と信じてきたので、それが崩れるようでなかなかその一言が言えませんでした。

初日の8月25日金曜日、子どもは学校に行きませんでした。今でも自分が正しかったかはわかりません。

でも、大人だって休みたい日もあるし、実際に休むこともあります。小さな子どもならなおさらだと思います。」

「『別に行かなくてもいいよ』と言えたことで自分も吹っ切れた気がします。これから長期戦になりますが、じっくりと子どもの気持ちと付き合おうと思います」

このお母様は正しかったのでしょうか?

私としては、正しかったと思いますし、苦しんでいる子どもに対して、勇気ある一言だったと思います。

「2学期から」「9月1日から」

苦しんでいる親子にとっては、9月1日は分かりやすい目標です。

「夏休みにゆっくり休めば何とかなる」「夏の間に何かきっかけが見つかる」

こんな風に考えて、思わず飛びついてしまう象徴的な目標設定かもしれません。

しかしながら実際には、夏の間に何か問題が解決するわけではないし、長い間休んだあとは大人でも会社に戻るのが少々つらくも感じます。また夏の間の楽しい日々とのギャップも大きいとなおさら学校に行くのがつらい気持ちにもなるでしょう。

そのような意味では「9月1日」は難しい目標設定の日だとも言えます。

◯「子どもが不登校になる」そう聞いた時、親はどう思うでしょうか?

そのように聞いて、一番心配なのは「社会から置いていかれる」「まともな就職ができなくなる」という感覚だと思います。でも本当にそうでしょうか。苦しい時に少し休むことがそんなに大きなロスになるでしょうか。また苦しいばかりになってしまった学校に這ってでも行くべきでしょうか。別の学校にするのは難しいでしょうか。

それから「世間や自分の親からなんと言われるか?」と心配していないでしょうか。子どもの心配をしながら自分自身の世間体を気にしていないでしょうか。もちろん全く気にならないと言ったら嘘になるでしょうが、日々色々なことがありますし、ご自身が他人の家庭をどこまで気にしているか考えてほしいと思います。結局他人のご家庭はあんまり気にならないのではでしょうか。

◯もしかしたら悩んでいる君へ

夏休みが明け、「学校に行きたくない」と思っているかもしれません。学校に行かないことが親の期待を裏切るように感じているかもしれません。約束を守れないように感じているかもしれません。でも親は最終的には子どもが無理して学校に行って暗い顔をしているより、少し休んででも元気な顔をしている方が嬉しいものです。人間一日中起きていることはできません。眠る時間があるから起きていられるのです。人生は長いので少しくらい休む時期があっても全然大丈夫です。世界は広いし、想像をはるかに超える色々な生き方があります。どうか悩んだら無理をせずに、素直な心を親御さんや社会の大人たちに話してみてください。きっと受け止めてくれる大人がいます。

◯保護者の方へ

お子様がもし悩まれていたら、すべきことは1つだと思います。それは「ただ子どもの話を聴くこと」です。

できるだけ途中で遮ったり、自分の意見を言わずに相槌を打ちながらじっくり付き合ってただ聴きましょう。それだけで100点です。聴いたあとで、自分が小さい頃からの悩んだエピソードや今の仕事や家庭でも悩むことがあることを伝えてあげるのも良いと思います。「大人だって悩んでいる」「親だって悩みながら大きくなってきた」このことは子どもの心を少し励ましてくれるかもしれません。もちろんアドバイスすることもあっても良いでしょう。でもご自身を思い出してください。「自分は親御さんのコピーだったでしょうか?」「親御さんとまるで同じ価値観だったでしょうか?」きっと大なり小なり親御さんと自分は異なるはずです。一人ひとり歩みの速度は違いますので、どうか子どもの歩みを尊重しましょう。それが子どもの自立を促す第一歩なのです。

家庭・学校・地域が三位一体となって、子どもたちを応援したいと願っています。

子どもが心から安心できる居場所があってこそ、外で頑張れるのだと思いますので、少しでも子どもたちの「心の安全基地」を増やしてあげたいと思います。また悩む親御さんも支えてあげることが極めて重要だと感じています。

今年も「9月1日」が来ます。子どもたちが悲しい決断をしないように心から願っています。

放課後NPOアフタースクール代表理事

放課後NPOアフタースクール代表理事。1974年東京都生まれ。1996年慶應義塾大学経済学部卒業。株式会社丸井入社、人事、経営企画、海外事業など担当。2004年長女の誕生をきっかけに、“放課後NPOアフタースクール”の活動開始。グッドデザイン賞4回、他各種受賞。2011年会社を退職、教育の道に専念。子どもたちの「自己肯定感」を育み、保護者の「小1の壁」の解決を目指す。2013年~文部科学省中央教育審議会専門委員。2017年~渋谷区教育委員。2019年~新渡戸文化学園理事長。著書:子どもの「やってみたい」をぐいぐい引き出す! 「自己肯定感」育成入門(2019年発刊)

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