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コロナ禍、気候変動時代の「水問題」解決に向け、アジア・太平洋の首脳が「熊本宣言」採択

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
著者撮影

 アジア太平洋地域の首脳・閣僚級らが水問題を議論する国際会議「第4回アジア・太平洋水サミット」が4月23日に熊本市で開幕した。カンボジア、ブータン、ツバル、ラオス、ベトナム、ウズベキスタンの各国の首脳級ら約700人が参加。 

 開会式で天皇陛下は「サミットが大きな成果を上げ、水問題の解決と、水を通じた全世界の人々の幸福と平和に向けた大きな一歩となることを願う」と述べられ、岸田首相は「世界の水問題の解決に大きく踏み出す好機」とあいさつした。

 初日に行われた首脳級会合では、世界の水問題の解決に向けた決意を示す「熊本宣言」を採択した。

スピーチする岸田首相(著者撮影)
スピーチする岸田首相(著者撮影)

 宣言では、まず、新型コロナ禍、気候変動時代の水問題を分析している。

 そもそも水は地球上に偏って存在し、豊かな水資源を享受する地域、不足や汚染に苦しむ地域がある。さらに経済状況によってインフラの整備状況も異なる。ユニセフによると、2020年の段階で、世界人口の4人に1人が自宅で安全な飲料水を得ることができず、半数近くが安全に管理されたトイレを使用できていない。

 そこに地球の平均気温が上がる地球温暖化という要素が加わった。温暖化が進むと、蒸発する水の量、空気や地面にふくまれる水の量、雨や雪の降り方などが変わるという地球規模の気候変動につながる。干ばつのために農作物が作れなくなったり、人や生きものが住めなくなったりするケース、反対に洪水などの水災害によって命の危険にさらされるケースも増えた。干ばつや洪水は、水道やトイレ・下水道のない地域ほど被害は大きく、長期化する。

 さらに新型コロナのパンデミックによって水供給や災害対応に支障が生じ、また、水害や干ばつのために新型コロナへの対応ができなくなったという面もある。新型コロナの予防として「手洗い」が強調されたが、前述のように水道のない地域では、それもかなわない。

 こうしたことから「熊本宣言」では、「水の重要性を認識し、健全な水循環(インフラを含む)を回復させる必要がある」としている。

質の高い社会への変革

 解決の方向性として「質の高い社会への変革」を打ち出し、強靭性、持続可能性、包摂性(誰も取り残さない)の3点から以下のようにまとめられている。

「熊本宣言」から著者作成
「熊本宣言」から著者作成

 強靭性については、水関連災害に対し、流域全体(地下水の帯水層単位)で部門横断的に取り組みリスクを低減する。また、感染症に対する公衆衛生対策として、水の安全保障と水と衛生へのアクセスを改善する。

 持続可能性については、水を政治課題の中心に据える。気候変動の適応策や災害リスク軽減のための戦略を立て、インフラ整備を行うとともに、気候変動の緩和策として低炭素エネルギーを活用する。また、自然や生物多様性の保全と調和したカーボンニュートラルな社会の実現に向け、緩和と適応の効果が期待できるグリーンインフラを推進する。

 包摂性については、SDGs達成年である2030年を待たずに、すべての人が安全で安価な飲料水と衛生設備へアクセス可能にする。水と衛生サービスへのアクセスや災害リスクからの保護における不平等を是正する。

 さらに従来型のアプローチから脱却し、取り組みを加速するために、以下を行うとしている。

熊本宣言より筆者が作成
熊本宣言より筆者が作成

 ガバナンスの向上のためには、水に関わる多くの組織・市民社会が世代を超えた連携を図ること、河川流域が協調して成長するために好事例を共有する。資金ギャップを解消するためには、水への投資の重要性を共有する。また、科学技術による課題解決のためには、地域特性や発展段階に応じた技術の導入を行い、また次世代の水専門家の育成を図るなどとしている。

 今後、水問題は深刻化する懸念がある。国内でも豪雨災害は頻発化し、その一方で水インフラは老朽化している。まずは社会として「熊本宣言」を共有し、今後の暮らしと水について考える必要があるだろう。そして行動を起こさなくてはならない。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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