「油を台所から流さない」49.9%と3000匹の魚大量死は関係あるか

隅田川(著者撮影)

コノシロやコイなど約3000匹の魚が大量死

 7月8日、隅田川の水神大橋(墨田区-荒川区)と永代橋(中央区-江東区)の区間で、コノシロやコイなど約3000匹の魚が大量に死んだ。東京都環境局は、水中の溶存酸素量が通常の値の半分以下だったと発表している。

 '''東京都発表「隅田川における魚のへい死について」'''(2019年7月8日)

 貧酸素は隅田川、荒川の河口付近だけでなく東京湾でも進んでいる。生物の生息に悪影響を及ぼしており、「東京湾最大の環境問題」と言われる。

 水中の酸素量が減る現象は、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生する。生活排水、工業排水、農業排水、水温、川底のヘドロの状況など、原因の究明は容易ではないが、ここでは私たちの生活との関係を考えてみる。

水に流す日本人

 「水に流す」という言葉がある。トラブルが起きても、それをなかったことにするという意味合いで使われる。日本人は精神的な汚れも、物理的な汚れも、水が清めてくれると考えていた。「禊」という言葉は、「水そそぎ」、「身をそそぐ」からできたと言われる。

<このニュースの関連動画「水にながす」という考えが生まれた理由?

 なぜ、そのような考え方が生まれたかというと、日本の河川の特徴と関係があるのではないか。

「日本と世界の河川比較」(国土交通省)
「日本と世界の河川比較」(国土交通省)

 図は、縦軸に標高、横軸は河口からの距離を表す。こうして見ると日本の川は河口から海までの距離が短く、高いところから低いところへ一気に流れていく。急流は雨などで濁っても数日たつと濁りは目の前から去っていく。かりにゴミを捨てたとしても、目のまえからすぐに消えてしまう。

 古来、川は水を得る場所であり、ゴミ捨て場でもあった。

 平城京の場合は佐保川がゴミや生活排水を分解する役割も果たしていた。人口が増え、排水やゴミの量が増えると佐保川の浄化能力を超えてしまった。これによってまちが不衛生になり、疫病が発生した。これが遷都の一因になったという説もある。一方、平安京の東側には鴨川、西側には桂川が流れている。いずれもかなりの水量をもち、流れも早かったので、人口が増えても長らく、水源とゴミ捨て場の役目を果たした。

 江戸の夏の風物は水売りだった。隅田川の水を桶にくみ、まわりに杉の葉を立て小さな氷を浮かべ、「ひや~みず~」と声をかける。値段はドンブリ1杯1文。いまのお金で20円弱。ドンブリ1杯はだいたい600mlくらいだから、2リットルのペットボトルがあったとしたら66円。川からくんだだけの水に、これだけの値がついた。隅田川は江戸のゴミ捨て場でもあったからだ。飲むとおなかをこわすこともあり、年寄りはこの水を飲まないよう家族から注意された。それが「年寄りの冷や水」という言葉のはじまりだという説がある。

「油を流しから流さない」人は49.9%

 ミツカン水の文化センターは、東京圏、大阪圏、中京圏の1500人を対象に「水にかかわる生活意識調査」を行った。そのなかに「家庭で行っている下水道への環境配慮」について尋ねている。

ミツカン水の文化センター「水にかかわる生活意識調査」(2017年)より
ミツカン水の文化センター「水にかかわる生活意識調査」(2017年)より

 その結果、1995年~2009年までの平均値に比べ、2017年の環境配慮が大きく低下していることがわかった。なかでも「油を流しから流さない」人は49.9%であり、約半数の人が多かれ少なかれ油を排水口から流している可能性がある。

 川の汚染が下火になったり、暗渠化されたり、下水道が整備されるなど、生活排水についてあまり意識しないようになっているのかもしれない。ディスポーザーが普及し、ある程度は流しても大丈夫という安心感もあるのだろうか。東京都内の大学生に聞き取り調査を行うと、10年前に比べ、「下水道への環境配慮」について啓発広告などを目にしなくなったという声もあった。

大学生へのヒアリング(著者実施)
大学生へのヒアリング(著者実施)

 なかには「油を流すことがなぜいけないのか」という大学生もいた。

 まず、一度水に油が入ると、もとの水に戻すのは難しい。

『明日の水は大丈夫?』(橋本淳司)より
『明日の水は大丈夫?』(橋本淳司)より

 排水口に流された油は、冷えると固まって排水管の内側に付着し、パイプ詰まりの原因になる。その処理には税金が投入される。オイルボールといった浮遊物となり腐敗して悪臭を発生することもある。

 近年の大雨による増水などによって下水処理されないうちに川や海に流れ込むこともある。分解しきれない油が時間の経過とともに酸化され、水中の酸素を消費し、生物などに影響を及ぼす。冒頭の隅田川の魚の大量死とも関係する。

なぜ油を流してはいけないか(著者作成)
なぜ油を流してはいけないか(著者作成)

 では、使い終わった油はどう処理したらよいか。まとめてみた。

 少量であれば、古新聞紙や油吸収パットにさました油をしみこませ、生ゴミと一緒に捨てる。

 牛乳パックなどの空箱に吸油性のよい紙をつめ、さました油を入れ、粘着テープ等で口を止め、生ゴミと一緒に捨てる。

 ディーゼルエンジンの車両燃料にしたり、せっけんの原料にできるので、地域によっては廃食用油を引き取ってくれる。

 こうすることで、まちの資産である下水道設備を長く使えるし、まちの水環境を保全できる。

 精神の安定を保つのに「水に流す」は有効な手段かもしれない。だが、物理的には水に流せるものと流せないものがある。とりわけ自然の力で分解しにくいものは流すべきではない。排水口は海への入り口である。