高等学校「理科」の再編を望む -4分野の解体と教員の意識変革を-  

昨年は地球と宇宙に関する話題、すなわち地学現象に事欠かない一年であった。2月にはロシアに隕石が落下、夏場には豪雨と竜巻被害が相次ぎ、伊豆大島やフィリピンで甚大な台風被害、11月には海底火山活動で小笠原に新島が出現し、アイソン彗星消滅にも関心が集まった。さて、今年はどんなことが起こるのか。地球環境変化への不安が高まるとともに、その一方で宇宙への関心も高まっている。

ところが、世界有数の地震、火山、気象災害等の多発国である我が国における地学教育は極めて心もとない状況が続いている。教科理科は物理、化学、生物、地学の4分野あるが、全分野が必修だった1960年代を除き、地学の履修率はその後1割程度で推移してきた。これは、多くの高校における理科・数学のカリキュラムが、体育や芸術、家庭科などと異なり専門家育成を主眼としたもの、すなわち、理系大学への進学を強く意識した教育課程だったからに他ならない。入試科目で地学を課している大学学部は圧倒的に少ないからだ。さらに、理科に限らずどの教科においても高校で教えたい内容をすべて盛り込めるほどの時間数が、学校5日制下の3年間ではまったく足りないのも事実であろう。

一方、いま、高校では地学教員不足が問題になっている。これは元々、地学を開設しない高校が多く、高校生の地学履修率は近年1割にも満たなかったので、地学教員の採用がこの30年間ほとんど無かったところに、昨年度より始まった新学習指導要領下で、地学基礎という科目への履修希望が全国平均で3割近くにまで高まったからだ。

高校生の地学人気沸騰かと言えばそうではない。理由は、今回の指導要領のからくりにある。高校の理科科目は物理、化学、生物、地学の4分野あるが、今回の改定においては 物化生地それぞれで基礎科目(2単位)とその後の本格的な内容の4単位を並列する課程となった。高校生は2単位の新規科目「科学と人間生活」を加え、「科学と人間生活」+物化生地の基礎1科目の合計4単位を履修するか、基礎3科目のみの合計6単位かを選択必修する。ところが、「科学と人間生活」は、入試問題を作成することが困難という理由でセンター試験科目とならなかった。このため、「科学と人間生活」を開講する学校はごく少数で、結果として理科3科目を開設する学校が増えた。化学基礎と生物基礎をほとんどの高校生が履修し、物理基礎か地学基礎のどちらかを3つ目の科目として履修するのだ。結果として時間数が増えたと喜ぶ関係者もいるが、取り組むべき課題も多い。

教科書採択数の推移
教科書採択数の推移

このように理数教育の充実を掲げた2012年からの新学習指導要領下で、多くの高校が化学基礎と生物基礎を必修とし、物理基礎か地学基礎を選択必修するようになった。地学はそれまで1割以下だった履修率が突然3割近くにまで高まったため、地学を教えられる教員が不足しているという訳だ。学習指導要領はほぼ10年毎に見直されてきたが、次の改定時には地学の教員たちのほとんどが退職してもういない。この状況を考えると、高校理科の物化生地のカテゴリー分けの見直しを強く提案したい。

理科教育をめぐる本質的な課題は国民全員の科学技術リテラシーの育成と科学技術立国としての優秀な理工系人材の確保にある。すべての高校生にとって魅力的かつ必要不可欠な「サイエンス」とは何か?これを国民の科学技術リテラシーと呼ぶなら、物化生地の基礎内容を高校生全員が学べる必修理科共通科目の設置が望まれる。東日本大震災の教訓から、防災教育としての地学分野も放射線やエネルギーに関する物理分野も、生物や化学分野と同様に国民全員にとって必要不可欠な科学技術リテラシーであり、宇宙への関心が育む科学への夢や憧れも必須要素だ。

一方、大学の理工学部系が必要とする人材は一学年あたり20万人程度である。特に高校生の物理離れが顕著に進んだこの20年間を反省し、理工系に進もうという意欲ある科学好き生徒を鼓舞し、かつ若い研究者や技術者が陥りがちな蛸壺的な狭い視野にならないよう育てていくためにも、すべての分野の基礎を学ぶことが重要ではないだろうか。

いまこそ次期学習指導要領改訂に向けての検討、すなわち、物化生地という枠組みを外し、何を教えるのかではなく、どんな能力を身に付けてもらうのかという視点での内容の精選、中高一貫カリキュラムの検討、理科のみならず全教科やすべての学校行事を通じての科学技術リテラシー育成、そして何よりも受益者たる生徒・保護者、社会全体での本格的な議論がいま望まれている。

昨年末、文部科学省は学習指導要領を2016年に全面改定する方針を固めたようだ。全面実施されるのは東京オリンピックの年2020年。議論の終着点を見出すのに残された時間は少ない。