水道水から新型コロナ検出? 東日本大震災の宿題「消費行動」

ペットボトル水(著者撮影)

消えたペットボトル水

 東日本大震災から9年経過するが、数多くの宿題が山積している。10年目を迎え、私たちは、夏休みの終盤のように宿題にとりくまなくてはならない。

 その1つが消費行動の改善ではないか。

 コロナウイルスによるマスクやトイレットペーパーの買い占めと価格の高騰は周知の通りだ。

 水道水から新型コロナが検出されたなどのニセ情報もあった。

 群馬県高崎市内で「新型コロナウイルスが水道管に付着している。殺すには金がかかる」という不審な電話があった。警察は「口座情報や暗証番号、個人情報を開示しないよう」呼びかけた。

 だが、コロナウイルスが水道管に付着することは考えにくい。万一水道管内に侵入したとしても、水道水は塩素殺菌されており、ウイルスは死滅する。これは恐怖を煽りさまざまな「万能薬」を法外な値段で販売する詐欺商法だ。

 消費者庁は3月10日、新型コロナウイルス感染症の予防効果をうたう健康食品などがインターネット上で増え、大半の商品は表示の根拠が乏しいとして注意を呼び掛けた。タンポポ茶や、身に着けるだけでウイルスを除去するとうたった「空間除菌剤」など。同庁は販売業者に表示の改善を、サイトの運営企業に出品削除などの対応を、それぞれ要請した。

 基本的な科学的知識、少しの冷静さがあれば起きないようなことが平気で起きている。

 だが、こうした消費行動にはデジャブ感がある。東日本大震災のときの私たちに酷似しているからだ。

 東日本大震災直後、浄水場から放射性物質が検出され、乳児の水道水摂取を控える呼びかけがあると、それまでも被災地に重点的に配送されて品薄だったペットボトル水が完全にスーパーやコンビニから消えた。店の在庫はすぐに消え、翌日から入荷ゼロになった。

 農林水産省は飲料メーカーに対し、生産・供給の拡大を求めた。

 南アルプスのふもと、山梨県北杜市白州町には大手飲料メーカーの工場が並ぶ。折からの節電で薄暗い工場のなかベルトコンベアの音が低く響く。その上を2リットルのペットボトル水が絶え間なく、次から次へと流れていく。製造現場は休日返上、24時間態勢で稼働していた、サントリーの奥大山、南アルプス、阿蘇の3工場を合わせた3月の出荷量は、前年同期比の1・6倍。それでも供給は追いつかなかった。

 理由の1つは意外なことにキャップ不足だった。震災でペットボトル用の樹脂製キャップのメーカーが被災し、供給量が減ったことが、供給不足につながった。

 スーパーからペットボトル水が消え、買えてもひとり1本に制限された。通販サイトでもペットボトル水は売り切れた。

 すると売り手に変化が起きた。これまで見かけなかったペットボトル水会社がテレビCMを打つ。商機と見て勝負に出た。オークションサイトでは、西日本や九州の人が自宅の水道水や井戸水を出品し、10リットル200円程度で買い手がついた。東京都の水道料金は10リットル約2・5円だから、単純な比較ではあるが、80倍の価格で取引されたことになる。

 高額なペットボトル水もスーパーの棚に並んだ。通常100円程度のものが500~1200円に高騰したが、それでも売れた。

 これが「水が市場にのる」ということだ。水が不足すると需給バランスが崩れ、水価格が上昇するのだ。

弱みにつけこむ水商売

 震災や放射能汚染への不安に便乗した悪徳商法も現れた。

 国民生活センターへの相談が事故発生から2か月余りで1400件を突破した。その内訳は、不必要な住宅リフォーム工事の高額契約、電力工事を装った電気修理の高額請求、災害義援金の募集を装った詐欺、放射性物質の除去をうたった浄水器の高額販売などである。

 悪質な浄水器販売業者は、「100%放射性物質が取り除ける」などと不安を逆手に取った売り文句で近づいてきた。

 販売の特徴は「科学用語らしいもの」を使うことだ。商品の性能を論理的に説明しているように感じられるが、用語の使い方が間違っていたり、論理的に飛躍や矛盾があり、落ち着いて考えてみると意味の通らない解説になっている。

 「このまま水道水を使っていたら赤ちゃんがガンになってしまう」などと不安を煽ったり、「人気商品だからいま決めないともう買えない」などと焦らせるので、落ち着いて聞くのは難しいかもしれない。

 それでも、いったん待ってもらい、信頼できる人に相談するほうがいい。もしその商品がきちんとしたものであれば、売り切れになってもまたつくられるので、必ず買える。

 放射性物質の危険性をネット上で繰り返し叫んでいた人物が、じつは浄水器を販売していたケースもあった。その業者は訪問時に何食わぬ顔で自分たちのつかった放射性物質に関するネット記事を見せた。彼らにとっては放射性物質の危険性が認知されることは商売の追い風になった。

お年寄りをカモにする点検商法

 浄水器の点検を装って家に上がり込み、商品を不当に高い値段で売りつける「点検商法」はお年寄りをターゲットにしていた。被害にあったにもかかわらず、そのことに気づかない人もいた。

 業者は以前に訪問販売で購入した人のリストを元にアクセスしてくる。そして「前に浄水器を売った業者の営業所が閉鎖されたので代わりに点検にうかがいます」などと嘘をついて訪問する。浄水器を点検したあとに、「ひどく汚れているし、カートリッジの型が古く、すでに製造中止になっている」「放射性物質がたまっていてこのまま使い続けると病気になる」などと不安を煽り、高額で新しい浄水器を売りつける。

 さらには飲料水業者を装って、架空の未公開株や社債を売りつける悪徳商法の被害もあった。水源地を所有する会社の社長を名乗る男が「震災で水が不足しているので高配当が得られる」と勧誘するケース、「安全な水の需要が高まっている」と社債の購入をすすめるケースがあり、数多くの被害者が出た。

 水は飲まなくて生きていけない。その水がなくなったり、汚れたりしたのだから、慌てるのも無理はない。

 だが、そこに商機を見出す悪質な業者がいるということを頭に入れておくべきだ。

 東日本大震災の事例から学ぶことは多い。放射能を新型コロナに置き換えれば、そのまま当てはまるケースもある。

 基礎的な科学知識、落ち着いた行動、信頼できる第三者への相談、こうしたことで消費行動を改善していくとよい。