世界最大クリエイティブの祭典SXSWで障害乗り越え日本人VRダンサー優勝の快挙

SXSWで日本人VRダンサーが優勝した。photo by Tokikaze

 世界最大級のクリエイティブの祭典SXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト、以下サウスバイ)の今回の目玉は仮想空間だった。米オースティンで行われる国際ビジネスイベントがほぼ完全再現された。世界でも珍しい試みに関心が高まり、世界中からアバターに扮した参加者が集まっていた。そんななか、最終日に行われたアバター・ダンスコンテストで日本人VRダンサーが優勝の快挙を成し遂げた。それは日本のクリエイティビティに光が差すような瞬間だった。

目の前にバーチャルのオースティンの街が広がった今年のサウスバイ

 音楽、映画、テクノロジーのクリエイティブの祭典としてサウスバイは毎年3月に米テキサス州オースティンで開催されている。今年はコロナ禍につき現地開催は見送られるものの、3月16日~20日まで5日間にわたって充実したプログラムをオンライン上にラインナップ。世界中のアーティストが参加したライブ配信や、新進気鋭の独立系フィルムメーカー作品のスクリーニング、230を超えるビジネスカンファレンスが展開された。

 これら一部が実はバーチャル空間でも体験できる場が提供された。ヘッドマウントディスプレイのOculus Quest2などを装着すれば、目の前にバーチャルのオースティンの街が広がり、自前のアバターで、音楽ライブもカンファレンスもネットワーキングも、そして街歩きもできる世界を作り出した。ソーシャルVRプラットフォームの「VRChat」内に作られた「SXSW online XR」ワールドでそれを可能にした。構築したのはサウスバイとタッグを組んだフランスのスタートアップ企業VRrOOmだ。

バーチャルのオースティンの街が広がっていた。photo by pichikyo
バーチャルのオースティンの街が広がっていた。photo by pichikyo

 VR初心者ながら、筆者も話題のSXSWのVRの世界に入り、参加者に聞き込みを始めた。主にビジネス利用としての可能性を考える視察目的が多い。これを機にヘッドマウントディスプレイを購入したケースもよく聞かれた。国別ではアメリカ、欧州からの参加が中心で、実際のオースティンの街で行われるサウスバイのように日本人参加者も多数参加し、日本語も飛び交った。

 そんななか、参加者のひとりに北海道在住の日本人VRダンサーがいた。名前はyoikami(よいかみ/本名・吉田純成)。彼こそがSXSW online XRの主役へと躍り出た人物だった。

4年前にリハビリ代わりにVRダンスを始めたのがきっかけ

 実際にフィジカルで行われるサウスバイでは世界に打って出る音楽アーティストや独立系フィルムメーカー、スタートアップ企業の参加が多い。Twitterが世界中から注目を集めるきっかけを作ったのもサウスバイである。

 サウスバイ史上初の試みとなったVR上ではyoikamiのようなVRパフォーマーは珍しい存在だったが、最終日の3月20日(日本時間3月21日9時30分~)にサウスバイが公式企画したアバター・ダンスコンテスト(正式名称「XR Avatar Costume Contest+Dance Contest」)に挑もうと、参加したという。そもそも399ドル(約41,000円)のサウスバイ参加料はビジネスパーソンにとって元が取れる価格だが、個人で活動する者にとって高額とも言える。聞けば、彼の挑戦に共感したある日本人参加者から支援を受けて参加が実現している。

 yoikamiの存在はサウスバイのスタッフをはじめ、日本人VR参加者の間に知れ渡っていった。VR上でも表現力と熱意が不思議とリアルに伝わってくるからだ。ダンスコンテストに備えて、ミートアップの会場に現れた彼が即興でダンスを披露すると、会場の空気が一気に変わったほど。踊り始めたり、絵文字を使って感情を表現する各国の参加者が続出。その場にいた筆者は参加者同士の距離感が縮まった感覚を確かに覚えた。

VRダンサーのyoikami。photo by pichikyo
VRダンサーのyoikami。photo by pichikyo

yoikamiにVRダンサー活動を始めたきっかけを聞くと、その答えは意外でもあった。

「それまでVRにもダンスにも興味はなかったのですが、4年前にリハビリ代わりにVRダンスを始めました。これで動かなくなった身体が鍛えられると思ったんです。思い付きでした」。

 10代の頃は役者になることを夢見ていたこともあったという。現在27歳。僅か数年前、可能性がこれから広がっていくと思った矢先に、日常生活に影響が出るほど片麻痺が発症してしまった。それでも、地道に練習を積み重ね、技術を習得していく。

「副作用でボロボロになった身体は今でも見せられたものではありませんが、病院のリハビリステーションよりも、自宅でコントローラーを持って、仲間とみんなでリズムに乗って楽しんでいたら、身体も治ってくれて」。

 控え目に話しているが、並々ならぬ努力の結果だろう。頭にヘッドマウントディスプレイを被り、両手にコントローラー、腰と両足にトラッカーを付けて、アバターを自由自在に動かしながら、ダンス中に自らドローン撮影も生着替えもこなす正真正銘のVRパフォーマーへと昇華させている。そして、晴れの舞台であるサウスバイのアバター・ダンスコンテスト当日を迎える。

yoikamiの身体をひとつのスピーカーにして、これからも伝えていきたい

 バーチャル上のパラマウントシアターに颯爽と現れたyoikamiの衣装は和風モダン。踊り出すと、たおやかな扇子の手さばきと、片手倒立のアクロバットな動きに会場の参加者は再び圧倒される。独壇場だった。彼を上回るパフォーマーはその場におらず、激しいバトル戦とは言い難いものだったが、サウスバイ公式スタッフが「優勝者はyoikamiです」と宣言し、決定づけられた。

photo by Tokikaze
photo by Tokikaze

 歓喜に包まれるなか、yoikamiに(エア)マイクを向けると、「こんなデカいステージにまで立たせてもらって、ダンスして、みんなに凄いって言ってもらえるのはVRでしかできない経験です」と感動を言葉にし、こう続けた。

「ここVRのサウスバイにはいろいろなバックグラウンドを持った方が集まっています。ダンスは言葉も文化も飛び越えて、どこでも誰でも同じ人間であれば、できることです。こうしてパフォーマンスを披露させてもらって、何か伝わるものがあれば嬉しいです。何かしらの感情をこの場の皆さんと共感できたと思っています。音楽と共にyoikamiの身体をひとつのスピーカーにして、これからも伝えていきたいです。こんな機会に恵まれて本当にありがとうございました!」。

 あらゆる分野のクリエイターにチャンスを与えることをモットーとする歴史のあるサウスバイ。仮想空間でも今回、日本のクリエイティブ精神を見せつけることができ、yoikami自身にとっても、同じ日本人にも、どの国の人にも励まされることになったのではないか。また、未だ残るPTSD症状のため「外出するのはまだ怖い。でもVRだと問題ないです」とも明かすyoikami。VRがSF映画のような未来の世界ではなく、現実となった今、ダイバーシティ社会を実現した場で我々はもっと新たな可能性を見出すべきだと気づかせてもくれている。

(以下、サウスバイ・アバター・ダンスコンテスト優勝後にyoikami本人が投稿したTwitterとダンス動画。使用楽曲:Rather Be (箏/Koto cover) - Clean Bandit - TRiECHOES Collaborated with Ceramic Artist Takahiro Koga(C)TRiECHOES)

1975年生まれ。2003年から放送業界専門誌の放送ジャーナルでテレビ、ラジオ担当記者。国内外のドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。東洋経済オンライン、オリコン、マイナビ、日経クロストレンド、WIRED、講談社ミモレなど。得意分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威あるATP賞テレビグランプリの総務大臣賞審査員や、業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。

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