今年最大の満月は11月14日 

満月の大きさくらべ  国立天文台「ほしぞら情報」より引用

今年の「スーパームーン」が話題になっています。国立天文台では「スーパームーン」という言葉は公式には使っていませんが、11月14日の満月は確かに今年もっとも大きな満月です。しかし、過大な期待をして月を眺めてみても、見た目(眼視)では残念ながらその大きさの差はほとんど分かりません。写真に撮ってみると、今年一番小さかった4月22日の満月と比べて、直径で約14%、面積で約30%も大きな満月であることに気づかれることでしょう。

月は地球の周りを約一か月で公転している地球の衛星です。天体の通り道を一般に「軌道」と呼びますが、ほとんどの惑星や衛星の軌道は円ではなく楕円の形をしています。月の軌道も僅かながら楕円形をしています。このため地球と月の距離が周期的に変化し、地上から見た月の大きさ(視直径)は月が地球に近いときは大きく、遠いときは小さくと変化しているのです。満月の度に必ず距離が最大または最小になる訳ではありません。詳しくはこの図をご覧ください。

月の視直径の変化  国立天文台「ほしぞら情報」より引用
月の視直径の変化  国立天文台「ほしぞら情報」より引用

今年11月14日は月が20時21分にもっとも地球に近い点を通過し、南中時刻の少し前の22時52分に満月となります。満月の瞬間、視直径は約33分30秒角で、これが今年最も大きく見える満月の瞬間です。この時、地球の中心から月までの距離は356520.2kmと計算されています。これは68年前の1948年1月26日の満月のときの距離356490.6kmに次ぐ近さであり、68年ぶりの巨大な満月とNASA他が取り上げているため、人びとの関心を集めているようです。しかし、その差はたった30km程度に過ぎません。一方、地球から月までの平均距離は約38.5万km。これは地球を30個並べた距離とほぼ同じです。地球から月までの距離の変化はおよそ35.6万kmから40.6万km程度の変化ですので、最初に述べたように直径で十数%の差が生じます。しかし、各年ごとの最大満月の視直径の差は僅か1%以下に過ぎません。

地球はその半径がおよそ6400kmもあります。ここまでの説明は地球の中心からの距離でしたが、実際には私たちは地球の表面から月を見ていますので、地球が自転している間に、自分と月との間の距離は数千km変化していることになります。これは、月までの距離、すなわち地球30個の幅に比べると1/60程度ですが、68年ぶりの接近と喧伝されている30kmと比べると200倍も差があるのですから、僅かな大きさの差を競いあうようなスーパームーンの報道はあまり意味がないとも言えましょう。

私たちが月を愛でる際、月が大きいなと感じるのは、スーパームーンであるかどうかではなく、月が地平線に近い位置にあるかどうかに関わっています。一般に昇ったばかりの月は大きく感じ、空高く輝いている月は小さく感じます。これは錯覚が原因です。月が地上物からどのくらい離れているか、月をどのぐらい仰ぎ見ているかで同じサイズの月でも違う大きさに感じてしまうようです。試しに写真に撮って比較してみてはいかがでしょう。

今年最大の月に関してのさらに詳しい情報は、国立天文台の「ほしぞら情報 今年最大の満月」および「よくある質問 スーパームーンってなに?」をご覧ください。

満月を愛でよう!  提供:国立天文台天文情報センター
満月を愛でよう!  提供:国立天文台天文情報センター

このように今回のスーパームーンと呼ばれている現象は特に貴重な天文現象とは言えませんが、空気が澄んでいて、日没も早いこの時期に素敵な満月を多くの人たちに楽しんでいただければと思います。この日、月が地平線から昇ってくるのは、東京で午後4時40分頃。ほぼ日没と同時に満月が東の空に昇ってきますので、夜更かしなどしなくても月見を楽しむことが出来ます。また、一晩中、晴れていればどの時間帯でも満月は見ることが出来ます。

月の大きさや色が、地平線に近い時と、高く南の空にある時では違うようにきっと感じることでしょう。地平線に近いときのほうが満月が大きく感じられるのは錯覚ですが、迫力があり、まるで月の表面でうさぎが餅をついているようにその表面の模様が見えるので楽しんで下さい。また、地平線から月が離れると、色が赤っぽい色からオレンジ色、真っ白(シルバー)に変わっていきます。そんな色の変化もお楽しみ下さい。

さて、話は変わりますが、ふと夜空を見上げた際、東の空に昇ってくる月を見ると、私は決まって次の和歌を思い出します。

天の原 ふりさけみれば 春日なる 三笠の山に いでし月かも

小倉百人一首に選ばれている阿倍仲麻呂の歌です。遠く離れた異国の地で国に残した恋人や家族を想う気持ちは、1300年前も今も変わらない心情でありましょう。

一方、この歌は科学的教養を持って詠まれた歌でもあります。奈良時代、遣唐使として唐を訪れた仲麻呂は科挙(中国の官僚登用試験のこと)に合格するほどの天才でした。唐の地で見る満月が、遠く離れた故郷の山に昇る満月と同じであることを彼は理解していました。彼と故郷の家族・友人は2千km近く離れた地から同じ月を同時に愛でていたことになります。

この例が示すように、夜空に浮かぶ月や星ぼしは遠く離れた大切な人や、自分自身の過去や未来との対話道具(コミュニケーション・ツール)の一つなのです。天文学は音楽や数学と並んで最も古い学問と呼ばれますが、天文学は古代人にとっての対話の道具でもありました。人と人が再会を約束するとき、季節や時刻や居場所を知ることが出来る天文学は、「人と人を繋いでいく=人間になる」上で、重要なツールだったのかもしれません。