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南房総で水不足。コロナ禍の断水せまる。避けるための節水対策は?

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
(写真:アフロ)

 南房総市では、南房総市水道事業(市営水道)と三芳水道企業団の2つの事業体により水道水が供給されている。

市営水道:富山・白浜・千倉・丸山・和田地区

三芳水道企業団 :富浦・三芳地区

 このうち千倉・丸山・和田地区の水道水源である小向ダムの貯水量が減少(12月11日9時時点で貯水率31.0%)。今後、貯水率が20%切った場合、同地区の約3200世帯対象に断水を実施するとしている。小向ダムは、三原川水系にあり、総貯水容量950千m3、有効貯水容量750千m3の比較的小さなダムで、流域面積は11.3km2である。

「南房総市水道事業ビジョン」(平成29年度~平成38年度)より
「南房総市水道事業ビジョン」(平成29年度~平成38年度)より

小雨と水門工事の影響

 水不足の背景には小雨がある。南房総には高い山がなく、降った雨がすぐに海に流れ出してしまうため、もともと水不足になりやすい土地だ。該当する地域は、地形がとても複雑で、大きな川もない。そこに最近雨が降っていない。

 また、小向ダムは今年6月から、老朽化した水門の更新工事を始めた。工事の際、水位を下げる必要があったため、10月下旬に貯水率93.8%あったのを47.5%に下げて行った。

 水門の更新工事について「人災」の声もあるが、工事そのものは必要なものだった。ダムに設置されているゲート設備は、ダム貯留水の取水・放流、流量調節等を目的に設置さ

れ、洪水調節、流水の正常な機能維持、上水道、工業用水道、かんがい等の水補給、発電などの役割を担う。

 日本全国で見ても、これまで建設されてきたダム用ゲート設備等の半数以上が、建設後 30 年以上経過し、今後、老朽化への対応が課題となっている。小向ダムは1975年に竣工。45年が経過していた。

 そこに雨不足が重なった。例年であれば11月の平均降水量は183ミリ程度だが、今年は合計37ミリ(過去最小は2014年の79ミリ)。11月2日の20ミリ以降はまとまった降雨がない。そのため貯水率が回復しなかった。気象庁によると、今月中にダムの貯水率を回復するような降水量は予想されていない。

南房総市に隣接する館山アメダスのデータ(気象庁)を著者がグラフ化
南房総市に隣接する館山アメダスのデータ(気象庁)を著者がグラフ化

 全国的に気候変動の影響でダム管理は難しくなっている。今年は暖冬による雪不足(参考:Yahoo!ニュース「東京オリンピック、2回目も渇水の可能性。スキー場の営業休止は水不足のサイン」)、4月以降の小雨で夏場の水不足が懸念されていたが、6月後半からは反対に毎日雨が降り続き、7月は活発な梅雨前線の影響で、東・西日本を中心に各地で長期間にわたって大雨、そして8月に入ってからは再び小雨傾向になっている。

このままだと1月5日から断水に突入

 南房総市では、断水危機のため節水を呼びかけている。

 断水対策として、富山地区にある大谷ダムから和田地区の小向ダムまで給水車での水の移送、周辺河川から消防用ホースでの水の汲み上げを行っているが、全面的な解決手段ではない。

 雨が降らず、現状のペースで水を使用していくと、1月5日から断水となる見込み。浄水場の設備の関係で、減圧調整や時間給水制限ができないため、24時間の断水になる。断水はダムに水が溜まるまで続き、その間は、給水車による緊急給水となる。

まとまった雨が降るまで節水でしのぐ

 現時点では各世帯で節水し、なるべくダムの貯水量を減少させないことが一番効果がある。

 コロナ禍で手洗いの重要性が叫ばれているが、地元の小学校ではウエットティッシュで手を拭いている。食器は水洗いを避けるため使い捨てタイプに変える、掃除も使い捨ての雑巾を使用するなど行っている。

 家庭でできる具体的な節水方法をいくつか紹介する。

漏水の確認

 そもそも水道管から水漏れしているケースがある。家庭では水道メーターを確認する。家中の蛇口を閉め、水を使っていないのに、パイロットが回っていたら、どこかで漏水している。水道局に連絡して調査してもらう。

拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf
拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf

蛇口から出る水量を調整

 水量は水圧を調整するつまみ(止水栓)で増減させることができる。止水栓の形状は器具によって違う。調整は以下のように行う。

拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf
拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf

蛇口の開け閉め

 蛇口を普通程度に開けた場合、30秒間で6リットルが流れていく。たとえば、歯磨きを終えて、口をゆすいでいるときに、水を流しっぱなしにすると6リットルの水が無駄になる。コップに水をくんで蛇口を閉めると節水できる。

拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf
拙著「いつも節水ノート」より https://www.aqua-sphere.net/solution/10/sessuinote.pdf

台所での節水

 節水型ノズル、節水型の蛇口などを使用すると使用量を大幅に削減できる。節水型ノズルのなかには最大95%の節水を実現し、使用感は変わらないものがある。市はこうした節水器具を各世帯に配布するとよいだろう。水を出しっぱなしにせず野菜や食器を「ため洗い」するのも効果的。

風呂での節水

 風呂桶いっぱいにお湯をはると200リットル。半分の水位なら100リットル。4分の1なら50リットルとなる。なるべく少量のお湯で風呂に入り、体や髪を洗う際に風呂のお湯でまかない、足し湯もしなければ節水になる。シャワーは1分間に10リットルのお湯が出る。なるべく短時間ですます、こまめに止めることで節水できる。節水型シャワーヘッドの使用も効果がある。環境省によると、一般的な節水シャワーヘッドの節水効果は35%、手元スイッチ式だと48%の節水効果があるとされる。

トイレでの節水

 トイレは原則として1回だけ流す。古いトイレの場合、「大」と「小」で5リットル程度の水量が違う(節水型トイレは2リットル程度)ので、きちんと大小の使い分けを行う。

風呂の残り湯をトイレに使う

 トイレのタンクに合った量のバケツを用意し、そこに風呂の残り湯を移して使用する。トイレの止水栓を閉めておけば、流した後にタンクに給水されない。タンクに移すのが面倒な場合は、小を流すときバケツの水を使用する。

風呂の残り湯を洗濯に使う

 残り湯は「洗い」のみで使し、「すすぎ」は水道水で行う。温かい状態の残り湯を使えば、冷たい水より汚れは落ちやすい。残り湯の雑菌が気になる人は、入り方を工夫すれば、湯に雑菌が入りにくくなる。タオルを湯につけない、フタを閉めておく、お湯に浮いた髪の毛やゴミは取り除く、体を洗ってからお湯に入る、など。

風呂の残り湯を緊急時の飲み水にする

 NPO法人雨水市民の会(東京都墨田区)の「災害時の飲み水を考えるプロジェクトチーム」は、風呂の残り湯を緊急時の飲み水にする「パーソナル浄水場」を開発した。それについてはYahoo!ニュース「風呂の残り水を災害時の飲み水にする「パーソナル浄水場」の実力」で紹介しているので参照して欲しい。

新型コロナ禍の断水は危険

 新型コロナ禍で手洗いの重要性が指摘されるなかで、断水は非常に危険だ。仮に断水したとすれば医療機関などへの影響が心配である。

 観光などより新型コロナの感染拡大防止、地元の人の健康を優先すべきだ。車で房総へ行ってサーフィンだけして帰ってくるなら問題ないと考える人はいるかもしれないが、仮に行くなら地元の水を使用せず(シャワーが止まるかもしれない)、持参すべきだ。

追記:2020年12月14日

「南房総市小向ダムの渇水に係る千葉県の対応について」

小向ダムからの取水量を抑制し、断水を極力回避するため、本日、千葉県水道災害相互応援協定に基づく正式な要請を南房総市から受け、遅くとも12月21日までに、断水が見込まれる地域の水道使用量の多い施設へ、県内水道事業体の応援給水車を事前に派遣し、応援給水を開始する。

各家庭への応急配布用に、災害に備え県で備蓄している4万8千本の飲料水(500mlペットボトル)、及び、県企業局で備蓄している1万本の飲料水(同)を南房総市へ無償提供。

追記:2020年12月25日

小向ダムの貯水率と今後の貯水率の見込み

小向ダムの現在の貯水率 30.1%(12月25日 9時時点)

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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