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アストロバイオロジーの世紀 -「地球外生命体」発見への期待-

縣秀彦自然科学研究機構 国立天文台 准教授
太陽系と系外惑星ケプラー186 NASA Ames/SETI Inst./JPL

宇宙の中で、地球以外に生命の宿る星はあるのでしょうか。文明が発祥し天文学がスタートしてから数千年、天体望遠鏡が発明されてから400年、人工天体が地球の大気圏外や惑星を直接探査できる時代になってから50年を過ぎた現在でも、地球以外の星や宇宙空間ではバクテリアのような微生物でさえ見つかっていません。

しかし、天文学と宇宙探査技術が急激に進歩する今日、古代より人類がずっと追い求めていた地球外生命体発見の夢実現まで、あとわずかとも言われています。先日、NASAからの報道があったように、身近な太陽系において、火星、木星の衛星たち、そして土星の衛星などに、単細胞生物程度の生命が存在する可能性が残されています。一方、「知的生命体」が宇宙のどこかに存在するとしたら、太陽系外に広がる天の川銀河の恒星空間、すなわち、星座を形作る恒星を周る惑星や衛星だろうと考えられています。

1995年以降、恒星の周りをまわる太陽系外の惑星(系外惑星)が次々と発見されるようになり、その数は、現在1,900個を超えています。早い時期に発見された系外惑星の多くは、直径が地球の数倍以上もある木星のような巨大なガス惑星でした。しかし、検出技術が進むと、ハビタブルゾーンにある地球サイズの惑星まで見つかるようになりました。「ハビタブル」とは居住可能という意味であり、恒星からの距離がちょうどよく、水が液体のままその表面に存在できる領域を、天文学者たちはハビタブルゾーンと呼んでいます。

生命には液体の水(海)が必要ですが、惑星が恒星に近すぎると表面の水は蒸発してしまいますし、反対に恒星から遠い位置にあると、温度が低すぎて氷になってしまうのです。太陽系の場合、その範囲は0.8〜1.5天文単位程度(太陽と地球の距離を1天文単位と言い、その距離は約1億4,960万km)と言われ、地球は太陽系のハビタブルゾーンに存在しています。地球以外の天体に生命体が住んでいるとしたら、豊富な液体の水(海)と酸素やオゾンなどの大気に覆われている惑星が、まずは候補に挙がるでしょう。しかし、宇宙の中で生命が宿る星の条件は、実はまだよくわかっていません。私たち地球人は、唯一地球のみを生命が宿る星として認識していますので、その条件がよくわからないのです。

ハビタブルゾーンにある地球型惑星の候補たちと地球(右端)の比較 出典:NASA他
ハビタブルゾーンにある地球型惑星の候補たちと地球(右端)の比較 出典:NASA他

この、よくわかっていないことを追及しようとしているのが、「アストロバイオロジー(宇宙生物学)」と呼ばれる天文学と生物学他の複合研究分野です。いま、この分野の研究者たちは、「宇宙における生命の起源は?」「地球以外の場所で生命はどのように進化することが可能か?」「宇宙のどんなところであれば(どんなところにまで)生命は存在できるのか?」「将来、人類は他の生命を探し出すことができるのか?」、さらには「知的生命体と巡り合うことができるのか?」といったことを研究しています。

宇宙人を見つけ出すもっとも確実な方法は、太陽近傍の恒星を詳しく調べ、ハビタブルゾーンに存在する地球サイズの惑星を探し出し、その大気の温度や組成を調べることです。そのためには、次世代の大型望遠鏡や専用の宇宙望遠鏡が必要と考えられています。

大学共同利用機関法人 自然科学研究機構国立天文台は、現在ハワイ島マウナケア山にあるすばる望遠鏡のすぐ近くに、TMT(Thirty Meter Telescope;口径30メートル望遠鏡)という大きな望遠鏡を建設しています。日本、アメリカ、カナダ、中国、インドの国際協力による一大プロジェクトです。このTMTを使って系外惑星を直接観測し、地球外の生命が存在する(した)シグナルを見つけることが我々の大きな目標の一つです。

どこか遠くの系外惑星の大気のスペクトル(虹)をTMTで集めてみたら、そこに酸素が見つかる、窒素や二酸化炭素や水もある。もし、そんな惑星が見つかったら、生命がいる可能性があります。そこに向かって電波や光でメッセージを送ると、20光年先の星だったら往復40年で返事が返ってくるかもしれません。50光年だったら100年して返ってくるのです。人類はまだまだ長生きしないといけません。

次世代超大型望遠鏡計画TMT
次世代超大型望遠鏡計画TMT

私個人の楽観的な予想ですが、知的生命体と限らないのなら人類が21世紀中に生命が宿る星を見つけだす可能性は50%以上あるのではないでしょうか。私たちが生きているうちに、地球外生命体発見のニュースを聞くことができるかもしれません。そして、もし仮に、知的生命体が将来発見されるとしたなら、人類の価値観は大きく転換し、目先のことのみにとらわれる生き方を問い直すことになるでしょう。大げさな言い方ではありますが、「もう一つの地球」を発見できるかどうかは、私は人類の生き方を変える試金石のような気がしています。

筆者が勤める国立天文台は、現在、大学共同利用機関法人「自然科学研究機構」の一員です。岐阜県土岐市にある核融合科学研究所、愛知県岡崎市にある基礎生物学研究所、分子科学研究所、生理学研究所と一緒に5つの研究所が一つの組織を作り、幅広く科学的探究を進めています。現在の佐藤勝彦機構長は、2010年に機構長に就任して以来、一貫してアストロバイオロジー研究の発展とTMTの建設を推進してきました。そして、2015年4月、自然科学研究機構には、新しい研究組織として、「アストロバイオロジーセンター」が設置されました。「宇宙における生命」を科学的に探査し、その謎を解き明かそうとする「アストロバイオロジー」。その研究の中核となるよう自然科学研究機構のアストロバイオロジーセンターは、異分野融合によりこの分野を発展させ、太陽系外の惑星探査、太陽系内外の生命探査、それらの探査のための装置開発を推進しようとしています。

近い将来、今の時代は「地球外生命発見前夜」と呼ばれるのかもしれません。クリティカルに人類の生き方が大きく変わる可能性のある今だからこそ、人類が継続して持ち続けてきた地球外生命発見への期待、太陽系内の生命探査と太陽系外に存在するであろう「第2の地球」発見に向けての研究について最新情報をより多くの皆さんと共有していけたらと思います。

(本文は「地球外生命体 -宇宙と生命の謎に迫る-」、幻冬舎エデュケーション新書の内容を一部改変の上、引用しています。)

自然科学研究機構 国立天文台 准教授

1961年長野県大町市八坂生まれ(現在、信濃大町観光大使)。NHK高校講座、ラジオ深夜便にレギュラー出演中。宙ツーリズム推進協議会代表。国立天文台で国際天文学連合・国際普及室業務をを担当。専門は天文教育(教育学博士)。「科学を文化に」、「世界を元気に」を合言葉に世界中を飛び回っている。

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