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G20で「水素水」提供。外務省の「意図」が伝わらなかった理由

橋本淳司水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表
イメージ(フリー素材)

本当は持続可能な社会をアピールしたかったのだが

 外務省がG20で「水素水」を提供したことが話題になっている。外務省はペットボトルではない方法で水を提供することで、日本が持続可能な社会づくりに取り組んでいることをアピールしたかったようだ。

 ペットボトル水は、容器製造、運送などの過程で大量のエネルギーを使う。日本で使用されたボトルは主に海外で処理されていたが、近年は輸入規制する国が増え、行き場を失っている。

 プラスチックは自然界では分解しない。細かな粒子であるマイクロプラスチックは化学物質を吸着しやすく、生態系への影響などが懸念される。世界各地で使い捨てプラスチックの削減の取り組みが進み、ペットボトルはトップターゲットアイテムの1つだ。

 そこで外務省はペットボトルを避けたのだが、提供したのが「水素水」だったため、「提供方法」より「中身」が注目されてしまい、肝心のメッセージは(とくに国内には)伝わりにくくなった。

 もっと提供方法を工夫すればよかった。

 カンや紙パックのほうが環境負荷は少ない。

 さらに言えば、日本は蛇口から出る水道水が飲める世界でも数少ない国だ。

 会場内に蛇口直結式の仮設給水機を設置し、参加者に名前入りのコップや水筒を渡す。そのうえで、必要な人が、必要な分だけ水を汲むというスタイルでもよかったのではないか。

仮設給水機の例(撮影/著者)
仮設給水機の例(撮影/著者)

水素水に水素は含まれているのか

 水素水の「中身」に注目が集まったのには理由がある。この水には以前より賛否両論あった。

 抗酸化作用を持つとされる水素水には、アンチエイジング効果、ダイエット効果、便秘解消、アレルギー改善、疲労回復などの効果があると宣伝された。

 しかしながら、2016年3月、大槻義彦早稲田大学名誉教授は「『水素水』を笑う」と題した自身のブログ記事のなかで以下のように解説している。

・水素水の効能(ガン予防やアンチエイジング効果など)について、科学的・医学的な結論や結果は出ていない。

・水に溶け込んだ水素はすぐさま水から出てしまう上に、うまくペットボトルに入れられた場合でも、蓋を開けたとたんに出てしまう。水に溶けた水素を摂取することはほぼ不可能。

 同年12月には、国民生活センターが、容器入り水素水と生成器について商品テストを行っている。(国民生活センター「容器入り及び生成器で作る、飲む「水素水」-「水素水」には公的な定義等はなく、溶存水素濃度はー様々ですー」/2016年12月15日公表)

 このテストでは、「容器入り水素水」(10商品)、「水素水生成器」(9商品)について、商品に表示されている水素量(表示値)と水素濃度の測定値(測定値)の比較をしたり、パッケージや取り扱い説明書の表現について調査を行った。

 その結果、「容器入り水素水」10商品中、「測定値が表示値の範囲内」は3商品、「表示値より低い」は4商品、「水素が検出されず」は3商品だった。

 また、「水素水生成器」9商品中、説明書に溶存水素濃度について記載されていたのは5商品。そのうちの「測定値が表示値の範囲内」は2商品、「表示値より低い」は3商品だった。さらに、水素水生成器でつくった水をコップに移し室温(約20℃)で放置した場合、生成直後の溶存水素濃度を100%とすると、1時間後には50~60%程度に低下したこともわかった。

効能効果等に関する表示、広告は適切か

 また、国民生活センターは水素水の「効能効果等に関する表示、広告」について調査を行った。

 その結果、販売会社のWEBサイトなどに、水素や水素水に期待されている効能効果に関する記載があったのは、容器入りは10商品中8商品、生成器は9商品中7商品。「様々な病気の原因といわれる悪玉活性酸素を無害化する、など健康保持増進効果等と受け取れる記載があり、医薬品医療機器等法や健康増進法や景品表示法に抵触するおそれがある」としている。

 これに対して、業者から「公定の基準や測定法が存在しない」「一方的な試験法のみで判断された」などの反論が寄せられた(国民生活センターWEBサイトに記載あり)。

 多くの人が興味があるのは、水素水が体にいいかどうかという点だろう。

 だが、結論は簡単ではない。

 水素水が注目を集めることになったきっかけは、日本医科大の太田成男教授の研究チームが「水素が有害な活性酸素を効率よく除去する」という内容の論文を発表したこととされる。研究対象は「水素」であって「水素水」ではない。

 水素水そのものと健康に関する研究もさまざま行われている。たとえば、「水素水を飲むことによって運動後に乳酸の上昇が抑制され、筋肉疲労が低下」(筑波大学のスポーツ科学の論文)、「日常的な疲労が改善した」(大阪市立大学と理化学研究所のデータ)などだ。ただ、「科学的・医学的な結論や結果は出ていない」と見る研究者も多い。

話題だけを利用した悪徳商法も

 水素や水素水についての研究が行われる一方で、水素水として売られていても水素を含まない水素含有量が表示値よりも少ない商品もあり、広告や説明が不適切な場合もある。

 気をつけなくてはならないのは、話題だけを利用した悪徳商法だ。

 消費者生活センターには、水素水や水素水生成器などについて2016年度に872件の相談があった。なかには「がんが治る」と勧められて200万円以上の生成器を購入したものの効果が得られなかったケース、マルチ商法に巻き込まれたケース、投資詐欺に巻き込まれるケースもある。

 2017年には、首都圏を中心に展開するスーパーマーケットで食品部長ら3人が医薬品医療機器等法違反の疑いで書類送検された。水素水の広告に「悪玉活性酸素を体外へ排出」と書かれていたためだ。医薬品の承認を受けていない水素水を医薬品的な効果があるとうたうのは法律違反になる。食品部長は「こういう広告をやってはいけないことは知っていた。商品名と値段を表示しただけでは売上が伸ばせないと思った」と容疑を認めた。

 最終的には価格や販売方法なども考慮に入れながら、自分の判断で商品を選ぶことになるだろう。

 前述の国民生活センターの調査の際、センターが事業者に対し、「水素水の飲用により期待できる効果」をアンケート調査すると、「水分補給」が最も多い回答だった(17社中11社)。ダイエット効果は2社、疲労回復は2社に止まっている。

 「水分補給」であれば、水道水でも十分だ。繰り返しになるが、G20の会場内に蛇口直結式の仮設給水機を設置し、必要な人が必要な分だけ汲むというスタイルで水を提供したほうが、日本の安全な水道水とサステナブルな取り組みを内外にPRできただろう。

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表

水問題やその解決方法を調査し、情報発信を行う。また、学校、自治体、企業などと連携し、水をテーマにした探究的な学びを行う。社会課題の解決に貢献した書き手として「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」受賞。現在、武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹、NPO法人地域水道支援センター理事。著書に『水辺のワンダー〜世界を歩いて未来を考えた』(文研出版)、『水道民営化で水はどうなる』(岩波書店)、『67億人の水』(日本経済新聞出版社)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)、『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)などがある。

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