水道民営化法案審議直前に英国PFI終了宣言

ロンドンでの工事中(著者撮影)

まもなく参議院で「水道法改正」審議

 第197回国会(臨時会)がスタートし、まもなく参議院において「水道法改正」の審議が行われる予定だ。

 この法案の中に、「コンセッション」という手法で、水道事業を民営化可能にする条項が盛り込まれている。

 この法案はすでに今年7月、第196回国会において「わずか7時間の審議」で衆議院を通過しており、今月参議院で可決されると日本でも水道民営化が可能となる。

 国は公共事業を民間にまかせるPFIを進めてきた。PFI(Private Finance Initiative)とは、民間の資金、経営能力、技術を活用して公共事業の建設・維持管理・運営を行うことで、「コンセッション方式」もその一形態である。

 コンセッション方式は、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などにおいて、施設の所有権を発注者である公的機関に残したまま、運営権を民間事業者に売却するというもの。

 第196回国会においては、改定PFI法も成立し、政府は公から民の流れを加速させた。とりわけ上下水道事業は、導入インセンティブとして「補償金免除繰り上げ償還」が認められた。簡単に言えば、借金が返しやすくなった。こうしたことから上下水道事業の運営権売却を考える首長も多い。

 ところが、PFIの本家である英国が、10月29日に「今後新規のPFI事業は行わない」と宣言した(進捗中のものは継続)。

新規のPFIを中止する文書
新規のPFIを中止する文書

 フィリップ・ハモンド財務大臣は、「官民パートナーシップを廃止する。金銭的メリットに乏しく、柔軟性がなく、過度に複雑」と述べた。

PFIのマイナス部分が現れた英国

 そもそもPFIはどのように生まれたか。

 かつてマーガレット・サッチャーは、経済の復活と「小さな政府」の実現を公約して保守党を勝利に導き、首相に就任した。

 市場原理と企業家精神を重視し、政府の経済的介入を抑制。

 1980年代後半から公益事業を次々に民営化し、公共部門への民間参入を拡張。電話、ガス、空港、航空、水道などを民営化した。

 PFIはその延長で「完全民営化に準ずる施作」としてジョン・メジャーの保守政権によって開発され、その後、英国の旗振りの元、世界各地で採用されるようになった。

 1990年代後半から2000年代にかけては、労働党政権がPFIを推進。

 財政が逼迫するなか、老朽化したインフラを短期間に整備するためにPFIに頼った。借金が自治体の財政に表れることのないPFIの導入圧力は強かったのである。まさに日本の現状と非常に似ている。

 今年1月、英国会計検査院はPFI(その改訂版であるPF2を含む)の「対費用効果と正当性」の調査報告を行った。

 PFIについては導入前から以下のように分析されていた。

自治体と民間との契約期間が長い(20年程度)

 *メリット →自治体の財政負担が軽くなり、民間の経営は安定する

 *デメリット→競争原理が働かず公共サービスの質が低下する

       →変化に対して柔軟に対応できない

1つの事業者への包括的性能発注を行う

 *メリット →民間の技術やノウハウを活用することで業務改善が進む

 *デメリット→性能発注であるため業務プロセスがわかりにくく、価格上昇やサービス低下が起きても原因がわかりにくい

       →業務の委託先がコンソーシアム参加企業であることが多いために、個別業務間の責任の所在とお金の流れが不明確になる

自治体と民間とのリスク分担

 *メリット →民間のノウハウでリスク管理が徹底される

 *デメリット→民間がリスクを負担できない場合、サービスの途絶・質の低下が起きる

民間による資金調達

 *メリット →自治体は支出、借金が減少し、サービス対価を長期間にわたって分割払いするため財政負担が平準化される

 *デメリット→民間が途中で破綻した場合、自治体の負担が増加する

 もちろんこれらは一般論であって、個別の事業について費用対効果を分析する必要があったわけだが、英国会計監査院が検証した結果、前述したデメリットが多く表れていることがわかり、「多くのPFIプロジェクトは、通常の公共入札のプロジェクトより40%割高」「25年経験したが、公的財政に恩恵をもたらすというデータは不足」とまとめている。

 英国下院、公的会計委員会議長メグ・ヒラ-氏は、

「民間の負債を相殺するだけの恩恵がないことを25年間のPFIの経験は示した。今多くの自治体は変更に膨大な費用がかかり、柔軟性のないPFI契約につながれた状態」

 と述べた。

 有力経済紙『Financial Times(フィナンシャル・タイムス)』は、「英国会計検査院がPFIによって数十億ポンドもの損失が生じていることを暴露」(2018年1月18日)において同報告書について、「会計検査院によれば、英国は、そのインフラの多くを建設するために用いたPFIによる不明瞭な便益のために、数十億ポンドもの超過コストを負担させられている」と報じた。

 プロジェクトファイナンスの手法を用いるPFIにおいては、株主配当や役員報酬、公債よりも高い資金調達コストなどが、施設・サービスの利用料金や委託料を上昇させた。その一方、期待されていた事業リスクの移転、事業効率の向上などは実現しなかった。

 たとえば、ロンドンの鉄道事業を請け負った民間企業は多額の負債を抱えたまま倒産し、借金は自治体のものとなった。

 マンチェスターでは、ごみ処理事業のPFIが失敗し、市がSPV(特定目的会社)の支配権を1ポンドで譲り受け、公債発行によりSPVの債務をリファイナンスし、事業を再公営化した。

 さらに今年1月には、PFI事業を多く請け負っていたカリリオン社が、進行中の公共サービス提供の契約を残したまま経営破綻した。財務の安定性を度外視した投資と、過剰な配当金、役員報酬がその原因とされている。

 英国では「PFIというしくみ」の不透明性が最大の問題と考えられ、それが今回の終了宣言につながっている。

 「小さな政府」政策は転換点を迎えたという見方も出ている。

経済成長のために公共事業を売る

 話を日本に移そう。

 コンセッションは、基本的には、公共サービスを民営化するという規制緩和策、経済政策である。公共事業を民間にシフトさせることで、民間が儲け、見かけのGDPを増加させる。

 実際、竹中平蔵・東洋大学教授は、「水道事業のコンセッションを実現できれば、企業の成長戦略と資産市場の活性化の双方に大きく貢献する」などと発言してきた。

 水道事業へのコンセッション導入は「官から民へ」という政府目標として14~16年度に6自治体程度で具体化を目指したが、実際にはゼロ。

 そこで今回、水道法改正案に導入を後押しする条項が加えられた。

 コンセッションの問題点は前述の通りだが、付け加えて言えば、水道法改定においては、コンセッションの導入を急ぐあまり、コンセッションの負の部分に対する予防策も考えられていない。

 たとえば、フランスでは契約の履行管理のためのモニタリングを自治体が責任をもって行うことが重要であるという観点からKPI(Key Performance Indicator)を定めている。

 また、労働者保護の観点から、すべての官の職員の受け入れを民間が提案することで雇用が確保されることになっている。

 さらに自治体がコンセッションを検討するにあたり、公共サービスの経営や民間委託に関する契約のチェック等、法務・財務・技術の多方面から自治体のアドバイザリー業務を専門とするコンサルタント会社の存在がある(もちろん高額な報酬が必要になるわけだが)。

 コンセッション方式について、与党側は「選択肢を増やしただけ」と言うが、選択すれば前述のボーナスが得られるので推奨していることは明白。自治体がそれぞれの事情に合った選択肢を冷静な判断で選択することの妨げになっている。

 ぶら下げられた大きなニンジンに目の色を変えて駆け出した首長や地方議員がすでに数多くいるが、公共水道を企業が長期間運営すると、どのようなことが起きるのかを慎重に考えるべきだろう。

「欧州のPFIと日本のPFIは違う。日本のPFIは儲かるしくみにはなっていない」

 という声もよく聞く一方で、

「儲からないPFIでは民間にメリットがない。コンセッションが広がるように、事業規模を拡大するなど儲かるPFIに変えていこう」

 という金融関係者の声もある。

 だが、ここは慎重になるべきだ。英国の失敗をみすみす繰り返す必要はない。