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1日3リットルの水を飲み、300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べる日本人

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
いらすとやのイラストを著者が構成

カレーライス1つで風呂桶3杯超の水を食べる

 10月は「世界食料デー」月間、10月16日は「世界食料デー」だ。毎日食べているご飯のもとである米、パンの原料となる小麦を育てるときに必要なのが水。食べものはいわば「見えない水」のかたまりだ。

 たとえば、食パン1斤を作るには、その小麦粉300グラムを使う。小麦粉300グラムを作るには、630リットルの水が必要となる。肉の場合は、もっと大量の水が必要だ。鶏や豚や牛は水を飲むし、さらに、水を使って育てた穀物を餌にしているからだ。家畜が育つまでに使った水を計算すると、豚肉100グラム当たり590リットル、牛肉100グラム当たり2060リットルになる。

 冒頭のイラストを見て欲しい。ある人が、朝食にホットドッグ、昼食にカレーライス、夕食にステーキを食べたとしよう。その主な食材をつくるのにかかる水を仮想水計算機(バーチャルウォーター量自動計算)で計算すると以下のようになる。

いらすとやのイラストを著者が構成
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いらすとやのイラストを著者が構成
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 合計すると、5575リットルの水を「食べた」ことになる。

 この場合、牛肉を食べたことが「食べた水」の量を増やしているが、平均すると、私たちは1日に3000リットルの水を食べている。

 私たちは1日3リットルの水を飲み、風呂、トイレ、炊事などの生活用水として300リットルの水を使い、3000リットルの水を食べている。

世界的な水不足で食糧危機に

 食べ物を作るには、たくさんの水が必要で、実際、地球にある利用可能な淡水のうち、70%が農業に使われている。

 日本は世界最大の農作物純輸入国だ。日本の食料自給率(カロリーベース)は40%前後である。輸入している食品を作るのに必要な水を計算してみると、年間627億トンになる。これは、日本人が1日1人当たり1.4トンの水を輸入していることになる。日本には国際河川(2か国以上を流れる河川)がないから上流・下流の水紛争がないと言われるが、食料という目で見ると、私たちの食卓には太くて長い国際河川が流れていることになる。

 一方で、日本の主な輸入相手国では、水不足になっている。

 シンクタンクの経済平和研究所(IEP)が環境問題についてまとめた報告書によると、人口の急増や食料・水不足、自然災害などにより、2050年までに世界で10億人以上が避難民になるとみられている。

 世界の人口は2050年までに100億人近くに増える見通し。これに伴い、資源を巡る争いが激化し、紛争が起きる結果、サハラ以南のアフリカ、中央アジア、中東で2050年までに最大12億人が移住を迫られる可能性があるという。

 食料生産を妨げる理由には3つある。1つ目が水不足、2つ目が土壌侵食、3つ目が気候変動だ。

 1つ目だが、全世界で使われる淡水のうち3分の1は農業用水だ。水の需要は年々増加傾向にあり、過剰なくみ上げによる地下水の枯渇や灌漑用水の不足によって、穀物生産にも深刻な影響が出ている。穀物の大生産地であるアメリカ、中国、インドでは地下水を際限なくくみ上げて生産を行ってきた。そのために地下水位の低下、枯渇という問題が起きている。

 2つ目が、森林破壊にともなう土壌侵食。焼き畑農業、農地への転用、木材伐採などで、森林なかでも熱帯林は、毎年相当な面積が消えている。こうして森林の保水力が弱まると洪水が発生しやすくなり、土壌が流出するので、作物生産ができなくなる。

 3つ目が、気候変動だ。気温が上がり作物の生産に適さなくなる。気候変動は水の循環も変える。気温が上がれば循環のスピードが早くなり、水の偏在(多いところと少ないところに偏りがあること)に拍車をかける。すなわち穀物不足の1番目の理由である水不足、2番目の理由である洪水による土壌侵食が起きやすくなる。

1人当たり1日2.3トンの水を食べ残す

 私達の食生活は海外からの畜産物、農作物に頼っており、結果的に、海外の水資源を利用している。こうしたことから自国の水を使い、食料自給率を上げるべきという声は多い。実際、日本では、2025年度までに、食料自給率(カロリーベース)を45%に上げることを目標としている。

 新型コロナの流行にともない、食糧輸出国は、国内の食料安全保障を優先に輸出を規制しはじめた。今後は前述した水不足、食料不足によってそうした傾向は強まっていくだろう。

 そこで日本の農業を強くしていく。その際、生産性と効率性を重視した大規模化中心の政策ではなく、中小農家や条件不利地域農家の経営を支援する必要がある。

 その際、水が必要になる。日本は水が豊かと考えられがちだが、雨の降る時期が限定的であったり、国土が急峻であるため、水が貯めにくい。温暖化の影響で、今年の冬は雪不足であり、田んぼに水が張れない地域が出ると考えられている。また、農業生産につかわれる農薬や肥料は水を汚す。廃棄物を処理するにも大量の水が必要だ。

 だから水を保全しながら活用する、汚さないように使うことは大切だ。

 もう1つ大切なことは、日本は食料を世界中から買い集めている一方で、世界一の残飯大国でもある。捨てられる食べ物は、供給量の3分の1にのぼる。日本の食品廃棄物の発生量は、年間2842万トン。仮に、捨てられたものがご飯だとすると、それを生産するのに使われる水の量は、年間1051億5400万トンになる(肉であればもっと多くなる)。1人当たり1日2.3トンの水を捨てているのと同じだ。

 食べ切れる分だけ買い、食べ切れる分だけ作り、食べきれば無駄にはならない。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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